私は自分で選びました。この世界を、心から壊したいと思います。
しかし、四人の子供たちは、最初こそ口裏合わせに付き合ってくれたが、取り調べの内に本心を大人たちに打ち明けるようになった。
「僕は、障害のある弟がいるんです。昔から周りの理解のない人間たちに追い詰められてきました。その最たる者が僕らの両親で、僕と弟をネグレクトしていました。僕は、許せないあいつ等を力づくでねじ伏せるために、やりました」
松沢が口を開いたのがきっかけだった。
「自分は、暴れる場所が欲しかったんです。好き放題暴れる場所。ネットでも現実でもつまらない奴らばかりでさ。俺は、真澄ちゃんと一緒ならもっと好き放題暴れられると思ったので、やりました」
笹田はいつもの調子で。
「オレは、クラスでうっすぃーのでした。何かデカいことしたくて、雪乃を利用しつつ、真澄ちゃんが言っている理想の世界を実現したくて、やったんです」
野村は、この時初めてクラスでの弄りに触れたそうだ。
雪乃は言う。
「私は、自分で選びました。この世界を、心から壊したいと思います」
「私は先生のお陰で不幸でした。どうもありがとう」
長い走馬灯のようなものから還ってきた。
雪乃は私を仏頂面で見ていたと思ったら、瞳からポロポロと涙の粒をこぼした。
松沢は、その雪乃の背を撫でる。
「雪乃がこんなことを言うのも、意味があってこそなんだ」
松沢は、私が逮捕されてから後のことを話してくれた。
私が服役のため、彼らと袂を分かつと、彼らは大変な苦労をしたようだ。
四人とも少年鑑別所に送られた。しかし、彼らが皆、正直に胸の内を話したことで温情を与えられ、大きな罪に問われなかった。彼らにこんな行動をさせてしまった社会にも問題があると認められるようなものだった。
それはきっと社会の全てが壊されて当然、全てが変えられるべき、といったものではない。
ただ、大きく傷ついている子供がいること。それが、社会に認識される一助となる出来事だった。
しかし、彼らには多難が待っていた。松沢は、高校を卒業することができたが、大学に進学し、夢だった教職免許を取り教員採用試験に臨む寸前、教育委員会からストップがかかった。
温情が与えられたとはいえ、かつて罪を犯した人間を、教員にするのか。という問題にぶつかったのである。
松沢は元来、真面目で誠実であった。それを評価する者もいたが、簡単には教員にさせないという圧力があったのだ。
松沢は、5年の現場研修期間を経て、特別支援学校教諭として採用された。
「真澄先生、大変だったよ。職場の古い人たちに、犯罪者は教員を辞めた方がいいとずっと今まで言われ続けてさ」
「そうか。松沢には苦労をさせてしまったね」
「オレの方がヤバいよ、真澄ちゃん」
と言ったのは、野村だ。
「オレなんか、進学校辞めさせられてさ、転落の人生よ」
野村は、元々いた中高一貫の学校を退学させられた。しかし、公立の高校に転入学はせず、通信制の高校を選んだ。しかし、そこからだ。野村は昼は街を出歩き、夜はネットゲームという生活を送っていた。
「これからはスピリチュアルの世界になると思ったんだ」
野村は街を出歩くうちにパワーストーンの店にたどり着いた。
最初は冷やかしのつもりで入ったのだという。しかし、そこで野村にとって信頼できる大人に出会ったのだ。
パワーストーン屋でアルバイトをするうちに、レイキという民間療法を学び、マスターになった。そしてヒーラーとして修業を続ける中、チャネラーとしても成長していく。
「色々あったよ。悪徳高利貸しに目をつけられたりしてさ。でも、オレは自分の店を持って、お客さんに癒しを与える仕事を軌道に乗せたよ」
「それは、怪しくないかい」
と私は聞きたくなったが、人の記憶に残る何者かになると言っていた野村を思い出す。
「あんたは夢を叶えたんだね」
私はそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます