第六十七話 二度目のデート8 悲しませたくないし、傷つくのを見るのは耐えられない
ネリーネは侯爵夫人の地位につられた気位の高い傲慢な女ではない。俺が侯爵になると信じて支えようとしてくれる健気でいじらしくて可愛らしい少女だ。
確かにマグナレイ侯爵は俺を養子にした。王都の屋敷を譲ると書類も書いていた。養子縁組したお披露目はネリーネと結婚したあかつきにと言っている。
でも……食えないクソジジイの言葉通り信じていいのだろうか。
俺と結婚したら侯爵夫人になると信じている素直な少女が、狡猾なマグナレイ侯爵が自分がロザリンド夫人とねんごろな関係になりたいからと俺たちのことを騙している。なんて知ったらどうなるのだろう。裏切られたと悲しむだろうか。
ネリーネを悲しませるようなことはしたくない。
俺はそう独りごち、今も自分が結婚した後のこと熱く語ってしまったことに気がついて、かき集めたおさげで真っ赤な顔を隠して身悶えている可愛いネリーネを見つめた。
「なんですの?」
視線に気が付いたネリーネはおさげの隙間から俺を見上げる。
ぎゅううっ。
胸が押しつぶされる。
あぁ。ミアが馬車に同席していてよかった。ネリーネと二人きりなんて耐えられる気がしない。
俺は深呼吸する。
「すまない。実は芝居の内容は昼間職場で聞いていたんだ。貴女を傷つけるとまでは思わず、伝えなかったことを後悔している」
観に行く価値もないくだらない話だ。とか、王太子殿下と婚約者様を貶めるような話を王太子殿下付きになるのに観に行くわけにはいかないとか、自分のことばかり考えていて、ネリーネが傷つくなんて考えもしなかった。
俺が素直に頭を下げると、ネリーネはおさげでかくれんぼするのをやめて首を振った。
「わたくしが楽しみにしていたんですもの、伝えられなくて当然だわ」
ネリーネは俺を慮ってくれたのかそう言って微笑む。
「それに……わたくしだって王太子様にお会いするまではいつも同じ笑顔を張り付けているなんて心のないお人形のようだと思ってましたの。嫉妬されたり拗ねて嘆いたりされるなんて知りませんでしたし、エレナ様のことだってお会いしたから噂と違って聡明な方だと知っているだけだわ。貴方があの日わたくしのことを職場に連れていってくださらなかったら、今日のお芝居だって周りの観衆と一緒に感化されていたに違いありませんわ。噂に騙されずに真実の目を養う機会を与えてくださったステファン様に感謝しなくてはいけませんわ。噂なんかに振り回されるなんて愚かなことだって、毒花令嬢なんて噂されているわたくしが一番わかっているはずですのにね……」
あぁ胸が苦しい。
ネリーネは毒花令嬢と噂されることを気にもとめていないように振る舞っていても、本心は傷ついている。
ネリネの花はリコリスと似ているから忌み嫌われているなんて自分ではいいながら、俺がリコリスとネリネの花は別の花だと言えば嬉しそうに微笑む。そんなネリーネが毒花令嬢と呼ばれていることを気にしていないわけがなかったんだ。
今までネリーネに毒花令嬢と噂されるのを改善しようともせず反省のそぶりもないなんてなんて思い上がったことを考えていたことを猛列に反省した。
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