第72話

「アズキ、ただいま」

 由香里が帰ってきたー! アズキは大喜びでとんでいった。

「お帰りっ⁉ って、その髪どうした⁉ ちょうすっげー短くなってるじゃねーか⁉」

 肩甲骨けんこうこつの下まであった髪が、バッサリざっくりザクザクの超短髪になっていた。

「ああ、これ。切った。邪魔じゃまだったから」

 由香里はことげに言った。アズキは絶句ぜっく。茶色いジャージが由香里の女らしい曲線をだっぽりとおおかくしている。

「うっ、うっ。由香里の見た目が男の子になった」

 なげくウサギ。由香里は笑いながらフワフワのウサギをモフモフした。そこへツッチーが現れて。由香里に風呂をうながした。

「由香里、薬湯やくとうの用意ができました。お入りください」

「あ、うん。ありがとう、ツッチー」

 由香里はツッチーを抱きしめなでなでした。大型犬ツッチーはすまし顔、尻尾しっぽをパタパタりした。

 脱衣所だついじょでジャージを脱いだ由香里の体はせていた。あちこちに治りかけの傷が痛々いたいたしい。

「ふぅ~」

 由香里はゆっくりと湯の中へ体をしずめた。

「痛いか? めっちゃ瘦せたんじゃね?」

「少し、しみる。でもいい湯」

 由香里はトロリとした湯を両手ですくった。泥色どろいろのトロリとした薬湯は、草を煮詰につめたようなにおいがした。

「なぁ、由香里。その髪、なんでそんなに短くしたんだ?」

 アズキを乗せた風呂桶ふろおけは、湯の上をプカプカただよっている。

「どこへ行っても男ばっかり。だから目立たないようにした」

「女はいなかったのか?」

「いたけど……全員ヤバかった。女をかくして男の中にまぎれ込む方が安全だなって思ったから」

「なるほどな。でも今の由香里だと逆に、男好きの男が言いってきそうだな」

「はじめの頃はきたけどね。でも今は気づかれなくなつた。ナルシィには、隠れずに前に出て戦うのだ、って言われるんだけどね」

 由香里は、ふわぁ~とあくびをした。湯の中で眠りそう。

「隠れるってのは高度な技術だぜ。戦わずに逃げるのも生きるすべだ。由香里らしくていいんじゃねーか。ま、俺なら思い切り目立めだっててきおびせ、一気にたたつぶすけどな。なんせ俺は最強だから」

 風呂桶の中にちょこんと座ったウサギがドヤ顔で胸を張る。かわいい。でも一気に叩き潰されるだろうなぁ。なんせウサギは最弱だから。由香里はウサギを抱きあげ風呂からあがった。そして脱衣所で血を吐いた。

 あぁ、またか……。血にまる視界に人の姿、アズキがうつる……。まだツガイモの精が必要なのか……。うまくいかないなぁ。そんなことをぼんやりと思いながら、由香里は激痛げきつうにのみこまれていった……。


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