新しい出会い

 幼稚園生もみんな起きてきて、朝ごはんを一斉に食べて、少し遊ぶと10時になった。隆太郎との約束の時間だ。

「もうすぐインターホンが鳴るよ。りゅうくんが来るから。びっくりしないでね。」

ピンポーン。

「あっ。お姉ちゃん、出て。僕迎えに行くから。」

「ええっ。えっ。ど。ど。」

「いきなりだった?ごめんよ。いい、いい。僕が出るよ。」

ピッ。はーい。ようこそー。今行きまーす。

「さあ、みんなで玄関まで行くよ。あー、みんな人見知りモード発動だな。遠い目をしてるよ。お姉ちゃんは行けるよね。」

「びっくり、はい、行けます。」

玄関まで行って、ドアを開けると隆太郎とその母親が立っていた。お互いに大人が挨拶を交わすのを、隆太郎とお姉ちゃんは黙って見ていた。昨日来ているので、一応顔見知りだが、緊張は取れない。

「じゃあ、りゅうくん、行こうか。お母さんも少し入られますか?」

「そうですね。でも、りゅうたろうは1人がいいと言ったので、ここで帰ります。で、いいよね?」

隆太郎がゆっくりうなずく。

「うん。では、お預かりします。まずは3日ですね。よろしくお願いします。ところでお母さん…」

お姉ちゃんはたまらなくなって、勢いをつけて口を挟んだ。

「うわー、大人の話になりそう。りゅうくん、私が案内していいですか?」

「ふふ。いいよ。よろしく。みんな隠れてると思うから、僕が帰ってくるまで2人で待ってて。」

「分かってます。よし、行こっか。」

2人はゆっくり家の中に入って、靴を脱いで、リビングに移動した。

 案の定、ソファーの前には誰もいなかった。外で話している隙に、みんなはソファーの後ろに移動していた。お姉ちゃんは、隆太郎をリビングの椅子に座らせて、自分はその隣に座った。お姉ちゃんも人の目を見るのは怖いし、隆太郎もそうだと思ったからだ。

「私も、学校とか外では話せないし、動けないから、今の気持ちは痛いほど分かる。これからいろいろ話してね。よろしく。」

お姉ちゃんは隆太郎を見た。隆太郎は一点を見つめている。座った姿勢で動けないので、椅子に斜めに座ったまま。こんなとき、私はどうしてほしいだろう。

「私はこういうとき、1人にしてほしいからちょっと離れるね。ゆっくり、座り直して、肩とか背中とか伸ばしていいよ。って、言われても、できないと思うから、10時15分まで。それまではお兄さんにも、ここに入って来ないでって、言っておくから。そして他のみんなは、違う部屋に移動するね。じゃ、そういうことで。」

と言ったものの、お姉ちゃんも隆太郎のお母さんの前で話すのが怖かった。だから先に、ソファーの後ろにいたみんなを別の部屋に行かせて、自分だけ玄関まで移動した。一歩踏み出せないでもたもたしていると、影でばれたようで、お兄さんがドアを開けた。

「おう。お姉ちゃん。どうした?」

(ふーっ。)

「…えと、りゅうくんが、動けないから、私が考えて15分までリビングで1人にしてます。だからお兄さんも、入ってくるのはそれ以降にお願いします。」

(言えた!)

「分かった。ありがとう。まだ話してるね。」

お姉ちゃんはうなずいて、隆太郎にもそのことを伝えて、みんなが移動した別室にやってきた。みんなは、人見知りモードが解除されて少しのびのびしていたところだった。

「私が来たときより、緊張しなくていいんじゃない?すこーしだけ年上なだけだからさ。」

返事がないので、お姉ちゃんは手当たり次第にポーズを取っていった。みんなはじめこそは、押し殺した声で笑っていたが、だんだん我慢するのに疲れてきて、風菜、碧、小晴、佳菜子はけらけらと笑い始めた。

「そうそう。りゅうくんとも、こうやって遊べたらいいね。まだ、怖い?」

「怖くなーい!」

風菜が勢いよく答えた。みんなも笑う。

「じゃあ行こっか。ちょうど、約束の時間を過ぎたし。あれ?行かない?お兄さんが、このあと河原に行くよーって言ってたよ。ああ、それなら行くんだ。面白いね。」

 リビングに戻ると、お兄さんは既にいて、隆太郎と話をしていた。多分、予想は当たっていて、河原に行くよと話しているのだろう。

「お兄さん。みんなも戻りました。」

「おっ。お疲れ。今説明していたんだけど…」

「河原ですよね。行きましょう!」

「よく知ってるね。僕はあいとくんとの約束は忘れてないからね。」

と言って準備を始めるお兄さんの横で、隆太郎はびっくりしていた。お姉ちゃんは、人のことがよくわかるのだ。観察に長けている。

「今まで頑張ってきた分、これから楽しいことが待ってるよ。行こう!」

隆太郎がうなずいて、他のみんなもそれに続いた。お兄さんの言葉のおかげで、全員がわくわくしている。

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