Chapter 3-4

 ふう、いけないいけない。品行方正で名高い僕が、風紀を乱す側に立つなんて言語道断だ。

 三峰によって場を治められた僕らは、それぞれの教室に戻る。ちなみに湯本君は僕らとは違うクラスだ。


 それにしても、と僕は思う。

 湯本君はどうも僕を目の敵にしているように思う。歩の事も敵視しているにはいるようなのだが、特に突っかかりはしない。寧ろ歩がその敵意を感じ取っていないから、一之瀬君が絡まなければ概ね仲がいいくらいだ。

 歩の事が眼中にない、と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、そんな筈はない。だって、外から見ていれば一之瀬君が歩を好きなのは一目瞭然なのだ。だから一之瀬君を奪い合うというなら、歩とのいざこざが増える筈だ。

 それなのに僕にばかり突っかかって来るという事は。彼もまた、一之瀬君が僕の事を好きだと思い込んでいるような輩か、それとも。


 単純に僕の事が気に食わないだけか。


 臨む所だ。僕ほどの人間ともなれば、好敵手と呼べる相手と出会えるのは稀だ。ふふ、どういう事かって? それは僕と互角に渡り合える人間が殆どいないと言う事さ。いやあ、我ながら罪深い。

 そうして僕は、胸の内に静かな闘志を燃やしつつ、午前の授業を終えた。


「では三峰嬢、ここなら構いませんね?」

「ああ。殴り合い以外なら立会人になってやる。好きにやりたまえ」


 昼休み、昼食を終えた僕たちは、人気ひとけの少ない校舎裏、もう使われていない焼却炉の前に集まった。僕と湯本君が向き合う形で立ち、少し距離を置いて三峰、歩、一之瀬君と笠原君が僕らを見守る形だ。

 三峰に礼を言い、「ところで」と湯本君は続ける。視線は歩の傍にいる笠原君に向いていた。


「ずっと気になっていたんですが……。あなたは?」

「あ、はい! 一年の笠原このみです! よろしくお願いします」

「これはご丁寧にどうも。僕は湯本良邦。二年生です」


 湯本君は礼儀正しく頭を下げる。笠原君もそれに倣って頭を下げ返した。

 二人の自己紹介も済んだ所で、僕から湯本君へ声を掛ける。


「それで、何の勝負をしようか。正直、僕は何の勝負でも負ける気はしないからね。君が決めてくれて構わないよ」


 ふふん、と胸を張る僕に、湯本君はそれでは、と眼鏡の蔓を押し上げながら提案してくる。


「料理で勝負、というのはどうです?」

「へぇ。それなら僕に勝てる自信があるのかい?」

「ええ。もちろんです。こう見えて僕は料理研究部に所属していまして」


 意外だった。なるほど、最近流行の料理男子って奴だね。

 少々面喰ったけど、僕は俄然やる気が出て来た。本格派料理男子との料理対決。これは燃えるね。


「構わないよ。受けて立とうじゃないか」


 湯本君の提案に頷く僕に対して、外野の内二人が思い切り首を横に振っていた。

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