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 私が説明疲れで溜め息を溢した後は、ロディとアリーシャが現在の状況について話してくれた。二人は祖国を捨ててまで私に仕える道を選んでくれたのだという。

 その話に胸が熱くなってしまったけど、それはすぐにルリアナに対しての怒りの熱にすげ変わった。ルリアナ、まさかそこまで酷い人だったとは。


「私たちは、一度ガーランディアに戻り、ノイン様の似姿を絵に描いてもらってこちらに来ていますから、今どうなっているかは分かりませんが、猶予はあまりないように思われます」


「三日前、デルフィナ王国からの使者が来て、ノルギス陛下に謝罪と賠償の要求がされたのですけれど、話にならないと追い返してしまわれたので」


「おとうちゃまは、どんな王ちゃま?」


「ご立派な方です。尊敬に値する王ですよ」


「えぇ。私とロディ様が仕えることをお許しくださっただけでなく、ノイン様の側仕えになることも『そうあるべきだ』とおっしゃって認めてくださいました」


 私は、父のことを知らない。だから二人の話から想像するしかないのだけど、少なくとも前世の父とはまるで違うようだった。


 前世の父か……。


 思わず噴き出してしまう。


「どうされました?」


「ごめん。にゃんでもない」


 真面目な話をしているときに思い出すことじゃなかった。私は前世で親に恵まれていたと思う。とても愉快で優しい人たちだった。

 小学校低学年のときは、友だちがいる前で、わざとオナラをしたり、クリスマスのシャンメリーの蓋を飛ばしたときは、顎に直撃させたりした。

 母も大笑いして腹圧がかかり、オナラを出すという笑いの連鎖が起こる家庭だった。こけしと嘲笑われても、私が卑屈にならずに済んだのはそのお陰だったと思う。


 二人とも、私が三十歳になったとき、旅行中の事故で亡くなってしまったけれど、とても幸せな時間を与えてくれたように思う。

 それにしても、まさか、その両親が付けた名前で、地球を追放されるとは思わなかったわよね。いえ、あの両親だったからこそ、こんな面白い経験ができているんだわ、きっと。


「ノイン? なんで笑ってるの?」


「ひみちゅ。ねぇ、ルチウちゅ、わちゃしと、いっちょにガーランディア王国に、行っちぇくりぇにゃい?」


「え、でも……」


 ルシウスが困り顔になる。そうなる理由は、自分がガーランディアに入ることで、事態をややこしくすることを危惧してるからよね。子供が考えることじゃないわ、そんなの。

 優秀過ぎるって、大変よね。難しい問題にまで気づいて目が向いちゃうんだもの。でも、前世の両親を思い出して、私は思ったのよ。きっと大丈夫。上手くいくって。


「あにょね、わちゃしと婚約ちてほちいの」


「え⁉」


 ロディとルシウスが驚きの声を重ねた。私は反応がおかしくて、笑ってしまう。アリーシャは両手の平を合わせて笑顔になる。


「名案です! アラドスタッド帝国との関係が改善されれば、デルフィナ王国との戦争を避けられるかもしれません!」


 ロディとルシウスがはっとしたような素振りを見せた。こういうときって、女の方が冷静にものを見れるのかもしれないわよね。


 ま、一概には言えないでしょうけど。


 とにかく、ルシウスには絶対に旦那様になってもらわなきゃね。打算的な考えもあるにはあるけど、それ以上に、もう離したくなくなっちゃったからね。


 そうと決まれば、とっとと帰りましょう。風は良い方に向いてる。

 いえ、向かせるのよ。みんなでね。

 

 

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