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 *



 東の村を見て回ってから、今度は南へと向かった。

 西と北は、二帝国同盟との前線に近づくことになるから向かえなかった。

 その付近にある村の民は、国の援助を受けて中央付近に作った新たな村で暮らしているらしい。しかも絶賛開拓発展中とのこと。ただ疎開させるのではなく、移動先で村興しをさせるという提案をしたのはルシウスだとか。


「そんなことをして、反発はなかったの?」


「国境近くは兵を常駐させる必要があるんだけど、誰もがおとなしくしてる訳じゃない。自棄になって、軍規違反をする者がいるんだ」


 横暴な振舞いをする兵がいるというのは、地球でもあったことだ。そういった者に対しての罰則は設けてあるけど、なくなることはないとルシウスは言う。


「村民はやっぱり不満を抱えるから、そのままにしておけば反発は起きる。だから、元々住んでいた村よりも環境が良い住まいを提供することから始めたんだ」


「生活の基盤を整えるのは当然だけど、それで納得してもらえたの?」


「うん。西の方は肥沃な土地が広がってて、穀物や野菜を生産するのに適していた村だったんだけど、土地が枯れてしまったらしくてね。近年は不作続きだったんだ。それなら、ノインの言ってた肥料による土地の回復を留まっている兵に任せて、別の土地で田畑を作ってもらえないかって。こっちからお願いしたら引き受けてくれたよ」


 他にも、私がざっくりとしか話さなかった内容を適した土地に割り振ったと聞いて、改めてルシウスの有能皇子っぷりを実感させられた。ガーランディアが豊かになっていってるのは、私じゃなくてルシウスのお陰のように思う。


 私にしがみついて、目を閉じていなければもっとカッコイイんだけどね。


 アルトは相変わらず、かなりの速度で飛んでいる。

 小国と呼ばれてはいるものの、ガーランディアは広い。デルフィナの国境から新生アラドスタッド帝国の国境まで向かうのに徒歩だと三日は掛かる。

 それを二時間程度で済ませてしまうのだから、相当な速さだ。その分、受ける風も強くて寒いから、私とルシウスは装備品の上にローブを着ている。アルトが体の形状を変化させて風除けのようなものも作ってくれているので、対策はそれで十分なのだ。


《そういえば、アルトは寒くないの? シクレアは寒がって戻っちゃったけど》


《大丈夫だよ。人だった頃と感覚が全然違うんだ。自分でも試してみたけど、つねられても痛くないし、よっぽど冷たかったり熱かったりしなきゃ、嫌な感じはしないんだ》


 シクレアは私の体の中を行ったり来たりしてるけど、アルトは平気みたいだった。


《刺激に対する鈍感さは、それだけ耐久力があるからだってエルモア様が言ってたよ。おいら、もう痛い思いすんのは勘弁だったし、今の体が気に入ってんだ》


 そんな話をしている間に、森を越えた先にある目的の村が見えてきた。


 でも、様子がおかしい。あれって――。


「ルシウス! なにか変! 煙が上がってる! 襲われてるわ!」


「なんだって⁉」


《ノイン! マーマンがいる! たくさんいるよ!》


《マーマン⁉ アルト、村まで全速力でお願い!》


 アルトは私の指示に従って急激に高度を落としながら村へと飛んだ。

 振り返ると、ルシウスが私を抱えたままで村の方を凝視していた。

 こういう事態になると、自分の恐怖心も脇に置けてしまうみたい。

 今は状況の確認中ってところかしら。本当にすごいわ。ルシウス。


 

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