第23話 彼を求めて、三千里(23)



名前がさらされた『奴』に、メンチをきりながら問いただす。





「いくら、多少の無茶はアリとはいってもカンナを人質にするとはどういうことだ!?」


「なっ・・・なんだよ!女に暴力振るうのは最低だって言いたいのか!?」


「そこじゃねぇよ!!貴様は、大河とタイマンを張りたいと言ってきただろう!?正々堂々の一対一で!それであいつ1人を行かせたわけだが・・・どういうつもりだ?」


「どうとは?」


「お前が万が一にも、大河を倒したとしても、人質を取ったタイマンなど、便所の虫以下のクズだ!!羅漢はいつから弱虫になった!?」



「あんだと吾妻!」


「言わせておけば―!」




「だからなんだ?」







怒る羅漢のメンバーを制しながら、庄倉は言う。






「お前それ、本当に俺からの呼び出しだったのか?」


「なに・・・!?」


「俺は名前を使われることが良くある。おまけに、お前らをよく思ってない連中は多い・・・!」


「てめぇ!庄倉ぁ!!」


「困るなぁ~濡れぐぬを着せるのはよぉ~・・・!!」


「貴様・・・!!」






奴の言う通りだった。


電話での呼び出しは証拠にならない。


履歴も、非通知だったので・・・公衆電話から掛けたのだろう。






「嘘ついてんじゃねぇぞ!大河は、絶対に庄倉本人だったって言っんだよ!?」


「悠斗。」






それは間違いない。


間違いないと言ったのだが・・・





「証拠は?」


「なに?」


「俺だっていう証拠見せて見ろよっ!!」


「そりゃあ、大河本人が話したから―――――――――」


「ああー!?じゃあ、その大河出せよ!呼べよ!証拠出せや!!」






近くに止めてあった、羅漢の誰かのバイクを蹴り飛ばしながらメンチを切る庄倉。





「聞いた本人が来なきゃ、話になんないだろうが~?なぁ長谷部悠斗君?」


「こ、この野郎・・・・!」


「やめろ、悠斗!」





歯ぎしりする悠斗の気持ちは痛いほどわかる。



奴は知能犯。



そう簡単に、吠えずらかかせられない・・・!












〈いいえ、庄倉愛雄(しょうくらまなお)本人で間違いないです。〉



「「へ?」」


「なっ・・・!?」






そう言ったのは、庄倉が手にしたスマホだった。


カンナのスマホにつながっているスマホから聞こえてきたのは、冷ややかな音程と呆れが見え隠れする声。





〈あのさー話聞かせてもらったけど、君が庄倉君だよね?羅漢を束ねてる元締め。〉


「・・・だったらなんだ!?」


〈評判悪いね、庄倉君。〉


「なにぃ!?」




(ドストレート!?)


(結構言うな!?)




目と目で語り合う俺と悠斗。


姿が見えない相手は、さらなる辛口コメントをする。







〈そうでしょう?おたくの雨宮君もさー言ってたよ。タイマンで呼び出す本人と直接話しさえできれば、後は1人でノコノコやって来た大河を全員でオシャカにして仲間と連絡とれないようにすれば、証拠は完全には残らないって。〉



「「「なんだと!?」」」







その言葉に、違った意味で叫ぶ庄倉と悠斗と俺。






「そっか!声を聞いた本人がいなきゃ、証拠にはなんねぇ!やっぱり庄倉!テメーが大河とカンナを・・・!」


「は、早まってんじゃないぞ長谷部!おい、お前誰だよ!?名乗れよコラ!?」





ばつが悪そうに言う庄倉に、周囲も騒がしくなる。


これにを知ってか知らずか、電話の主はため息をつきながら言う。





〈え?私?私の名前聞きたいの?〉


「そう聞いてるだろう!?」


〈じゃあ、先に名乗ってよ。〉


「はあ!?」


〈アメリカじゃあ、自分の名前を先に名乗るでしょう?ホント、マナーが悪いですね?〉



「ここは日本だバカ野郎!!」






冗談とも本気とも取れる口調。


電話の相手が何者かわからねぇけど・・・






(なんかおもしれー奴・・・!)





思わず、悠斗と二人顔を合わせ、笑いそうになって堪える。


その間にも庄倉の罵声は続く。






「お前な!羅漢の庄倉愛雄相手に、そんな口聞いて許されてると思ってんのか!?」


〈思います。というか、忙しいから電話切りますね。〉


「はあ!?」



〈いつまでも、あなた程度の人と話してるほど暇じゃないです。それでは失礼します。〉






ブツ!ツーツーツー・・・





「・・・・・え?」








この展開に、庄倉だけでなく、俺達全員が固まる。


一方的に庄倉からかけた電話は、相手の一方的な事情できられた。





〔★誰も予想できなかった★〕




「マ、マジで電話を切っちゃたのか・・・?」





ありえない対応と、ありえない態度。


この場の全員を代表するように、悠斗が呟いた瞬間、俺達の金縛りが解けた。







「ふざけんじゃねぇぇぇ!!」







いつもの見栄えのいい外面フェイスも忘れて、庄倉が吠える。


そして、ボタンを押してかけなおした。


数回の呼び出しの後、電話はつながった。


その内容は、スピーカー設定のままなので、俺達にもよく聞こえた。





〈お客様の、はぁはぁ・・・おかけになった電話番号は、現在・・・はーはー・・・電波の届かない場所にあるか・・・ほっと!電源が入っていないため、かかりませーん!〉


「どこの世界に、息切れしながら音声ガイダンスを述べる機種があるー!?」






庄倉じゃなくてもそう言うだろう。


そう思うぐらい、電話を受けた相手はふざけていた。


同時に、その声が疲れ切っていたことに俺は引っかかった。






(なにかあったのか・・・?)






大河とカンナの身を案じる中、電話口の相手の『持論』が展開される。





〈ふーふー・・・当社がそうでございます。アイポも新発売されたでしょー?〉


「アイポ関係ねぇだろう!?つーか、嘘がバレバレなんだよ!!何お前!?誰お前!?マジで誰!?」


〈なんで、名前も名乗らない奴に名乗らなきゃいけないんですか?〉


「知ってるだろう!?俺が庄倉愛雄だって!?」


〈今はじめて聞きました。〉


「うっぎぃぃいいい!!」




「遊んでる・・・」


「ああ、完全に庄倉で遊んでやがるな。」




〔★第三者はそう判断した★〕




あの性質の悪い卑怯者が、ここまで顔をゆがめるなど初めて見た。


遊ぶと言うよりも、おちょくっている。


カンナの携帯を持っている者は、完全に庄倉を手玉に取っていた。








「いいから、さっさと名乗れ!!」







どよめく周囲に、自分の醜態を察したのだろう。







「なんとか言えよ、おい!?俺も名前を言ったんだから、お前も言えクソガキ!!」







どすの利いた声で言う庄倉に対し、電話の主はのんびりとした口調で返す。







〈ああーはいはい。えーと、名前ですか?そうですね~しいて言うなら~〉


「言うなら!?」



〈道に迷ったかもしれない一般人です。〉





「「「「「―――――――――だああああ!!?」」」」







その言葉で、目に見えぬなにかを受ける俺達。


間の抜けた声で言う電話の主に、思わずガクッとずっこける俺達。


それはこの場にいたヤンキー全員に起きた同じ現象。




〔★みんなでズッコケている★〕





「なんだそれ!?迷子かよお前ぇぇぇー!?」





同じように、ガクッとズッコケたなった体を直しながら庄倉も聞く。






「なんなんだよそれー!?迷子って、お前何!?」


〈何って言われても、道に迷ったみたいです。・・・多分、この道であってると思うけど・・・どう思う?〉


「俺に聞くな!見えねーし!?」


〈つかえなーい・・・あ!?坂になってる!〉


「なんだとぉぉぉぉぉ!?」



「ていうか、坂って・・・!?」


「おいおい、どこに行こうとしてんだよ・・・!?」





どうなってんだという顔で言う悠斗。


それが聞こえたのか、電話の主は律儀に答えてくれた。






〈はい!カンナさんに頼まれて、円城寺大河君を人間の底辺である庄倉君が待つ大嵐山まで運んでまーす。〉





「え?」






その声が響いた時、時刻は23時54分となっていた。




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