第76話

「キィッヒー! ここは不死の樹海。死ぬことなく殺しあう」

 迷彩の刃が由香里の腹をぶった切る。

「傷はふさがる。意識は戻る。疲れず力が増してゆく。ればるほど強くなる。キィッヒー!」

 迷彩の刃がきらめく。由香里はそれを受け流し、出口を探して走り出す。キィヒヒと声が追ってくる。

「ムダ無駄むだキィッヒー! 無駄なあがきで何処どこへ行く? どこに行ける? 行き場所などないだろう? 由香里の生きる場所など何処にもない」

「家族に捨てられ会社に捨てられ世界にまでも捨てられた。キィッヒー!」

「モルモフは由香里を召喚したわけじゃない。世界から捨てられた由香里を拾っただけ。キィッヒー!」

「モルモフの女神の正体はキィッヒー! 生まれた世界に捨てられた哀れな女。いらない女。それを拾って女神にする」

 迷彩柄めいさいがらがキィヒヒと笑う。敵は由香里を逃がさなかった。

「祖父母もシマも由香里を捨てた」

 ピタリ、と由香里の足が止まった。

「由香里を1人この世に残し置き去りにしてった」

 由香里の耳もとで、迷彩柄がキィヒヒと笑う。

「祖父母もシマも由香里の事など」

 由香里は振り向きざまに、迷彩柄をぶった切った。迷彩柄の胴体どうたいが真っ二つ。怒りで赤く染まる視界。


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