第61話 従魔を紹介します(再召喚:タコさん)

第二章 葡萄の国と聖女(61)



61.従魔を紹介します(再召喚:タコさん)



「従魔を呼び出しますね。」


ルルさんの「聖女問題」を先送りにした後、部屋の中で従魔たちを呼び出すことにした。

ただ、ルルさんの部屋は狭い上に武器や防具がいっぱいあって、一度に7人を呼び出すのはちょっと無理そう。

だから1人ずつ呼び出して順番に紹介することにした。


「タコさん、召喚!」


トップバッターはタコさん。

一応従魔たちの序列に配慮する。


光と共にルルさんのベッドの上に現れたタコさんは、一度飛び上がってくるりと回転して着地した。

それ、登場のポーズなのかな?


(あるじ、お呼びなの?)


タコさんが頭を傾げて念話で尋ねてくる。


「そうだよ。紹介したい人がいるんだ。こちらルルさん。ルルさん、こちら僕の従魔のタコさん。」


タコさんがルルさんの方を見る。

ルルさんは僕の隣の椅子に座ったまま反応がない。

目を見開いたまま固まっているようだ。


タコさんが「初めまして」って感じで足を上げると、ルルさんがビクッと反応した。

そしてようやく言葉を発した。


「ウィン、これは何だ?」

「これ?」


ルルさんに悪気はないだろうけど、タコさんに対する「これ」呼びにちょっとイラッとする。


「すまない。ちょっとビックリしてしまって・・・。この従魔の種類を教えて欲しい。」

「タコさんは、クラーケ・ミニマです。」

「クラーケ・ミニマ? 聞いたことがないな。クラーケンの幼体か?でもあれは白いはずだ。」

「幼体じゃないと思います・・・よ?。魔物のことはあまり詳しくないですけど。」

「これで星3つなのか?」

「鑑定によるとそうですね。」

「今すぐ戦っていいか?」

「ダメです。」

「えっ? なぜ?」


ルルさん相変わらずいきなり過ぎ。

しかもダメ出ししたら信じられないって顔してるし。

よっぽど戦うのが好きなんだろうけど、教会の中で戦っちゃダメでしょう。

しかるべき場所で模擬戦なら許可してもいいけどね。


「今日はとりあえず紹介だけです。」

「ウィンは・・・意地悪なのか?」


はっ?

意地悪?

ルルさんより少し常識があるだけです。

この世界の常識かと言われると自信ないけど。


「ちなみにウィン、この魔物・・・従魔とは、どこで遭遇・・・出会った?」


ルルさん、僕がちょっとイラッとしたことに気付いて、言葉を選んでる。

その辺は敏感に察知するのに、戦闘関係だと周りが見えなくなるんですね。


「え〜と、島、かな?」

「島? それはどこにある?」

「どこかと言われるとちょっと・・・分からないとしか・・」

「なるほど、冒険者の秘匿事項か。」


そういうわけじゃないんだけど、どう説明すればいいのか。

従魔を紹介してる時点で別に隠すつもりはないんだよね。

ルルさんを島に連れて行く方法があれば・・・


…あの、すみませんが・・・…


困っていると「中の女性」からメッセージが来た。


(どうしたの?)


声に出して反応するとルルさんに変な人だと思われそうなので、心の中で対応する。


…方法なら、ありますが・・・…


(あるの?)


…HOMEで小屋を出して頂ければ、そこから行けます…


「えっ、そうなの?」


思わず叫んでしまった。

そう言われてみればそうか。

あの小屋、どこにでも作れてどこから入っても扉の中は同じ空間だった。

でも誰でも入れるんだろうか?


…HOMEクエストの報酬である小屋には、ウィン様(ポッ=赤面)が許可した者であれば出入りできます…


入れるのか。

それはありがたい。

まあ誰でも彼でも許可するつもりはないけどね。

ところで「中の女性」、僕の呼び方が「ウィン様」になっているのはまだいいとして、(ポッ=赤面)とかの説明は省いて下さい。

強くお願いします。


「ウィン、どうかしたのか?」


いきなり叫んだり、黙り込んだりしたのでルルさんが訝しげに訊いてきた。

僕はルルさんに単刀直入に話すことにした。


「ルルさん、一緒に島に行きますか?」

「もちろん。」

「即答ですね。」

「どこに迷う要素がある?」

「いや、その島はどこにあるのかとか、どれくらい遠いのかとか、どうやって行くのかとか、どんな魔物がいるのかとか、いろいろ事前に確認することがあるんじゃないですか?」

「必要ない。」

「どうしてですか?」

「ウィンが行くなら一緒に行く。それだけだ。」


他の人が聞いたらまた勘違いしそうな答え方だけど、要は一緒に行けば強い魔物と戦えそうだからどこでも行くってことだろう。

男前というか、単純というか、ルルさんはまったくブレないね。


僕はベッドの上でクネクネしているタコさんの方を向いて、予定変更を告げる。


「タコさん、呼び出しておいて悪いけど召喚解除するね。それで島に戻ったら、小屋にみんなを集めておいてくれる? 少ししたら行くから。」


(了解なの。みんな集めておくの。)


「お願いするね。じゃあ、召喚解除。」


タコさんがクルクル回りながら光に包まれて消えた。

僕はルルさんを見てこれからすることを説明する。


「ルルさん、従魔をこの部屋に召喚するのは止めました。その代わりに島に行って従魔全員を紹介しようと思います。いいですか?」

「問題ない。」

「では部屋の外に出ましょう。」

「分かった。」


二人で部屋を出て教会のバックヤードに立つ。

ルルさんの部屋がある小屋の隣を指し示して、僕はルルさんに尋ねる。


「ここに小屋を作っても構いませんか?」

「構わない。」

「教会の人に怒られませんか?」

「聖女は怒られない。」


ルルさん、普通に教会の人に怒られているような気がするけど、まあいいか。

怒られたら謝ればいいし、小屋はいつでも消せるし。

ということでこの世界で一つ目の小屋を出そう。


「HOME」


島のマイホームを思い浮かべながらそう呟くと、一瞬で目の前に見慣れた小屋が現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る