第20話:光と闇の事案
アルーインさんとアダムの決闘があって翌日、俺はラジャト山脈にあるアダムの縄張りに来ていた。アダム率いる紅蓮道嵐はハイレベルクランだがメンバーのレベルはバラバラ、高レベルだけでなく低レベルの者も沢山いる。荒くれ者の非プレイヤーも紅蓮道嵐に合流しているという話もあったけど、その非プレイヤーもレベルは低い。
「あ、アダムさん! 話していた通りメンバーの選定を手伝ってもらいたいんですけど」
「おう、いいぜ。こっちである程度は候補を絞ってある──」
俺はそうした低レベルの者の中でも、他の中堅冒険者達と協調してダンジョン攻略のできる人材を見つけ、中難度以下を攻略する層の強化をしたいと考えた。そして、そのメンバー選定にアダムの力を借りることにした。
アルーインさん経由でアダムは俺の提案を受けてくれた。アダムはアルーインさんの下につくと決めたみたいだけど、こんなに素直に、前向きに俺達に協力してくれると思っていなかった。
結局、メンバーの選別はアダムさんがあらかじめ候補者をリストアップしてくれていたため、俺はリストのメンバーを簡単に面接するだけでよく、滅茶苦茶スムーズに終わった。
「はぁ……しかし、アルーインのアレ、凄かったな、ありゃ……今はあの洗脳解かれてるみてーだが、不思議な感覚だったぜ」
アダムがなんとも言えない表情で空を見えげてそういった。悔しいのか、納得してるのか、関心してるのか。
「不思議な感覚? どんな感じだったんですか? 俺はアルーインに洗脳されたことないから分かんないんですよね」
「あぁ、なんつーか、いい感じだったぞ。気持ちよかった」
「え!? 気持ちいいんですか!?」
「うん……こう、自分という存在を認められている感じがしたっていうかよ。身体の芯から、底から、お前はそれでいいと言われたみたいで……気づいたら、オレの心臓っつーか、魂はアルーイン……様に鷲掴みにされてた……」
「さ、様!?」
「え!? 今、オレ……あいつのこと、様付けで呼んだのか!?」
アルーインさんを様付けで呼んじゃって自分で驚くアダム、赤面している。
「え? 洗脳状態は切れてるんですよね?」
「うん……そ、そうか……オレ、あいつをスゲーと思って、信仰しちまったから……洗脳されたけどよ……別に能力下にいなくても、先に信仰があるってんなら……オレは……認めちまってんだな。あいつが上でオレが下ってよ。いや、その……オレも力で負ける気は今だってしねぇんだけどよ……おもしれーなこれ! ははは! 普通洗脳されて、その効果が切れたらブチ切れるもんなのによ!」
「はは、ホントですね! まぁ、あんまし常識であの人のことを考えても疲れるだけですし、適当に考えましょう!」
「そうだな! お前賢いなシャヒル! けど、あんなスキルロブレになかったよなぁ? どうやってあんなもん習得したんだ?」
「ああ、実は俺がアルーインさんを指導っていうか、コツを教えて発現させたんですよ。あのスキル」
「なっ!? そうなのか!? シャヒルっち、お前……あの人に認められてるだけあってスゲーんだな。おい、教えてくれよ! どどど、どうやったんだよ!」
「ああ、それはですね──」
◆◆◆
アダムとアルーインさんが決戦する前、アルーインさんが俺に格上狩りのアドバイスを求めてきた日、俺がディアンナの古代の知識を頼ろうとしたけど断られた後のことだった。
「あーでも……これならディアンナの力を借りなくてもどうにかできるかも」
俺は直前にディアンナがアルーインさんに説得され、夢の肯定をされているのを見て、気づいたことがあった。
「何? シャヒル君、それは本当なのか!?」
「え? 我の力を借りるんじゃ……」
「いやその、アルーインさん俺の夢を肯定した時あったじゃないですか? 今ディアンナの夢を肯定した時と同じだったんですよ」
「同じ? え? 待て待て待て、話が見えないよ?」
「こう、心の底にある、自分の大事な何かを見られてるみたいな……不思議な雰囲気の空間が展開されてるんですよ。ディアンナも分かるだろ?」
「あ! ああ! それだそれ! 確かにあれは単にアルーインに迫力があるというので解決する話ではないな。実際に魔力が感じられた」
「そう、アルーインさんの、あの夢の肯定は闇属性なんです。闇の肯定と言ってもいいのかも」
「もしかして喧嘩売ってる?」
確かにちょっと俺の言い方よくなかったかも……アルーインの顔が引きつっている。
「いや、イメージとかの話じゃなくて! ガチで魔法的な力が展開されてるんですよ! ちゃんと説明するんで聞いてください……その、アルーインさん。この世界に来てから、ゲーム時代にはなかったスキルの表記があるの分かります? 特殊スキルに属性の表記が追加されたり、単一の属性しか表示されていなかった魔法に複数の属性が表示されたりとかです」
「あ、ああ……それはわたしも確認したけれど……」
「これって、多分ですけど……この世界のあらゆる力は、なんらかの形で属性の力が宿ってるってことだと思うんですよ。そもそも戦技スキルに属性技があるじゃないですか? でもあれ魔力とか全く育ててなくても普通に使えるし、魔法ダメージも発生しますよね?」
「そうだね、一部戦技スキルは魔法ダメージが発生するから。わたしもなんで魔法扱いじゃないんだろうと疑問に思ったことがある」
「で、思ったんですよ。これは俺達の行動が属性的に解釈されてるんじゃないかって。俺のスキルって大体風属性で素早さに関係するスキルが多いんですけど、これ風属性だから素早いんじゃなくて、俺が素早い結果、風属性の力が生まれているかもって思ったんです」
「なんだって? じゃあシャヒル君は先に属性があるのではなく、先に行動があり、そこに属性が宿ると考えているの?」
「はい、そう考えると色々辻褄が合うんです。そして、行動、現象が属性的に解釈されるとして、そもそも行動とは何かってことを考えると。始まりは行動を決める俺達の意思、思考があるんですよ。魔力的な力、属性の力の源泉が意思だとするなら、やはり意思自体も魔力的な力を持つと思うんです」
「うーむ。理屈では理解できるんだけど、結局シャヒル君が何を持ってアダムを倒せると思ったのかがわからないな」
待ってよ~俺だって説明するの難しいんだってば~~~。アルーインさん首を傾げないで、困り顔しないで……
「アルーインさんが夢を肯定した結果、実際に闇属性の空間が展開されたってことはですね? アルーインさんのその行動には力があると、世界に認めさせるだけの力があるってことなんです。それはつまり、スキルにできるってことなんですよ。空間に展開する闇属性の力を強くすることができれば……おそらくスキルが獲得できるはず。俺がスクワットしまくってた結果、こっちの世界でスキルが強化されるんだ。絶対できる」
「す、スクワット? あ、あぁ、シャヒル君、足滅茶苦茶太いもんね。それスクワットでそうなったんだ……」
この人真面目に話聞いてる?
「なのでアルーインさん修行しましょう。とりあえず同じことを繰り返しましょう。ディアンナの夢を肯定してみてください」
「あ、ああ……」
あまり納得のいっていないアルーインさんだったが、素直に俺の言う通りディアンナの夢を肯定する作業に入ってくれた。
「お、そうそう! それだアルーイン! その感じ、闇属性を強くできてるぞ!」
アルーインさんに闇属性の肯定をしてもらい、ディアンナがその闇の力の強さを感じ取り、まずはアルーインさんに闇属性の感覚を掴ませた。その感じが闇属性を出す時の感覚だよと。
「お? なんか、今の感じの方が効く感じするぞ? おお! 効く効く」
そんな感じで練習していると、ディアンナが急に効く効く言い出した。なんのことだよ……あれ? これって……
「これ、光属性じゃない? あー、強すぎる闇の感じでよくわからなかったけど、光属性の力もあったのか……あの肯定の中には……確かにそうかも。そのままの夢を認めて、道はあると導くみたいな感じ、光と言えば光……なのか?」
アルーインさんの肯定の中には闇の中に光があった。なので今度は光属性の感覚を掴んでもらった。そしてアルーインさんはひたすらに闇と光の力の感覚を磨いた。その結果。
「あ、ああああ!? ちょ! 脳が!? あれぇ?」
修行したアルーインさんの肯定で、ついにディアンナがおかしくなった。目をぐるぐると回らせ、明らかに混乱状態となっている。
「これ……アルーインさん! ステータス確認してください! もしかすると、もしかするかもですよ!!」
「もしかすると、ねぇ? 分かった確認しよう……──あ!? 嘘!? ある! スキルが……生えてる……何々? 【灰王の号令】? 自身を英雄として信仰した対象を洗脳し、従えることができる。信仰者のステータスの一時的な強化が可能……」
「ええええええええええ!? 洗脳!? というか……英雄として信仰されたらって、どうやって条件を満たしたらいいんだ? そもそも信仰ってどういう感じのことを言ってるんだ?」
アルーインさんが獲得したスキル、洗脳だった……でもまぁそうか、カリスマ性みたいなのは、洗脳的なところあるもんな……夢を肯定して、自分の思い通りに動かす……まぁ確かに……スキルが存在しようとしまいと、洗脳と言えば洗脳だ。じゃあ、アルーインさんて現実でも洗脳やろうと思えばできたってことか?
「まさか洗脳スキルとは……ちょっと自分でも引いちゃうなぁこれ……」
「まぁ確かに。ロリコンで洗脳スキル持ちって完全にアウトだと思いますし」
「ちょっとシャヒル君!? 確かに幼い女の子と婚約していることになってるけど、リアルのわたしは別にロリコンでもなんでもないよ? そもそも恋愛対象は男だよ?」
へーそうなんだ。はは、でもいつもは俺を振り回す側のアルーインさんが動揺してるのを見るのは面白いっすね。いい気味だ。まぁでも、あんましからかうのはよそう。色々ミスマッチになってしまった結果なんだし。
「まぁ、後は灰王の偽翼のメンバーで試してみたらいいんじゃないですか? このスキルの信仰っていうのがどういうものかを」
「そう言われてもねぇ。これってようは英雄として相手を認めさせろってことだろう? 中々厳しそうだけど」
「いや、それができるからスキルになってるんじゃないですか? 多分、世界さんからするとアルーインさんにとってそれは無理な条件じゃないんでしょう。俺だったら無理だーってなるけど、アルーインさんならできるかもってなんとなく思えちゃうんですよね。だからきっと大丈夫ですよ」
俺のこの言葉に、アルーインさんは何も言い返してこなかった。俺の顔を少し見つめた後、空を見て思案しているようだった。
「そっかぁ」
アルーインさんはポツリとそう呟いて、灰王の偽翼のクランハウスに帰っていった。俺はアルーインさんの役に立てただろうか? 確かに新たなスキルの習得を助けることはできたけど、結局このスキルがアダムを倒すために役立つかは謎だしなぁ……結局、それはアダムとの決闘によって明らかになるんだ。俺が役に立てたかどうか。
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