第13話 住む場所は大事(クエスト:HOME)
第一章 はじまりの島(13)
13. 住む場所は大事(クエスト:HOME)
朝と同じように、お腹の上の重みで目が覚めた。
もちろんそこにはタコさん。
太陽は力尽きかけて夕闇が拡がり始めている。
軽く昼寝のつもりが、かなりの時間寝てしまったようだ。
クエストのし過ぎで疲れていたのかもしれない。
(昼寝は気持ちいいな。)
寝転がったままで、そんなことを考えていると、タコさんに足で頬をペシペシされた。
タコさんは、ペシペシした足をそのまま横に伸ばす。
既視感。
ゆっくり起き上がり、タコさんの指す方を見ると、砂の上に何か細長い生き物が3体横たわっていた。
○サーベル・ヘッド(☆☆)
体型 : 小型
体色 : 銀色
食性 : 肉食(自分より大きい獲物も襲う)
生息地: 海全般に生息。
特徴 : 高速で泳ぎ、サーベルに似た頭部で相手を切り刻む。
長い体を相手に巻きつけることもできる。
可食。(塩焼き・煮付け)
特技 : 切断・水流操作
魔物鑑定が発動した。
これ、ちょっと怖すぎる。
相手に巻きつくとか特技が切断とか。
こんなのがどこにでもいるなら、海なんて入れなくない?
いやむしろ、これを3体も捕獲できるタコさんって・・・。
でもこれ、よく見るとアレじゃないのかな。
(太刀・・)
…サーベル・ヘッドだ(怒)…
最後まで思う前にかぶせられました。
「中のヒト」、しばらく静かだと思ってたのに。
僕のお腹の上でタコさんが、期待のこもった眼差しで見上げてくる。
晩飯作れってことですよね。
まあ炎で焼くだけだけどね。
そう思っていると視界の中をメッセージが流れた。
…その前に、走れ…
珍しく「中のヒト」から指示が出た。
走れって、どういう意味だろう?
よく見ると視界の左すみに、小さな四角がカーソルのように点滅している。
(なんだろう、これ?)
…四角を押せ…
再度、「中のヒト」から指示が来たので従ってみる。
四角い点滅をポチッと押してみた(イメージで)。
○クエスト : 家が欲しい(HOME)
報酬 : 小屋
達成目標 : 5秒間ダッシュ(10本)
知らないうちにクエストが成立している。
HOMEクエスト?
(そう言えば・・・)
そこでなんとなく思い出す。
昼間、眠りに落ちる直前に何か見えた気がする。
確かあの時、外じゃなくて家の中で眠りたいとか考えたんだっけ。
それでクエストが出たけど、そのまま寝ちゃったってこと?
クエストを放置すると点滅カーソルみたいになるのか。
でもとにかく雨風をしのぐ場所は大事。
小屋が手に入るのなら頑張らないと。
(ダッシュって、ゆっくりじゃダメだっけ?)
ゆっくり走るとジョギングで、ダッシュは全力疾走だよね。
5秒間の全力疾走を10本か。
走ることに慣れてないとちょっときつそう。
ということで、夕暮れの砂浜を全力で走る。
砂浜ダッシュはかなり足腰に負担がかかる。
走りながら草原の方が楽だったと気づいたけど、場所を変えるのも面倒なのでそのままダッシュした。
途中からタコさんも一緒に走り出し、気づいたらスラちゃんも参加していた。
(それにしても君たち、サイズの割に走るの早過ぎない?『逃げ足』の効果?)
砂浜ダッシュを5往復して、砂の上に倒れる。
この体、体力があるほうだと思ってたけどさすがに疲れた。
瞬発力はイマイチなのかもしれない。
タコさんとスラちゃんも横でコロコロしてるけど、君たち絶対に疲れてないよね。
しばらく倒れたまま休憩して、呼吸が落ち着いたところで砂浜に座り直す。
クエストで水を出して飲んでいると、タコさんが「カモ〜ン」って感じのジェスチャーをする。
仕方がないのでタコさんに「水バシャン」をしてあげた。
その横で飛び跳ねてるスラちゃんにもね。
(あれ、何か忘れてるような・・・)
しばらくタコさんとスラちゃんと遊んでいて、肝心なことを思い出した。
立ち上がって周りを見回すと、浜辺と草原の境目辺りに、ポツンと木造の小屋が建っていた。
この島で初めて目にする人工物だった。
* * * * *
〜(独白)〜
小屋の中にいます。
狭いです。
そして何もありません。
雨風はしのげそうですが・・・
クエスト報酬として出現した小屋の扉を開けてみた。
タコさんとウサくんとスラちゃんが、一緒に中を覗き込んでいる。
ウサくん、いつの間に現れたのかな?
小屋の内部には光源がない。
外からの光でかろうじて見える程度。
確認のため中に入ってみたけど屋根と壁と床があるだけだった。
(ないよりはいいけど、もう少しなんとかならないのかな。窓とか、テーブルとか、椅子とか、ベッドとか。広さももう少し欲しいよね。)
そんなことを思っていると、一斉にクエストが表示された。
○クエスト : 窓が欲しい(HOME)
報酬 : 窓
達成目標 : 5秒間ダッシュ(10本)
○クエスト : テーブルが欲しい(HOME)
報酬 : テーブル
達成目標 : 5秒間ダッシュ(10本)
○クエスト : 椅子が欲しい(HOME)
報酬 : 椅子
達成目標 : 5秒間ダッシュ(10本)
○クエスト : ベッドが欲しい(HOME)
報酬 : ベッド
達成目標 : 5秒間ダッシュ(10本)
○クエスト : 部屋を広くしたい(HOME)
報酬 : 部屋拡大(基本×2)
達成目標 : 7秒間ダッシュ(10本)
はい、いっぱい出ました。
同系統(HOME系)クエストってことかな。
なぜか最後だけダッシュの秒数が微妙に長い。
「中のヒト」、鬼コーチですか。
快適さが増すことには異論はないので、小屋から外に出て走ることにした。
体力がどこまで保つか分からないけど、住環境は大事だからね。
もちろん今回は草原を走ることにする。
さすがに学習しました。
タコさんとウサくんとスラちゃんは、3人で仲良く並んで座っている。
一緒に走るのは、もう飽きたらしい。
それぞれの前には一応、おにぎりと薬草と小石を供えておいた。
(一度に全部こなすのは無理かな。)
5秒間ダッシュが40本と7秒間ダッシュが10本。
砂浜より楽だと言っても、限界はある。
そんなふうに思いながら走り出してみると、意外と走れることに気がついた。
むしろ走れば走るほど体が軽くなってくる感じがする。
身体能力の成長率みたいなものが高いってっことかもしれない。
結局、途中で休憩も取らずに規定回数のダッシュを終えることができた。
さすがに結構疲れたけどね。
タコさんが近づいてきて、ポンポンと腰の辺りを叩いてくる。
ご苦労様って感じかな。
太陽は台地の向こう側に隠れ、もうすぐ全てが闇に包まれる。
かろうじて視認できる小屋は、見た目には何も変わったように見えない。
でも扉を開き中に入ると、内部はかなり広くなっていた。
外見と内部の差に違和感はあるけど、そんなことは今さら気にしない。
小屋の中をチェックすると、テーブル、椅子、ベッド、窓、全て問題なくそろっていた。
これからは、家の中で眠れる。
疲れたのでゆっくり寝よう。
そう思って、ベッドに向かいかけて大事なことを忘れていることに気がついた。
(太刀魚・・・じゃなくて、サーベル・ヘッド・・・)
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