ガーランディア防衛戦(3)
*
ノインが部屋で装備を身に着けていたとき、扉が三度素早くノックされた。
誰何の声を上げる間もなく「アリーシャです」との声が続く。
「入って」
「失礼します」
「失礼しまーす」
扉が開き、シャンティを抱えたアリーシャが部屋に入ってくる。アリーシャはノインが装備を身に着けているのを見ると、すぐにシャンティを下ろし手伝いに移った。
「ありがとう。ロディは?」
「陛下のお側に」
「それはそっか。なにか新しい情報はある?」
「竜騎兵の数が目算にして百……という程度ですね。申し訳ありません」
「いえ、数が分かっただけで十分よ」
ノインが装備を身に着け終える。薄い金属製の胸当て、篭手、脛当て。そして腰の左右には鞘。身長に合わせ、新たに打ち直した小太刀が収められている。
「これから、どのように?」
「私には決定権はないの。ルシウス待ちね」
ピシリ――と、例の感覚が訪れ、ノインは顔を強張らせた。
時が止まったようにすべてが硬直し、ノイン以外が色を失う。間もなく部屋にクピドのエルモアが現れ、慌てた様子でノインの目の前に飛んでいく。
(ノインさん、大変です! 邪悪な力が二つ向かっています!)
(エルモアの敵ね。そんな気はしてたわ)
(それだけじゃありません! ゴーレム兵が前線を突破しています!)
(なんですって⁉ 被害は⁉)
(壊滅的です! 確認できないところが多すぎて、これ以上の情報はありません! ただ、ドルモアが動いたことは間違いありません! すみませんが、僕は急ぎやることができましたので、しばらく姿を消します! では!)
エルモアはそう言い終えるなり姿を消した。世界に色が戻り、時が動き出すと同時にノインは部屋を飛び出し廊下に出た。
《みんな、出てきて》
呼び掛けに応じ、ノインの体から仲間たちが姿を現す。
「あれ、ノイン、結婚式じゃなかったの?」
「非常事態よ」
ノインの返答に、呑気に訊ねたシクレアの表情が神妙なものに変わる。
「最低最悪なタイミングじゃない。興味深い嫌がらせね」
「本当にそう。でも、だからって参考にしないでね」
「どのような状況ですか?」と、アスラが訊ねる。
「竜騎兵の空襲。数は百。エルモアの敵が二人いるわ」
「承知しました。アルト、頼めるか?」
「当然だろ。空ならおいらの出番だからな」
少年の姿をとっているアルトが胸を張って答える。
その体を、ディーバが背後から優しく抱え上げる。
「ノイン様、警護に誰か残しますか? アリーシャはシャンティがおりますし」
「そうね。ラーマは残って。あと、アデル先生がもう出立してるだろうから、その応援をお願い。ギリアムみたいなのを相手に、一人じゃ太刀打ちできないだろうから」
「分かったわ! 任せといて!」
「お願いね。みんな、気をつけて」
ラーマ以外の仲間たちが、廊下を駆けていく。
ノインはラーマと共にその背を見送る。
「ノイン様、僕は警護役ですか?」
「いいえ、あなたは私たちと前線に向かうのよ」
「前線? 戦況はどうなっているんです?」
「それは後で話すわ。さ、体に戻って。一緒にルシウスを待ちましょう」
ノインはラーマを体に入れると、仲間たちが向かった方を見た。
(頼んだわよ、みんな……!)
そう心で呟き、無事を祈りながら部屋へと戻った。
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