第39話 ある日、森の中(テディ・ミニマ)

第一章 はじまりの島(39)



39.ある日、森の中(テディ・ミニマ)



従魔が誰もいない状態というのはかなり寂しい。

小屋の中ならまだしも、森の中では強くそう感じる。

単独の実戦訓練の時もウサくんが一緒だったからね。

今回は本当に一人きり。


コンちゃんとハニちゃんとラクちゃんがいないので、魔物たちが普通に襲ってくるかもしれない。

一応一人でも対応はできると思うけど。

索敵担当のスラちゃんもいないので、周囲を警戒しながら森の中をゆっくり進んで行く。


結果的には魔物に一体も出会わないうちに島の中央にある台地の手前に辿り着いた。

今まできちんと認識していなかったけど、近くで見ると台地というより、森の中に置かれた巨大な一枚の岩のようだ。


目の前には岩の断崖絶壁がある。

とても登れそうにない。

左右を見てもその壁が続いている。

とりあえず壁沿いを右回りに辿ってみることにする。


岩山と森はかなり接近しているので、絶壁に沿って進むとほとんど森の中を歩くことになる。

木々の間から注意深く見ているけど、登れそうなポイントは全く見つからない。


しばらく進んでいると前方に何かの気配がした。

スラちゃん程ではないけど、森の中での気配察知はある程度できるようになっている。


警戒しながらゆっくり進むと突然木々が途切れた。

木の陰からそっと覗くと、そこにはポッカリと空いた空間があった。

そこだけ木が存在せず、円形に光が差し込んでいる。


(あれは・・・ぬいぐるみ?)


そこには、小型のクマがいた。

たぶんクマだと思う。

僕の腰くらいの大きさだけど。

遠くから見ると動くぬいぐるみにしか見えない。

そしてなぜかシャドーボクシングをしている。



○ テディ・ミニマ ☆☆☆

 体型 : 小型

 体色 : 茶色(激怒時 紅色)

 食性 : 雑食

 生息地: 森・山

 特徴 : 猛獣系熊型

      動きが速く、力が強い。

      短距離転移ができる。

      温厚だが食事の邪魔をすると激怒する。

 特技 : 剛腕・敏捷・激怒・転移(短)・剣術(上)

                     


○クエスト : TAME

 報酬   : テディ・ミニマ

 達成目標 : 1体倒せ



○クエスト : テディ・ミニマを倒せ

 報酬   : 転移陣

 達成目標 : テディ・ミニマ(1体)



今回は1体目を倒す前に魔物情報が出た。

しかも突っ込み所が満載。

特技を見るとまったく勝てる気がしない。

剛腕に剣術(上)?

(上)は上級ってことだよね。

素手でも武器でも強いってこと?

しかも、「転移(短)」って。        

瞬殺される未来が見える。


あと、達成目標が1体。

これ、滅茶苦茶強いってことだよね。

この魔物に従魔たちの援護なしで挑めってこと?


さらには討伐報酬が「転移陣」。

転移陣って、一瞬でどこかに移動できるやつだよね。

獲得したら使い方が分かるんだろうか。

とにかく、これ・・・欲しい。


森から出て行く前に作戦を考えることにする。

幸い事前に情報を見ることができたので、木の陰に隠れたままでじっくり時間をかけよう。


脳内シミュレーション。


炎で燃やす。

転移で避けられそう。

氷で固める。

転移で避けられそう。

爆発で吹き飛ばす。

転移で避けられそう。

溶岩の乱れ打ち。

やっぱり転移で避けられそう。

石壁で防御。

転移で抜けて、剛腕でノックアウト。


ダメだ。                

カケラも対策が見つからない。

「温厚」だから話し合いで決着とか。

それじゃあ「倒した」ことにならないよな。


考えても答えが出ないので、思考がずるいほうへ傾いていく。

正々堂々とは程遠いけど、ここから隠れたままクエストで攻撃しようかな。


そう思った瞬間、テディ・ミニマがこちらを見た。

ステップを踏んで、シャドーボクシングを続けながら。


(気づかれた。)


攻撃する意識を少し持っただけで、察知されたような感じだった。

気づかれた以上、隠れていても仕方ないよね。

無駄な抵抗はやめよう。

僕は諦めて木の陰から明るい空間へ足を踏み出した。


今までの魔物たちは遭遇すると問答無用で攻撃してきた。

でもテディ・ミニマは少し違った。


すぐ戦闘になるかと身構えているこちらに対して、まったく戦意を見せなかった。          

シャドーボクシングを止めて、首を傾げてこちらを見つめている。


(可愛いのに強敵って、反則だよな。)


しばらくお互いに見つめ合った後、テディ・ミニマはこちらに向かってトコトコ歩き出した。

軽く散歩にでも行くように。

本来ならここで先制攻撃をするべきなんだろう。

しかし何の敵意もなく自然に歩いてくる小熊を、いきなり燃え上がらせたり吹っ飛ばしたり溶かしたりするのは、人としてダメなんじゃないかな、たぶん。


テディ・ミニマは近くまで来ると、つぶらな瞳でこちらを見上げてきた。

そして右手を差し出した。

握手を求めるように。


テディ・ミニマの大きさは、こちらの腰くらいまでしかない。

そのままでは握手できないので、しゃがんで高さを合わせ右手で握手をした。


…クエスト改変だ…


ここで「中のヒト」が登場。

クエスト改変?

何だろう、それ?

テディ・ミニマとの握手がポイントだったのかな?

台詞に続いて表示されるクエストを確認する。



○クエスト(改) : TAME

 報酬      : テディ・ミニマ

 達成目標    : テディ・ミニマの訓練を受ける(10日)


○クエスト(改) : テディ・ミニマの訓練を受けろ

 報酬      : 転移陣

 達成目標    : テディ・ミニマの訓練を受ける(10日)



一度表示されたクエストの内容が変わることもあるんだね。

テディ・ミニマの訓練を受けるだけで従魔と転移陣を獲得できる。

でもこれって救済策なのかな?


戦わずに済んでホッとしたような・・・

もっと大変なことになりそうな・・・

とても微妙な気分です。



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