第71話

 由香里の体が回復すると、ナルシィは修業を再開した。

「うむ。これからが本当の修業だ」

「え、今までのは?」

「うむ。基礎きそだ」

「き、基礎ですか⁉ 今までのあれが……基礎なんだ」

「うむ。ここからは弟子の由香里だけに教える。アズキはツガイモとして小屋で待機たいきしているのだ。必要な時には呼ぶ」

「やだね。俺は由香里のそばにいるぜ」

 アズキは由香里にピタリと体をくっつけた。

「ナルシィ、何日ぐらい留守にしますか? 二日以上アズキを留守番させるのは心配です」

 ウサギがきゅるんとかわいい目をして由香里を見上げる。ナルシィはあざといアズキを冷ややかに見て言った。

「ふむ。心配ない。由香里の数か月数年の修業が、このウサギには一日二日になるようにしておこう」

「えっ、そんなすごい事が⁉ ありがとうございます」

「うむ」

 由香里は足にしがみつくウサギを優しく抱きあげた。

「アズキ、外は危ないから小屋の中で待っててね。なるべく早く帰ってくるから、留守番しててね」

 由香里にむぎゅっと抱きしめられて、ウサギはうっとり。ショリショリと奥歯を鳴らした。

「わかったよ。俺の心配はいいから、由香里は自分の事だけに集中しろよ」

 由香里は微笑ほほえみ、ウサギの頭をなでなでした。

「じゃあね、アズキ。行ってきます」

「おう。気をつけろよ。ケガすんなよ」

 由香里は修業に出かけ、ウサギは小屋でお留守番。

「早く帰ってこねーかな」

 ウサギは布団の中へもぐり込んだ。布団の中は由香里の匂いがした。

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