第22話 彼を求めて、三千里(22)



警察が来ないよう、ここにいる全員は車も単車のエンジンも切っている。





「このイベントのケツ持ちしたい奴だけ、ガス吐かせてろ・・・!!」






悪魔の顔で百鬼さんに言われたら、誰が排気ガスを呑気に垂れ流すだろう。


もっとも、例外はいる。







「皇助~深夜ドラマに、お前の好きなノアちゃん出てるぞ。」


「マジか!?ノアたーん!!」






明るい光の漏れる四つ輪から呼びかける他の初代メンバー。


外車のオープンカーからは、テレビの音と一緒にエンジン音が響いていた。


乗っているお仲間の言葉で、お気に入りのアイドルが出ているというテレビ番組へと向かう百鬼さん。






「なんかなー・・・」


「ああ・・・」







お互い、言いたいことはわかっていた。


それでも俺と悠斗は口を閉ざして、出入り口を見る。


廃墟と化した工場の駐車場。






ここに来ると約束した親友を待った。





絶対にあいつは来る。


頼りになり、喧嘩にもめっぽう強い。


幼馴染として、10年もつるんできた。


カンナのことだって、女である前に戦士だ。


そして、大事な友達だ。


それを甘ったるいことだと言う奴がいるなら、言わせておけばいい。


俺らには俺らのルールがある。








(それを俺達は、今夜証明する・・・!!)





「よぉ、10分切ったな。」






そんな俺達の神経を逆なでするように、またあいつが来た。






「円城寺、バイクで来るんだろう?音が全然ここまで聞こえねぇ~」


「いちいちからんでくるな。失せろ。」






悠斗の代わりに俺が答えた。





「百鬼さんから、12時がくるまでもめるなと言われただろう?」


「さすが、『雲外鏡(うんがいきょう)』は違うね。物知り妖怪。」




俺のあだ名を皮肉る馬鹿をニラむ。





「使い方が間違ってるぞ・・・俺は、誰でも知ってる話しかしてない。」


「なかなか来ないと、心配だよな?」


「もう黙れ。あっちでお仲間とおしゃべりしてろ。」




「俺が電話を、かけてみようか?」





メンチを切りながら言えば、あざ笑う様な顔でそう告げる庄倉。




「対戦相手の俺がかければ、出ると思うんだけどよ?」



「ああん!?寝てんじゃねぇぞ!俺らが散々かけてもでなかったんだ!?出るわけーーー」






そこまで言った悠斗の言葉が止まる。


その意味が分かった俺も、口を固く閉ざす。


眉間にますますしわが寄る。








「・・・・なにをした・・・・?」



(この男・・・!!)





「お前は、そういう下種い真似を平気でする男だとわかってるが・・・なにをしやがった・・・!?」






庄倉との顔の距離を縮めながら聞く。


脅すように言えば、口元だけで笑う。





俺はこの顔を知っている。


目上にしか見せない顔。


目下や気に入らない者には見せない顔。


見せるとすれば・・・・







(自分の勝利を確信し、完全に相手を排除できると決まった瞬間に見せる笑顔―――――――――!!)








「番号知ってるから、かけてやるよ!」








高らかな声で、携帯を頭上に掲げてボタンを押した。


スピーカー設定になっていた携帯は、呼び出し音を周囲に響かせ始める。






「ざけんな!かかるわけねぇよ!」






そう強がる悠斗から焦りの色が見える。


話を聞きつけた野次馬達が好奇の目を向ける。






(頼む・・・出るな・・・!大河、カンナ、みんな・・・無事でいてくれ・・・!)







そんな俺の願いもむなしく、携帯の通話音は止まった。










〈もしもし?〉









同時に、聞き覚えのない声が耳に届く。


これで、静かにやり取りを見ていた周囲からどよめきが起きる。


このイベントを見届けに来た初代『龍星軍』達も、TVを見るのをやめ、車から降りて、こちらの様子をうかがっている。


目の離せない状況に、全員が庄倉の携帯を見る。


いや・・・見ていない者もいた。






(庄倉・・・・!!)







スマホではなく、俺は奴の面を睨んでいた。


そんな俺に気づいた庄倉は、これでもないと言うぐらい、惜しげもなく優越感を漂わせながら勝利の笑みを浮かべた。


ゆっくりと、スマホを上から下へと降ろす庄倉。


マイクを使うように、口元に携帯を寄せて口を開けた。







「もしもし、カンナちゃん?」







俺達の目の前で、余裕たっぷりに聞く庄倉。









「今どこにいるかな?」



〈知りません。〉











聞えてきたのは、聞き覚えのない声。


ざわつく周囲と引きつる俺達。







ー!もしかして、庄倉の手の者に!?ー



ー捕まったか・・・!?ー








目と目で語り合えば、カンナの携帯から声が発せられる。









〈カンナさんもですが、あなたも知りません。誰ですか?〉


「―――――――――はあっ・・・!?」



「「・・・・はあ?」」









その言葉に、俺達だけでなく、庄倉の顔も固まる。


一瞬の間を置いた後で、庄倉は咳払いして聞く。





「高千穂カンナちゃんの携帯だよな・・・!?」


〈そうですよ。〉




「お前誰だ?」


〈そう言うあなたこそ、どちら様ですか?〉







スピーカー音で大きくなった声が、意外な言葉を紡いだ。







「ど、どちら様だと!?」








驚く庄倉に、電話の主は言う。







〈そうですよ。普通、電話かけてきた方が名乗るのがマナーでしょう?名乗りなさい。〉




(そりゃあ、そうだよな・・・・)




〔★正論だ★〕





言うことがまとも。


しかし、庄倉の態度はまともじゃなかった。






「マナーって・・・ええ!?お、お前誰!?雨宮じゃ・・・・」



「「雨宮?」」



「あっ・・・・!?」






その名前を聞き返す俺達に、慌てて口を閉ざす庄倉。


そんな男の動作を俺達は見逃さなかった。






「おい!カンナの携帯に電話してんのに、なんでお前のナンバー2の名前が出てくるんだよっ!?」


「馬・・・聞き違いだ長谷部!単細胞がデタラメ言ってんじゃねぇぞ!?」


「デタラメはどっちだ?それは、本当にカンナの携帯なのか・・・!?」





焦る相手に、俺は聞きながら近づく。


悠斗も、声を張り上げながらついてきた。






「カンナ!おい、カンナ!どーなってる!?聞こえるか!?つーか、カンナの携帯で話してるの誰だよお前!?誰だ、誰だ、だーれー!?」




ぎゃんぎゃん吠えながら問う悠斗。






「馬鹿!そんな聞き方あるか?そんなんで答えるわけがー」


〈高千穂カンナさんじゃないです。〉


「えっ!?」


「答えてくれんのか!?」




〔★返事が返ってきた★〕





意外にも、電話の主は答えてくれた。


それと一緒に、俺達の知らない情報をくれた。





〈この携帯は、高千穂カンナさんの物で間違いないです。無理やり貸してくれました。〉



「え!?カンナの携帯であってるの!?」


「無理やり貸しただと・・・!?」



「どうなってんだよ、おい!?」






悠斗と俺と庄倉の問いに、相手は親切に答える。








〈庄倉です。〉



「「え?」」



〈羅漢の庄倉の手下である雨宮と大場というのが高千穂カンナさんを人質にして円城寺君を襲ってきた結果・・・割愛しますが、私が借りてます。〉



「割愛しすぎだろう!?カンナが人質!?大河が襲われた!?なんでお前が携帯持ってんだ!?」


「いや、情報としては十分だ・・・・・庄倉っ!!!」







この場の全員に聞こえるように俺は叫んだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る