第21話:英雄の中の少女
「──とまぁ、そんな感じですね」
「よく分かんねぇけど、オレも火属性の気持ちになれば火の力を強くできるってことか?」
アルーインさんが俺の指導によって特殊スキルを獲得した時のことを話し終わると、アダムはシンプルではあるものの、なんとなくの理解をしてくれたみたいだ。
「それぐらいの認識で考えた方が上手くいくかもですね。というか! アダムさん! 風属性使うんですね! 俺、びっくりしました……まさかロブレの対人最強の男が風属性を使うなんて思ってなかったから……」
「あぁ、イクシード・ファイアストームのことか。ありゃぁ効率よく火の力を使うならどうしたらいいかって色々模索してたのよ。風は不遇扱いされてたけど、オレからすれば欲しいもんがそこにはあったんだよ。パワーだけでなくスピードも上昇すりゃ、オレの課題であった回避や命中の問題も解決できるからな。結局実践となると、いくら火力があっても当たらなきゃ意味ねぇからな」
「おぉ、やっぱアダムさんは戦いのことが好きなんですね。どうやったら強くなれるかをずっと考えてきたんだ……俺はその、風属性に特化してて、所謂地雷ビルドってやつなんですけど、アダムさんが風の力を上手く使って、強く見せたことが、俺……嬉しかったんです」
「マジか、風属性に特化……流石にオレもそこまで尖ってねぇなぁ……オレは割りと付け焼き刃的なレベルでしか風属性の魔力にステータス振ってないからな。もしかしたら逆もいけるのかもな」
「逆、ですか?」
「おう、オレはほとんどが火属性でサブで土属性、ほんのちょっとの風属性てな感じだ。ようは殆ど火の力であれができた。ならよ、強い風の力に弱い火の力でも、似たようなことができるかもしれねぇんじゃねーの? まぁ、オレとしては一属性に特化してんなら、尖りに尖って突き抜けちまった方がいいかもって思うけど……そういう選択肢もあるってのは、頭の片隅にでもあったほうがいいかもな」
「そっか……俺は風属性に特化してしまったけど、もしかしたら他属性を少し伸ばしてやれば……思ったよりも取り返しがつくかもしれないのか……いや~、うーん、全然冷静に考えられないな。風属性は俺にとってのプライド、誇りになっちゃってるから……そのままを見られない……俺が風にも良さがあるって思いたいから、そう感じるのか……それとも本当に強いのか……分からない」
別に、他の属性に手を出したって風属性を見捨てるわけじゃない。むしろ風を上手く活かそうっていうのなら、他属性を使うべきなのかもしれない。でも、なんか、モヤモヤするんだよな。
「そうだな。シャヒルっち、もっとシンプルに考えてみろよ。お前は今まで、風属性にどれぐらい助けられてきた? 逆に風のせいで失敗したことがあったよ? 思い出せば分かる。お前の選択が正解だったかどうかはな……」
思い出す、か……そうだな。俺、砦喰らいの異常個体に初めてあった時、逃げられた。風の力で早かったから。でも、風だけだったから、砦喰らいにダメージを与えられなかった。逃げて生き延びることができたのは良いこと、戦って勝つ力がなかったのが悪いこと。
ダクマと一緒に砦喰らいにリベンジした時、あの時は良かった、明確にそう思えた。特化した風の素早さがあったからこそ、超格上である砦喰らいの攻撃を捌くことができたし、ダクマの力を活かすことができた。
きっと、俺が防御特化だったならレベル差の関係で無理だったろう。じゃあ火力特化なら? 火力特化だと、俺とダクマが砦喰らいにダメージを与えられても、結局やつの攻撃を軽減なしで受けて、先にやられたと思う。結局たまたまダクマと俺が噛み合ったってだけの話ではあるんだけど。それでも良かったと思えた。
特化したからこその奇跡だった。少しでも俺が日和って他属性に手を出していたなら、俺は砦喰らいの攻撃を避けられず、ワンチャンもなかったはずだ。
あの時、風の力を活かす戦い方ができれば、俺でも活躍できるんだと思えた。
「ちょっと思い返して、考えてみましたけど。俺はこのまま風に特化しようと思います。特化しててよかったなんて思うことなんて中々ないかもだけど、俺は時々でいいんです。時々、俺にしかできないことで戦えればいい。だって俺より強い人はいっぱいいますから。風の力が必要になった時、俺がいるから大丈夫。そんな感じでやれたらなって!」
「っへ、言うじゃねぇか。お前も中々熱い所あんだな。まぁでも、お前一応前衛だろ? だったら、身体は鍛えるべきなんじゃねーか? 風属性にダメージがないってんなら、お前の肉体、そのぶっとい足でダメージを出せばいい。知ってるかシャヒルっち、実はよ。オレはこの世界に来てから筋トレしまくったのよ。なんかリアル感ある世界だし、鍛えたらレベルカンスト後でも強くなれるかもってよ! そしたらオレ強くなれたんだよ! だからお前はレベル上昇で上げるステータスは魔力の風にぶち込んで、力はお前が筋トレで、筋肉で上昇させる! そしたら最強になれるぜ!」
なん……だと? まじか……筋トレで力が上昇させられるのかよ。レベル上昇時のポイントを使わずにそんなことができるなんて……じゃああれかな? 精神修行とかしたら魔力とか上昇すんのかな? だとするなら……レベルカンストは終わりじゃないってことだ。
「やっぱアルーインさんが予測してた通りだったなぁ。アダムさんはゲームだった頃と今の世界の違いを見つけて、もう実践してたんだ」
「まぁまぁまぁ、でも対して強くなれてねぇよ。オレだってリアルじゃ身体鍛えるのそんな好きじゃなかったからな。こっちに来てから筋トレして、力のステータスを2伸ばせただけだ。だけどさ、これがよ、リアルでやってた頃と違って楽しいんだわ。ステが1伸びた時感動したんだよ。おお、ちゃんと成果が出てるってさ! わかりやし~~ってなった」
「よし! そうと聞いたら俺もこうしちゃいられない! 俺も筋トレ頑張ります! アダムさんと話せてよかった。やっぱり戦いの世界で、本気で生きてきた人の意見は参考になる! 俺はこれで帰ります。今日はありがとうございました!」
「おう、またな!」
筋トレで強くなれると知った俺は、本拠地であるブロックスへ転移、帰還した。ほぼ俺の家扱いとなってしまった宿屋に入り、早速筋トレを……
「や!」
「え……? アルーインさん……?」
「ちょっと、何嫌そうな顔してるのさ」
俺は感情を顔に出してしまったらしい。
「いや、その俺の……部屋」
「でも宿屋の女将さんは入れてくれたよ? 許可なんていいんだよって。どうやら女将さんにわたしとシャヒル君が恋仲だと勘違いされてるみたいだ」
「えええええええええ!?」
まぁでもそうか……この人、ダンジョン攻略終わって夜に訪ねてくること多かったもんな……女の人が一人、夜に毎日のように男の部屋を訪ねてくる。傍から見ればそういった関係に見えてしまうのか……
「ちょ! 勘違いされてるって分かってたんなら部屋に入んないでくださいよ! 誤解されちゃうじゃないですかぁ!」
「えぇ~? だってこの前……君、わたしのことを洗脳持ちのロリコン扱いしただろ? その仕返しだよ。困ればいいんだよ。わたしは別に困らないからね、むしろ婚約者がわたしを諦めてくれるかもだから、助かることだよ」
「そんなぁ……最低だぁ……」
こいつ……どこまでも状況を利用してくる女だ……
「まぁいいや。それで何のようですか?」
「いや、今日は特に用はないよ。紅蓮道嵐のメンバーがダンジョン攻略を手伝ってくれるようになったから、暇な時間ができた。だからとりあえずここに来た。相変わらずクランハウスは居心地悪いしね」
「もう、ここじゃない別の場所に引っ越そうかな……」
「なっ!? なんてことを言うんだ! ちなみに無駄だよ? 別にわたしはこの宿屋に執着してるわけじゃなくて、君のいる場所に執着してるだけだから、君が居場所を変えるなら、わたしはそこに行くだけだ」
「アルーインさん他に友達とかいないんですか?」
「……」
ピシッっという音が聞こえたような気がした。固まるアルーインさん。
「いないよ。わたしだって分かってるんだ。こんなのおかしいって……わたしは君と関わりがあったわけじゃない、会ってからそんなに時間も経ってない。だけどね、君はわたしからしたら、それだけで、わたしにとって一番仲のいい人なんだ。君からしたら、わたしは何でもない存在なのかもしれないけどね」
不安そうな顔で俺を見るアルーインさん。弱気な顔だ、いつものような強さはない。不安定で不器用な女の子って感じだ。はぁ……
「そんな不安そうな顔しないでくださいよ。俺だってアルーインさんは俺が今まで関わってきた人の中じゃ、仲のいい方ですから。俺だって友達が多かったわけじゃない。アルーインさんは俺よりもちょっとだけ極端だっただけですよ。今まで友達を作って来なかったから、関わり方が分からなくて、距離感が分かんないんですよね?」
「ぐっ……その、シャヒル君、もうちょっと手心を……」
「思えば俺とアルーインさんて、お互いのこと全然知らないですよね。自分がどういう人間だったか、昔どんなことがあったとか、全然知らない。だから、いいんですよ。知らなかったこと、やってこなかったことなんて、できなくて当たり前。例えアルーインさんが、帝国最強の英雄だとしても、それは変わらない。これから少しずつ学んで、慣れていけばいいんです」
「あ……う……」
アルーインさんが顔を赤くして黙った。偉そうなことを言ったけど、俺にはこの反応の意味がよく分からない。何故なら俺は女の気持ちなんて分からないからだ。まぁでも、俺に惚れたとか、そんなアニメや漫画みたいなことはないでしょ。そもそも俺がそんなことを思う時点で、俺が気持ち悪い。自意識過剰なんだ。
そもそもこの人めっちゃ美人だし、有能だし、ちょっと変人で、性格悪い所もあるけど、俺のような適当人間と釣り合うような存在じゃない。仮に釣り合いが取れたとしても、俺は美人が苦手だからそういう目で見れないし困る……あ! またこれ自意識過剰だ……き、気持ちわりぃ~~俺……
「なんか……違うな。わたしが思ってたのと……君は本当にわたしを女の子として認識していないんだね。顔を見れば分かる。ただただわたしを哀れんでいるだけ……シクシク」
シクシクって声に出して言い始めた……この人感情表現下手か? 下手だな。
「まぁわたしは女扱いされるの好きじゃなかったから全然いい……むしろそういった目で見られないことを望んでいた。だから君といると心地よかったのかもしれない……そう、思ってたんだけど……」
思ってたんだけど?
「なんか……悲しくなってしまった。意味がわからない……理解不能、理解不能」
アルーインさんが人間の感情を理解できないロボットみたいな感じになってしまった。
「それってつまり、アルーインさんは俺に少しは女として見てほしいってことですか? でもガチガチに恋愛対象として見られたくないみたいな……鬼のように面倒臭いっすね」
「ほんとにね……」
他人事とはね。君、自覚が足りないんじゃないの? 俺はバイト先でよくそう言われたことを思い出した。なんでかな?
「でも、俺もよく分かんない。だからとりあえず一定の確率でアルーインさんのことを褒めようと思います。こう、女の子的な部分を……」
そう、俺もアルーインさんも女の子とは何か? それを知らないのである。だからなんとなくの模索をしていくほかない。世界のためにはアルーインさんのメンタルケアも大事ってこともあるけど、この日は、世界のためってだけじゃなく、ただこの子のために何かできたらいいなと、ちょっと思ったから。
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