第12話 冷静に戻るまで時間がかかりました(ウサくん:HEAL)

第一章 はじまりの島(12)



12.冷静に戻るまで時間がかかりました(ウサくん:HEAL)



タコさんの足が燃えている。

驚き過ぎて咄嗟に反応できない。

タコさん本人も、目を丸くして固まっている。


(消さないと・・・)


焦りながらそう考えた瞬間、タコさんの真上に水の塊が現れ、バシャンという感じでタコさんの全身に落ちた。

無意識に「水」のクエストを発動していたようだ。


海の水では消えなかった火が簡単に消えた。

慌ててタコさんに駆け寄る。

燃えた足は黒く焦げてしまっている。


(ミスった・・・)


検証にのめり込み過ぎてしまった。

炎を出す場所が近過ぎた。

もっと周囲に気を配るべきだった。

後悔だけが頭の中をぐるぐる回る。


(・・・どうしたらいい。)


タコさんの横に膝をついて、タコさんに触れることもできず、ただ呆然としてしまう。

タコさんは、黒く焦げて干からびたようになっている自分の足を怪訝な顔で見つめている。


するとウサくんがモソモソと動き出した。

タコさんの方に近づいていく。

片方の耳でタコさんにトントンとした後、自分のツノをタコさんの焦げた足に押し当てた。


しばらくすると粒状の光がウサくんのツノから流れ出す。

そしてその光の粒がタコさんの足を包み込んでいく。

見る見るうちに黒かった部分の色が薄れていき、光の粒が消える頃にはタコさんの足は元の状態に戻っていた。


この島で目覚めてから初めて激しく動揺した。

自分に関する記憶がないので、自分がどんな性格なのかは分からない。

冷静な方なのか、情熱的なのか。

でもさすがに自分のせいで仲間を燃え上がらせるというのは、かなり

の衝撃だった。


「ウサくん、本当にありがとう。タコさん、本当にごめんなさい。」


ウサくんとタコさんに向かって頭を下げた。

涙目になってたかもしれない。


ウサくんは何事もなかったかのように、また薬草をモグモグしている。

タコさんは元に戻った足を見て、その足でウサくんの頭をポンポンしている。

それからこちらを向いて治った足を軽くあげる。


(ほら、大丈夫なの。心配ないの。)


タコさんからそんな感情が流れ込んできた。

それを感じた瞬間、自分の目から涙が溢れるのが分かった。



   *   *   *   *   *



砂浜に座ってボーッと海を見ている。

心を落ち着かせるのにかなり時間がかかった。

タコさんとウサくんとスラちゃんは、おにぎりと薬草と小石をパクパク、モグモグ、シュワシュワしている。


先程の出来事を反省しつつ起こったことを確認してみる。

どうやら「水」クエストの報酬はイメージで変わるようだ。

いつもはグラスに入った水が出るのに、咄嗟に火を消そうとした時には水の塊が出た。


それまでは「飲み水」ばかり意識していたので、グラスに入った水が出続けたのだろう。

試してみると炎の場合と同じように、指定した場所に水の塊を出すことができた。


水クエストでいろいろ試していると、タコさんとスラちゃんが参戦してきた。


自分の足に火がついて焦げたにも関わらず、タコさんは「水バシャン」が気に入ったらしく、頭から水をかけてくれと身振り足振りで懇願してくる。


自分が失敗した負い目もあって、タコさんのお願いに応えていると、楽しそうなタコさんを見てベルちゃんが体を震わせて参加要請。


仕方がないのでタコさんとベルちゃんを横並びにして、交互に「水バシャン」を繰り返している。


ウサくんは我関せずで、薬草をモグモグしている。


(いい加減飽きないのかなぁ。)


「水バシャン」を要求し続けるタコさんとスラちゃんを見ながら、

水クエストを繰り返す。


タコさんは、クネクネしたりクルクル回ったりしながら水を受けている。

ベルちゃんは水が当たる度、いろんな形に体を変形している。


「水バシャン」の連打に心身ともに疲れ始めた頃、視界の中でクエスト表示が光った。



○クエスト : WATER

 報酬   : 水(小)(NO LIMIT 個数)

 カウント : 100



すっかり忘れてたけど、100回でクエストの表示が変わるんだった。

これで「水」と「炎」はそれぞれカウント100を超えた。

表示も「WATER」と「FIRE」になった。

自分の中では「水クエスト」「炎クエスト」と呼んでるけどね。


カウントがあるということは、どこかでまた変化(進化?)するかもしれない。

どこで変わるのかわからないけど、楽しみにしておこう。


そしてもうひとつのクエストも100を越えた。



○クエスト : STONE

 報酬   : 石(小)(NO LIMIT 個数)

 カウント : 100



砂浜の上に小石の山ができている。

まあ腐るものでもないしいいかな。

置いておけば、そのうちベルちゃんが食べるだろうし。


おにぎりと薬草は、今のところは自然達成待ち。

いくらでも出せるといっても無駄にはしたくないからね。


100人の孤児におにぎりを配るとか。

ギルドに薬草を100束納めるとか。

有意義な活用方法が見つかれば、その時にまた考えよう。


「TAME」は、数打ちする対象がいないので検証できない。

数打ちできるかどうかも分からないけどね。

可能性としてはウサくんの仲間とか。

あとは森の中にいる何かとか。


森ね。

あまり考えないようにしてたけど森にはいつ入ろうかな。


「炎」と「水」と「石」で戦えるんだろうか。

まだ一度も中に入ったことはないけど、戦う術もなく進んではいけないような気がする。


でも、いつまでも同じ場所に留まり続けるのもダメだ。

人生は前進あるのみ。

まあ前進といっても、ここ、丸い島だけどね。


考え事をしてると、少し眠くなってきた。

クエストを連発していたので疲れたのかもしれない。

太陽はまだ、盛りを越えたくらいで、ぽかぽかして眠気を誘う。

昼寝時かな?


ウサくんは薬草を食べ終えて、いつの間にかいなくなってる。

「影潜り」したのかも。


タコさんは屈伸運動のようなものをして、「じゃあ」って感じで足を上げて海へと真っ直ぐ走り去った。


スラちゃんは岩場へ戻らず、側に居てくれるようだ。

なぜならそこに小石の山があるから。


耳に波の音、背中に砂の感触、頬に緩い風。

ウトウトして、意識の糸が切れそうになって、最後に無意識に浮かんだ思い。


(家の中で眠りたい・・・)



 ○クエスト   家が・・・



何かが視界をよぎった気がしたけど・・・。

そのまま眠りに落ちた。

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