ラのゴジュウイチ「手詰まり」

「……しかし、敵さんの目的が分からんねぇ……」

 煙管の煙を吹かしながら、助野は染み染みと言った。

「他人を洗脳までして、組の利益を奪って事務所を破壊して、いったい何がしてぇってんだ」

「御手洗……山田太一は、自分たちのことを『正義』と称していました。そして、『悪』を排除すると……」

 劉生が思い出したかの様に言うと、助野はフフッと笑う。

「正義ねぇ……。じゃあ、さしずめ俺達は悪ってわけかい」

「組自体ではなく、組長さん自身が恨みを持たれていたりしませんか?」

 ヒヤヒヤする質問を劉生はぶつけてみたものだが、助野は気にした様子もなくただ笑ってみせた。

「狙いは俺で、俺に恨みを持つ他の組の構成員が仕掛けてきてるってことかい?」

「そういったことも、考えられませんかねぇ?」

「さぁな?」

 手詰まり状態であるから、少しでも良いので情報が欲しかった。その線から切り崩していけないものかと、劉生は次の言葉を待ったものである。

「……心当たりが多過ぎるわなぁ」

 自嘲気味に助野は笑ったものである。

 考えてみれば、それはそうかもしれない──。

 普段の素行を考えれば、他の組の構成員どころか一般人にまでも恨まれていそうである。

 あくまでも、勝手に失礼な想像であるが──とはいえ、そこから相手を絞っていくのは無理らしい。

 何とか突破口を見出そうとしたが、難しいらしい。


 劉生は残念そうに息を吐いた。


「まぁ、だとしたら気長に待ってりゃ良いんじゃねぇのか?」

「どういうことですか?」

「俺に恨みがあるってことは……別にこっちから何かしなくても、向こうから仕掛けてきてくれるってことじゃねぇのか? 事務所が襲撃されているのも……有難く考えりゃ、あちらさんから赴いて来てくれるって、ことじゃねぇか」

「親父……」

 助野の物言いに、サングラスの男は頭を抱えた。

「そりゃあ、良い方に捉え過ぎってもんですわ……」

「まぁ、俺から言わせれば、お前はもう少し落ち着けってぇんだ。この件に関しちゃ、焦り過ぎている様に見えるぜ?」

「そ、そうでっか? 気を付けますわ……」

 助野に指摘され、サングラスの男はシュンとなった。


 助野に相談したところで明確な答えは見付からなかったが──確かに助野の言うことも一理ある。

 相手の目的が助野であったなら待ってみるのも一つの手である。再び、暗黒街の闇の方から仕掛けてきてくれるかもしれないのであるから──。

 しかし、それに確証があるわけでもない。

 このまま時間ばかりが過ぎていくと、暗黒街の闇はより一層奥底へと隠れてしまうかもしれない。そうなれば──また黄泉との距離が離れてしまうだろう。


「黄泉……」


 悠長な考えを持つ男たちを前に──黄昏はそんな不安に駆られたものであった。

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