第62話 僕の家に招待します(言語チート:中の女性)
第二章 葡萄の国と聖女(62)
62.僕の家に招待します(言語チート:中の女性)
「HOME」
僕が呟くとルルさんの部屋がある木造の小屋の隣に、同じような大きさの見慣れた建物が現れた。
内部はもはや小屋とは呼べないほど広くなってるけどね。
それにしてもダッシュしなくても小屋を出せるって素晴らしい。
マッテオさんの葡萄農園にも1つ作っておけば良かった。
1人だと転移があるからいいかって思ってたけど、今後ルルさんのように行動を共にする人がいる場合、小屋もあちこちにあった方が便利だよね。
「ウィン、これは実物か、幻影か?」
「幻影じゃない、と思います?」
断言しかけて、迷う。
また語尾が微妙に疑問系に。
自分の能力の本質が理解できていないので、何事でも今ひとつあやふやになってしまう。
「いきなり小屋ができるなんて、そんな魔法は見たことも聞いたこともないぞ。」
はい、僕も同じですよ、ルルさん。
そして僕は言葉を続ける。
「さらにその中は異空間になってたりしますけど。」
「異空間? それは何だ?」
「さあ、何でしょう?」
「ウィン、ふざけてるのか?」
「いえ、いたって真面目です。説明は無理なのでとにかく中に入りましょう。百聞は一見に如かずです。」
ことわざを使ってしまってから違和感に気がついた。
これ、意味は通じてるのだろうか。
そしてさらなる疑問。
言葉ってどうなってるのかな。
英語とかも使ってますけど。
…ウィン様(はにかみ顔)、言語は双方向で意味が通じるようにオート翻訳されています…
完全に言語チートなんですね。
楽でありがたいけど。
あと、くどいようだけど顔の表情の説明とかいらないです。
表現を変えればいいってことじゃないので。
「じゃあ扉を開けますね。」
ルルさんにそう言ってから小屋の扉を開ける。
礼儀的には女性を先に通すべきだと思うが、今回は僕が先に入るべきだろう。
そう思っていると、ルルさんが何の躊躇も見せずにスタスタと先に小屋に入って行った。
僕は慌ててその後を追いかける。
「すごいな、ウィン。外見は小さい小屋なのに中はこんなに広いのか。これが『異空間』なのだな。」
ルルさんがリビングの中を見回しながらそう言った。
そして彼女の視線がある一点で止まる。
そこには大きめのダイニングテーブル。
従魔全員がお行儀良く席に着いている。
「ただいま。と言っても昨日ぶりだけど。」
僕が右手を上げて従魔たちに声をかけると、従魔たちはいっせいに右手や右前足や足を上げて応えた。
ルルさんは再び固まっている。
でも復活するのも早かった。
「ウィン、ここは天国か?」
「いえ、僕の家です。」
「あれ・・あの魔物たちは全部・・全員従魔なのか?」
「はい。」
「そして全員星3つ?」
「そうです。」
「やっぱりここは天国だ。」
ルルさんの目が怪しげに輝いている。
そんな目をしても、まだ戦わせませんよ。
従魔たちの承諾も必要だし。
それに万が一倒されて消えちゃう可能性があるなら、そもそも戦闘は許可しません。
「ルルさん、全員紹介するのでとりあえず椅子に座ってください。」
僕はルルさんの腕を取り、ダイニングテーブルの椅子まで案内する。
そしてそこに座らせた。
「まずは先ほど紹介しましたけど、タコさん。クラーケ・ミニマです。」
タコさんが2本の足で丸を作る。
「次にウサくん。レプス・ミニマです。」
ウサくんは何かをモグモグしながら右前足を上げた。
「それからベル・スライムのスラちゃん。」
スラちゃんはプルルンと体を震わせる。
「カニバラス・ミニマのコンちゃんとハニー・ミニマのハニちゃん。」
コンちゃんは右手を蔓にして軽く振り、ハニちゃんはブ〜ンと羽を震わせた。
「ラクネ・ミニマのラクちゃん。」
ラクちゃんは鎌をクロスさせる。
「最後にテディ・ミニマのディーくん。」
「ディーくんだよ〜。よろしくね〜。」
ディーくんは右前足を上げて挨拶した。
あっこれまずいやつかも。
先に説明したほうがよかったかな、ディーくんがしゃべれるって。
「ウィン、今、魔物がしゃべった気がするのだが・・・」
「はい、ディーくんはしゃべります。」
キッパリ断言してみる。
「いや、魔物はしゃべらないだろう。」
「そうなんですか?」
今度はとぼけてみる。
やっぱり普通は魔物はしゃべらないらしい。
「・・・ドラゴンは人語を解すると聞いたことはあるが・・・」
「じゃあ問題ないですね。」
「・・・」
ルルさんは考え込んでしまった。
でもそういうものだと受け入れてもらうしかない。
事実としてディーくんはしゃべるので。
「どうやら私の覚悟が足りなかったようだ。」
「覚悟?」
「ウィンといると、こういうことが当たり前に起こるのだな。」
「当たり前がよく分からないので・・・。これ以上はやめておきます?」
後悔されるのも嫌なので一応確認しておく。
「バカを言うな。私はウィンに一生ついて行くぞ。」
はい、爆弾発言、いただきました。
恋愛色は一切ないのに、字面だけ見るととんでもないですね。
欲望(戦闘欲)にまみれた目でそんなことを言われると、逃げ出したくなるんですけど。
「もう戦ってもいいか?」
「ダメです。」
「なぜだ?」
「物事には手順ってものがあるんです。」
「戦闘にそんなものはない。」
溜息ついてもいいですかね。
女性の前で溜息つくなんて失礼過ぎるけど。
何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
そこに強い者がいるからってことなのか。
そんなことを考えていると後ろから声がかかった。
「戦ってあげてもいいよ〜。」
確認するまでもなく、ディーくんの声だった。
ディーくん、ちょっと待ってくれるかな。
ダメ? 武士に二言は無い?
そうですか、ディーくん、武士だったんだね。
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