ガーランディア防衛戦(6)
*
アルトは襲いくる竜騎兵を上下左右に躱しながら進み、騎馬隊による魔法攻撃の弾幕が張られた一帯へと迫っていた。
(上も下もってのは、おいらにゃ無理だ!)
そう思ったアルトは、突入と同時にアデル目掛けて急降下した。
「アルト、ここでいい!」
「分かった!」
アルトが弾幕を掻い潜りながら二人を包んでいたベルトを外す。
「アスラのおっちゃん、ディーヴァおばちゃんも、危なくなったら逃げろよ!」
「お前もな!」
アスラがそう返し、アルトの背から飛び降りる。
その遣り取りの最中、ディーヴァは上空の竜騎兵たちに手を向けていた。
スキル、天空の制裁。正に青天の霹靂。突如として放たれた稲妻に撃たれ、数体の竜騎兵たちが薄い黒煙を上げて落下していく。そして弾幕の餌食となる。
「気をつけて戻るのですよ!」
そう叫ぶように言い残し、ディーヴァも飛び降りた。
「あんがとな!」
アルトは落下するディーヴァに礼を言うとすぐに踵を返す。
(ちっくしょう! 散々、好き勝手やりやがって!)
アルトは全身から激しい雨嵐を起こし、切り裂くような乱気流を身に纏う。
スキル、暴風雨。
騎乗者がいると巻き込んでしまう為に、これまで使えなかったのである。
だがもう二人は送り届けた。今のアルトに枷はない。
「オラオラ
アルトは溜め込んだ鬱憤を晴らすように、これまで避け続けてきていた竜騎兵に向かい、掠めるような体当たりを食らわせながらシクレアの元へと向かう。
アルトが通り過ぎた後、空に留まっていられる竜騎兵はいなかった。
その頃――落下中のアスラは大剣の柄に手を掛けていた。進化後に打ち直し、幅と刀身を広げた、アスラにしか振るえない巨大な剣である。
目に映るのは、満身創痍のアデルとそれを見下ろすゲオルグの姿。
やがて、その手がアデルの頭を掴み、持ち上げる。
ぶら下がるアデルには両腕がなく、抗う力が見えない。
(間に合わせる!)
アスラは空中でディーヴァと合流し隠身を使っていた。
だが最早、気配を隠す必要などない。
姿勢を変えて急降下し、着地の瞬間ゲオルグの右腕目掛けて剣を振り下ろした。
ズドン――という音と共に土が爆ぜ、ゲオルグの腕が分断される。
直後、後方に飛び退いたゲオルグが目を剥いた。
しかし、それも束の間、アスラを憎々しげに睨みつける。
「お前は……! 漆黒の悪魔……!」
アスラはゆっくりとゲオルグに向き直り対峙する。
「アデル殿。獲物を横取りするが構わんか?」
アデルが力なく笑う。
「ああ、構わんよ」
「では、遠慮なく」
アスラは足を開いてやや腰を屈め、大剣を肩に担ぐように上段に構えた。
「ディーヴァ、アデル殿を頼むぞ」
「ええ、任されました」
ディーヴァが微笑んで答えると、アスラは一瞬でゲオルグとの距離を詰めて大剣を振り下ろした。ゲオルグはその鋭い一撃を軽く後方に跳んで避ける。
それを見越していたかのように、アスラは更に踏み込み大剣を振り上げた。
斬撃がゲオルグの鎧の上を滑り、頬を薄く削ぐ。
ゲオルグは忌々しげに舌打ちし、アスラから大きく距離をとった。
「粋な……真似を……」
アデルが薄く涙ぐんで呟く。
アスラが最初に見せたのは、アデルが最も得意とする燕返しだった。ゲオルグの猛攻が凄まじく、防戦一方になった為に放つに放てなかった技である。
追い詰められても、一矢報いる気概でいた。しかし無念にも果たせなかった。アスラがその思いを汲んでくれたことが分かり、アデルは胸を熱くしていた。
「ディーヴァ殿……すまんが……少し眠る……」
「ええ、安心してお休みください……」
アスラと共に着地していたディーヴァは、既にアデルの治療に移っていた。鎧を脱がせ、腹部の剣を抜いて止血するところまでは既に終えている。
今は正座し、膝の上にアデルの頭を載せたところだった。
(あなたなら大丈夫。すぐに治ります)
ディーヴァはスキル常光の審判を使った。それは使用した対象の善心と悪心とが秤に掛けられ、秤が善心の方へと傾くとその傷を癒やすというものである。
アデルはその仄かな癒やしの黄光に包まれ、眠りに落ちた。
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