5


「すごい。もう着いちゃったよ」


「早かったにぇ」


 正直、目が回った。ルシウスもヘロヘロ。アスラとディーヴァは楽しかったようで、超がつくほど機嫌が良い。いやもう、かなり速かったわ。


 というわけで、夕方には宿場町に着いた。街道沿いに木造家屋が建ち並ぶだけの町。

 町を囲っているのは脆そうな木柵だけ、かなり造りが簡単な印象を受けた。


「ねぇ、ルチウちゅ、ここ、だいじょうびゅにゃにょ? まみょにょに、おちょわりぇたりゃ、しゅぐ壊れちゃうんじゃにゃい?」


「魔物とか、荒くれ者が喧嘩して壊したりするから、変に頑丈に作ってないみたいだよ。最初から直しやすいようにできてるんだって」


 なるほど納得。壊される前提だからボロボロなわけね。

 でも頑丈に作っちゃえば、そんなことする必要もないのに。

 それとも、頑丈に作っても壊しちゃうような奴が襲ってくるとか?


 ああ、駄目ね。おかしなことを考えるのはやめましょう。

 景色でも眺めて気持ちを切り替えなきゃね。旗が立っちゃうからね。


 あちこち商人っぽい人の馬車なんかが止まってる。厩舎もあるわ。女の人たちが宿の前で客引きしてる。たぶん、夜のお仕事のお姉さんたちね。

 宿場町っていうから、もっと閑散としてると思ってたんだけど、思ってたより人がいてちょっと驚く。こんなに人を見たことがなかったから尚のことかもしれない。


 それはそうとして、やっぱり浮いてるわね……。


 薄汚れた格好で、柄の悪い感じの人が多い。そんな中、私とルシウスの身なりの良さは非常に違和感がある。人目につかないはずがない。


 だけど、大丈夫なのよね、これが。

 

「アスラの隠身があってよかったよ」


「ほんとにぇ」


 アスラとディーヴァは、宿場町に入る前に私の中に入ってもらっている。

 でも、アスラのスキルはしっかり効いている。

 アスラが言うには、私の体の中からでも効果を発揮するのだそうだ。私自身と、私に触れている者までが対象になるとのこと。


 なので、私とルシウスは宿場町で手つなぎデートを楽しんでいる。きっと楽しんでいるのは私だけなのだろうけど、完璧皇子様のルシウスはそれを感じさせないのよね。

 手をつないで歩くときは、必ず私に歩幅を合わせてくれるし、よちよち歩きしながら隣を見上げると、白い歯を見せて微笑んでくれるんだもの。


 もう、鼻血ものよっ!


 なんてハァハァしてるうちに、ルシウスが「ここだよ」と言って足を止めた。

 用がある店に着いたみたいね。

 看板にはルーイー雑貨店の文字。扉を開けて中に入る。狭い店内には、先客が二人いた。フード付きのローブを着た二人のエルフ――。


「あっ!」


 私は声を上げて跳び上がってしまった。

 いえ、私だけじゃなくて、中にいた二人も。


 ロディとアリーシャ。

 まさかもまさか。私はたった一週間で、二人の暗殺者と再会してしまった。

 二人の様子を見る限り、隠身も効果を発揮しなかったらしい。

 

 

 

 

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