第103話

「でぇ由香りんはぁどおしてぇここにぃ来たのかにゃあ?」

 ハニービーン改めビーは、足をぶらぶらさせながら木の枝に座って上半身をかしげた。首を傾げるのオーバーリアクションであるらしい。由香里はビーの隣に座った。

「宮殿の夢から隠すためだ。由香里が安心して眠れるようにな。ここなら夢も手が出せない」

 アズキが由香里の胸にしがみついたまま平静へいせいよそおって答えた。ビーは高所におびえるウサギを見て、キャッキャッと笑いながら枝をすった。悪戯いたずらっ子らしい。

「それはぁ魔女とぉツガイモのぉ目的なんだぉ。由香りんはぁ眠るためでもぉエロくなりたいわけでもぉ誰かを憎んだりぃ殺すのがぁ目的ではないでしょん。そもそもぉ由香りんはぁあたしの事をまったくぅ知らないでしょん」

「あ、ハイ。そうです」

「由香りんてばぁかたぁい。もっとぉくだけて話してちょん。タメ語ダチ語でぇうにゃんだぉん」 

「こいつのしゃべり方、マジでムカつく」

 由香里の腕の中でウサギが呟く。

「まずはぁあたしのぉ自己紹介だぉん。あたしはぁ暗殺者アサシンとして生まれぇ暗殺者として育てられぇ息を吸うように誘惑ゆうわくしてぇ息を吐くように殺したぉ。スリルにもぉ快楽にもぉき飽きてぇつまんにゃい」

 ビーはクルリと後転して、木の枝に両足をかけてさかさまにぶら下がった。両手をぶらぶらさせている。危なっ。

「石の中はぁ生命いのちのプールだぉ。石の眠りでぇ生命がぁつどつながりざりってぇあらたな命がぁ生まれるんだぉ。でもぉあたしはぁ眠れずぅやすらげずぅ繋がれずぅ混じれなかったぉ。そこにぃあたしの求めるものはぁ無かったぉ。あたしはぁひとりでぇ歌い踊りながらぁ本になったんだぉん」

 ビーがクルリと体を起こして上体を戻した。

 よくわからないけどさみしそう、と由香里は思った。

「石の眠りか……。そのへんをもっとくわしく話してくんねーか。情報がしいんだ」

 アズキが耳をピーンと立てる。

「その辺はぁまた後でねぇん」

 ビーはキャラキャラ笑って手を振った。

「次はぁ由香りんの番だぉん。ちからぁ思いつくままぁバラしてポロりん話してちょん」

 ビーがグイッと体を乗り出して、興味津々きょうみしんしんワクワク顔で由香里を見つめる。

「え、えっとー。そんなワクワク人生ではないんだけど。ポロリもないよ。地味じみだよ、私の生い立ちは。私の両親は……」

 由香里今までの話しをした。意外いがいにもビーは聞き上手じょうずだった。

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