エルモアの使者アンコ

 

 

 あー、びっくりしたー。

 まさか翼が生えるなんて思ってなかったわ。

 みんな、唖然呆然って感じで固まっちゃってる。

 それはそうよね。翼を生やした張本人の私が驚いてるんだもの。

 そうならない方がおかしいわよね。


 呆気にとられたみんなの顔を見ながら、私は苦笑して空へと舞い上がる。


 はぁ、良かった。ちゃんと飛べたわ……。


 ぶっつけ本番だから、ヒヤヒヤしちゃった。

 エルモアったらもう、本当に急なんだから!


「みんな、私はドルモアを倒しに向かうわ! ゴーレム兵は任せたからね!」


 場がしんと静まり返る。一拍置いて一際大きな鬨の声が上がった。


 ああもう、ドキドキした!

 反応がなかったらどうしようかと思っちゃったじゃない!


「ルシウス、ラーマ、負けたら承知しないからね!」


「あ、ああ」


 私は戸惑って目が点になっているラーマとルシウスに手を振ってゴーレム兵の方へ飛んだ。さっきまで感じていた悲しさや怒りはもう落ち着いていた。

 エルモアとの同化が、私の心を鎮めてくれた。


 少し前――私が嘆いているところに、エルモアからの声が届いた。


(ノインさん)


 エルモア?


 左右を見たけど、姿が見えなかった。


(すいません、少しでも力を温存したくて、クピドの姿もとっていないんです。ついでに言うと、もうノインさんの中にいます)


 え? 私の中?


 そう聞いた直後、ルインから情報が届けられた。その中に、エルモアの正体が、この体の元の持ち主だっていうものもあった。

 それが原因で、私はものすごくアンコであることを自覚させられた。


(あー……。内緒だって言ったのに……)


 なるほどね。おおよその事情は察したわ。


(すいません、黙ってて。ええっと、そのですね。つまり、僕は、ノインさんとの親和性が凄く高いんです。なのでこうして体に入ることもできるんです)


 それで、どうしたいの? 私はどうすればいいの?


(ドルモアの討伐をお願いします。僕は力を与えることしかできないので、ノインさんに委ねるしかないんです。ルイン兄さんは一人で戦うつもりですけど、今の力では勝てません。でも、僕とノインさんが加われば――)


 分かったわ。


 私がそう返答すると、エルモアは礼を言って私と同化した。

 その瞬間、すごい力が溢れてきて、何ができるのかが分かった。

 それで空を飛ぼうとしたら、どーんと翼が生えちゃった訳だ。


 私はゴーレム兵の上を飛びながら、戦場を浄化していった。彷徨える魂に私の体から流れ出る燐光が降り注いで、感謝の気持ちが伝わってくる。


 感謝されるようなことじゃないわ。私の方こそ、みんなに感謝してるわ。

 誰かの為に、一生懸命戦ってくれてありがとう。ゆっくりと休んでね。

 分かるわ。去り難いわよね。大切な人を悲しませてしまうもの。

 でも、ここに留まっていても、いずれはレイスになってしまうだけ。

 あんなのになっちゃ絶対に駄目よ。そうなる前に、還らなくちゃ。

 悔しいわよね。私もそうよ。だから、みんなの想いは私が継ぐわ。


 任せて。きっと邪悪を討ち果たしてみせる。そして想いを繋ぐわ。


 平和で幸せな世界の為に――。


 私はルインとドルモアが戦っている場所を視界に捉えた。


 ドルモア、報いが訪れるときがきたわ。

 エルモアが怒ってる。

 当然、私も。あんたのせいで悲しみの中にいるみんなもよ。

 もう、あんたの好きにはさせない。

 誰もあんたを許しはしない。


 私は飛びながら両手の平をドルモアに向けた。

 

 

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