Chapter 3-6

 そんなこんなで放課後である。


 僕たちは調理実習室の前にいた。例によって笠原君は部活がある為、僕、歩、一之瀬君、三峰の四人である。


「失礼しまーす」


 と、歩が調理実習室のドアを開けた。

 中にいたのはもちろん料理研の部員たちなのだが、やはりと言うか、湯本君以外の部員は全員女子だった。


「あ、赤西君だー!」

「もしかして入部希望?」


 流石歩と言うべきか、入って早々に女生徒たちに囲まれる。


「ああ、いや、ちょっと湯本と約束があって」

「そういう事です。あくまで見学はそのついでですよ、皆さん」


 三角巾にエプロン姿の湯本君がこちらに歩み寄って来る。部員だけの事はあって、様になっている。


「赤西氏、ご要望通りの準備はできていますよ」

「お、サンキュー。んじゃあ早速、シン、お前ちょっと野菜炒め作ってみろ」

「え? 勝負じゃなくてかい?」

「いいから、ほら」


 歩に急かされ、僕は野菜炒めの調理を始めた。


 用意してもらっていた食材は、キャベツと人参、ピーマン。そして豚肉だ。なるほど、まずは小手調べという事かな? シンプルな野菜炒めでどれだけのものを作れるか、それを見せてやれ、と歩は言っているのだろう。


 僕は華麗な包丁捌きで肉を切り、野菜も切り分ける。よく砥いである包丁と同じように、食材たちも煌めいて見えないかい? これをフライパンに投入して、炒める。料理は火力だ。ファイヤー! っと言っても調理実習室のコンロじゃあ僕の満足する火力はでないのだけれどね。


「さあできたよ!」


 僕は完成した野菜炒めを皿に盛り付け、皆に披露する。この一皿に、圧巻されたらしい皆が呆然としている。そうでしょそうでしょ。特にこのキャベツの黒さ。よく火が通っているよね。

 僕が額に手を当ててポーズを決めていると、一之瀬君が何かに納得したようにしきりに頷いて、


「冴木君、これは食べられないよ。はい、あーん」

「ありが――ぶふぉうぁ!!??」


 キャベツを箸で取り、僕の口に運んだ。このダイレクトアタックに、僕のライフはたちまちゼロとなったのだった。

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