第46話 薬草の価値を教えてもらいます(money)

第二章 葡萄の国と聖女(46)



46.薬草の価値を教えてもらいます(money)



「お金、持ってないんじゃないのか?」


「お金は、ありません。」


マッテオさんの質問に素直に答える。

そうだ、お金がない。

島で自給自足してたのですっかり忘れていた。

大事だよね、お金。


「勘違いしないでくれよ。別にウィン君からお金を取ろうとかじゃないからな。ただこれから何をするにせよ、必要になってくるだろう?」


マッテオさんの言う通りだ。

人間社会ではお金がなければ何もできない。

まあ、転移があるし、小屋もあるし、食と住には困らない。

でも世界を楽しもうと思えば、何をするにもお金はかかる。

美味しいものも食べたいし、美味しいお酒も飲みたい。

宿屋にも泊まってみたいし、気になる物があれば買いたい。

馬車の旅とか、船の旅とかもしてみたい。

どうすればお金を稼げるだろうか。


「すみません。お金の稼ぎ方を教えてください。」


ストレートに訊いてみる。

いくつか想像はできるけど、訊いたほうが早いだろう。


「そうだな。他の土地からやって来て特に手に職がない場合は、やっぱり冒険者だろうな。ギルドに登録すれば身分証にもなるし、戦えなくても、街中の依頼仕事もある。多少でも戦えるなら魔物討伐や素材採集もある。」


やっぱりそうなるよね。

冒険者も冒険者ギルドもあるみたいだし。


「うちで住み込みで働けばいいんじゃないかしら。」


しばらく黙っていたアリーチェさんがそう言った。

その言葉にちょっと驚いてしまう。


「それなら大歓迎だが、ウィン君、ずっとここにいるわけにもいかないだろう?」


続いてのマッテオさんの言葉にも驚く。

そんなことを簡単に提案してもらえるなんて思ってもなかった。

そんなに簡単に他人を受け入れて大丈夫なのかと、逆に心配してしまう。


「こんな素性の知れない人間に、そんなこと・・・」

「何言ってるんだい? 素性とか関係ないだろう。こうして直接君を見てるんだし。」

「そうよ。よく知ってる人間にだって騙される時は騙されるのよ。だから自分で判断して、あとは自己責任よ。」


ちょっと泣けてきた。

この世界の人たちがみんなこうだとは思わないけど、最初に出会ったのがこの二人で良かった。

選択肢もあまりないので素直に好意に甘えることにする。

                     

「しばらく、お世話になってもいいですか?」

「もちろんよ。ねえ、あなた?」

「いくらでも好きなだけいていいぞ。」

 

二人はにっこり笑ってそう言ってくれた。


「もちろんお手伝いはさせて下さい。でもお金はいりません。ギルドの場所を教えてもらえれば、明日にでも登録して依頼を探します。」

「そんなに慌てなくても、ゆっくりでいいんだぞ。」

「いえ、早く色々なことを覚えたいので。」

「でもウィン君、戦えるの?」


アリーチェさんからの質問にどう答えるか少し考える。


「ある程度、戦えます。戦い方の説明がちょっと難しいんですが。」

「それは言わなくていいぞ。そういうものは商売上の秘密ってやつだ。職人の技術だって、料理人のレシピだって、肝の部分は隠しておくもんだ。」


二人に隠し事はしたくないけど、隠せと言われてるのに無理矢理説明するのもちょっと違うかなと思う。

おいおいタイミングを見て説明していこう。


そこである事を思いついた。

確かマッテオさんのスキルに植物鑑定があったはず。

「薬草」って、売れないのかな。

                     

テーブルの下で「薬草」を1束、クエストで出す。

そしてそれをテーブルの上に置く。


「マッテオさん、この薬草って売れますか?」


マッテオさんは、薬草をじっと見る。

どこから出したのかとか、尋ねもしない。

ゆっくり時間をかけて観察した後、薬草の束を手に取って、葉の部分を裏返してみたり、匂いを嗅いだりしている。


手にしていた薬草の束をテーブルの上に戻し、マッテオさんが僕のほうを見る。

あんなにワインを飲んだのに、酔っ払ってる様子は微塵もない。


「この薬草は、初めて見るな。だから値段は分からない。でも一つだけ言えることは、今まで見た中で一番品質がいい。」

「普通の薬草だといくらぐらいなんですか?」

「その辺の草原とかに生えている薬草で10本1束で銅貨1枚が相場だな。森の奥で取れる品質の良いもので1束銅貨2枚かな。それ以上のものは正直、ギルドで聞かないと分からないな。」


そこまで聞いて、根本的に貨幣価値が分からないことに気がついた。

もちろん世界が異なれば、物の価値も異なるし、前の世界の基準では測れないことも多いと思う。

でもだからこそ、この世界で生きていくために、情報はたくさん集めないといけない。


「基本的なことですみませんが、お金の種類を教えてもらえませんか?」

「分かった。でもいちいち謝らなくていい。何でも訊いていいと言っただろう。」


マッテオさんは、そう言うと、一度カウンターの方に行き、貨幣を何枚か持って戻ってきた。


「この国で一番小さい額の貨幣がこれで鉄貨だ。お店で簡単な食事をするとだいたい鉄貨5枚くらいだな。」


持ってきた貨幣をテーブルに並べながら、マッテオさんが説明してくれる。

マッテオさんの説明によると、鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚となるらしい。

10進法で覚えやすい。

テーブルの上には、鉄貨、銅貨、銀貨の3種類が並んでいる。

普通に暮らしていると、扱うのはせいぜい銀貨までで、金貨はたまに見る程度、白金貨になると貴族か大商人でもない限り見ることもないらしい。


「ところでウィン君。君にお願いがあるんだが、聞いてくれるか?」


お金の説明が終わると、マッテオさんが僕の顔を見ながらそう言った。


「僕にですか?何でしょう?」

「その薬草の束を売って欲しいんだが、まだ持ってるかい?」

「この薬草を、ですか?」

「そうだよ。ここに銀貨が1枚ある。仮にその薬草1束が銅貨2枚として、5束あればすべて買い取りたい。もちろん、ギルドで確認して値段に差があれば、差額は追加で支払うぞ。」


マッテオさんの顔を見る。

相変わらずのニコニコ顔だ。

その隣でアリーチェさんも笑っている。

この提案が純粋な取引だと思うほど僕も馬鹿じゃない。

所持金がないことを心配しての提案だろう。

もちろん、初めて見る薬草に対する興味も少しはあると思うけど。


「分かりました。ありがとうございます。」


僕は頭を下げてお礼を言い、テーブルの下から新たに4束の薬草を取り出して、マッテオさんの前に置いた。


「ウィンくんって、マジシャンみたいね。」


アリーチェさんが無邪気な笑顔でコロコロ笑った。

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