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「ノイン、何を考えてるの?」
「あ、ごめんなさい。三年前のこと振り返っちゃってた」
ルシウスは「余裕だね」と白い歯を見せる。十五歳になって、背が伸びて、声変わりもした。だけど優しいのはまったく変わらない。どんどん好きになる。
不思議なことに、私の中にいるアンコは年を経るごとに薄れていった。
記憶はあるのだけど、ルシウスを守ってあげたいという庇護欲が消え、今は年相応の恋愛感情に変わっている。
七歳で恋愛感情も何もあったもんじゃないって、生意気に感じる部分は、たぶんアンコのものなんだろうけど、ノインの体に精神が馴染んでいってるのは間違いなくて、それがなんだか寂しくも感じている。
「ノイン王女、退屈なのでしたら、一つ手合わせをお願いできませんか?」
アデル先生が笑顔で言った。私は二本の木剣を小脇に抱えて訓練用の厚手のチュニックとズボンを軽く手で払う。訓練場って土埃が舞うから、気になるのよね。
「エルモアの使者として、で良いんですよね?」
「もちろんです。そうでなくては、私の鍛練になりませんから」
私は微笑んで頷き、木剣を地面に置いて準備体操を始める。しっかり体をほぐさなきゃ、怪我しちゃうかもしれないからね。念入りにじっくり柔軟しとかないとね。
このガーランディア王国でアデル先生と渡り合えるのは、ノルギスお父様とギフト持ちの私だけ。私が断ると、アデル先生はノルギスお父様を引っ張り出して挑んじゃうから、手合わせを頼まれたら引き受けるようにしてる。
ノルギスお父様はこの国で一番強い人だけど、もう四十三歳。アデル先生と違って若くないから、手合わせが終わった後が大変なのよ。勝ちはするんだけど、次の日に腰が痛くて動けなくなっちゃったりね。娘としては、あまり無理してほしくないのよ。
だって、大好きだからね。長生きしてもらわなきゃ。
それはそうと、私がエルモアの使者であるということは、既に周知されている。
ディーヴァが言っていた星の使者というのは、魔物の間では伝説の存在で、世界に平和をもたらす者のことを言うそうだ。それをそのままノルギスお父様に伝えたらエルモアの使者として大々的に世間に発表されちゃった訳だ。
戦争状態にあるから、大義名分を立たせる為に公表するって話だったんだけど、これが驚く程に効果があった。魔物と意思疎通する力があるなんて穢らわしいとか、逆効果になる心配をしてた自分が馬鹿みたいに思えるくらい、すんなり受け入れられた。
こんなに変わるものかって驚いたんだけど、本来、何処の国でも、星から賜ったギフトは神聖なものとして扱われるのだとノルギスお父様から聞かされて納得した。つまり、ルリアナは私が邪魔な存在になるのを予期してたから殺そうとしてたってことだ。
今のオルファリア帝国妃って立場になることも、たぶん、ずっと前から計画してたことなんだろうなって、それで気づかされた。本当にとんでもない女だと思う。
そんなルリアナがいるから、新生アラドスタッドとオルファリアの二国は、未だに私を災いの子扱いしてるんだけどね。まさか自分が国同士の睨み合いの原因に一役買っちゃうとは夢にも思わなかったわ。平和な国から来た転生者ってだけなのにね。
さて、柔軟終わり。
私は木剣を拾う。わざわざ鍛冶屋にお願いして削ってもらった、私専用の小太刀型木剣。元の世界の某剣豪をイメージしての二刀流。
魔法を使えない私は、躱しと受け流しに特化した剣術訓練をしている。
生存率特化って感じ。アデル先生も、私のやろうとしていることが分かるみたいで、片手での攻撃の受け流し方や体の動かし方を中心に教えてくれている。
そもそも、二刀流ってスタイルは、短刀を使う盗賊や暗殺者ですらあまりやらないらしく、教えようにも、そういう部分しか教えられないっていうのもあるみたい。
だから、我流なのよね、私の剣って。
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