ドルモアの勢力


 アラドスタッド帝国、ガーランディア王国、そしてデルフィナ王国の三国の国境沿いにあるベルモンド山上要塞。そこはドルモア子飼いの部下が管理を担い、またルリアナに賛同する貴族たちが援助を行う、謂わばドルモアとルリアナの居城。


 六芒星に型どられた堀と防壁に護られた堅固なその要塞内部、ドルモアの寝室に備えられた姿見から激昂した様子のルリアナが現れる。

 鏡に見せ掛けた転移装置。かつてドルモアがデルフィナ王国を訪れた際、ルリアナに贈った物。二人はこれを使い密通していたのである。


 その関係は、ドルモアが十五歳の頃から続いている。つまり、ルリアナはノルギス王に嫁ぐ以前からドルモアと恋仲にあり、嫁いだ後も不義を繰り返したということ。


 そしてノルギスに嫁ぐようルリアナに命じたのもまた、ドルモアだった。


 すべては、この世界を統べる為。


 ドルモアは、部屋に現れたルリアナにまるで驚かずにベッドから立ち上がる。


「どうした。何を怒っている」


「失敗……しましたわ」


「失敗?」


「私たちの計画よ! デルフィナは動かない! 戦争にはならないわ!」


 興奮するルリアナの姿を見て、ドルモアは嬉しそうに笑む。


(ああ、これだ。だからこの玩具は捨てられない)


 ドルモアはルリアナを優しく抱きしめ、髪をすくように撫でて宥める。


「些事だ。俺の策はその程度では崩れはしないよ」


「でも、戦争が起きねば弱体化できません。遅れが」


 言い終える前に、ドルモアは軽く笑う。その声は徐々に大きくなり、間もなく哄笑へと変わる。

 ドルモアは驚き戸惑うルリアナの手を取り寝室を出る。


「ど、どちらへ?」


「すぐそこだよ」


 ルリアナは通路を進んだ先にある窓から外を見せられ、言葉を失う。月に照らされていたのは、地を埋め尽くすほどの異形の軍の姿。


「あれは……? なんなのですか……?」


 そう問わずにはいられない、酷く不気味な気配がした。


「人では、ないようですが……」


「あれは人形だよ」


「人形?」と、ルリアナは訊き返す。そしてドルモアの顔に浮かぶ笑みに背筋を凍らせた。ただその笑顔は、ルリアナが恋い焦がれていたものでもあった。


(ああ、この顔。なんて頼もしいのかしら)


 無意識に、ドルモアの頬を撫でる。ドルモアはその手を握る。


「たとえ戦争が起きずとも、あの人形たちがいさえすれば、どうとでもなる。君が心配することなど何一つない。すべてをめちゃくちゃにしてやろう」


 居並ぶ異形の人形。それらは内部のコアに魔力を通すことにより動き出す魔物。ゴーレムの群れだった。ドルモアは人に期待はしていない。ただ自身がその身に宿す強大な魔力を用いて、世界を破滅に導くつもりでいた。



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