第44話 据え膳食わぬ童貞から愛を込めて(5)

「はあ!?」



 ヒスイの童貞奪取宣言にイッサクの声がひっくり返ったが、そんな童貞しぐさを無視して、ヒスイはイッサクのつなぎの中に手を入れてまさぐる。



「あら。ミナに手を出さないから、もしかすると、と心配してたんですよ?」



「俺はすけべなんだよ………って、そうじゃなくて、どうしてこうなった!?」



「もちろん、私がラヴクラフト様の一番になるためです」



「わるい、全然わからない……」



 ヒスイは硬くなったイッサクのを指先で遊びながらいう。



「あなたがミナを繋ぎ止めておけば全部丸く収まるんです。

 王政が継続し、ミナが王妃で居続ければ、ラヴクラフト様と表立って交際できなくなって、私が一番になる可能性が大きくなる。

 このほうが、あなたを殺してしまうよりずっといい。そうでしょう?」



「それと俺の童貞がどう結びつく?」



「あなたは女に夢を見すぎなんです。だから、ミナの世界に居場所はないなんて、思春期の男子みたいなことをドヤ顔で言ってしまうです。

 あなたの童貞を奪ってそんな幻想をぶち壊してあげます。

 そうすれば、あなたもミナを抱くこともできますし、子供ができれば私がラヴクラフト様を独占できます」



「ミナの気持ちは無視かよ」



 ヒスイは目を丸くしたと思うと、道化を見るように笑った。イッサクのものを掴む手にやわらかく力を込め、声を噛み殺すイッサクを楽しげに見つめる。



「ズレてますよ。一番喜ぶのはミナじゃないですか。あんなに尽くしてきた夫にやっと抱いてもらえるんですから」



「どうもお前ら元夫婦とは、そのあたりの理解が食い違うな。あれはそんな良妻めいたもんじゃねーぞ」



 イッサクはヒスイの手から逃れようと腰をよじるが、ヒスイの両の腿がイッサクの腰に柔らかく食い込んで逃さない。



「わかっていないのはあなたです。どんな形であれ、ミナはあなたに執着しているのですから、それが手に入ったら嬉しいに決まってます」



「俺の気持ちはどうなるんだ?」



「それは知ったことではありません」



 ヒスイは舌なめずりしてイッサクに覆いかぶさり、唇をイッサクの首元に吸い付かせた。イッサクの体が敏感に反応すると、ヒスイは気を良くし、声を弾ませた。



「なかなかいいものをお持ちじゃないですか。童貞にしておくのはもったいないですよ。もちろんラヴクラフト様ほどではありませんが」



「この手のことで、あいつに勝てるやつなんているかよ」



「はい。あの人が与えてくれる幸せ以上のものなんて想像できません」



「だったらミナも同じだろ。いまさら俺が何をしたところで、ラブクラフトの方がずっと素敵とか言い出したらどうするんだ?」



「当初の予定通り、あなたを殺します」



「結局、俺のやられ損じゃねーか!!」



「損だなんて。初体験が私相手ではご不満ですか?」



「そういう話じゃねー!

 隣の部屋にデスノスがいるんだ。見つかったらどうする?

 つーか俺が殺される!!」



「でも、そういうのって燃えるでしょう?」



「へんな性癖に目覚めてるんじゃねーよ!!それに俺は童貞でいたいんだ!」



 イッサクが叫ぶと、ヒスイはたちまち眉を吊り上げて、イッサクのイチモツに爪を立てた。



「もしかして、別にいい女がいるのでしょうか?デスノスみたいにっ」



 ヒスイの指先に情念がこもり、イッサクは激痛で声をあげる。



「いない!そんな女も男もいないから!」



「だったら、なぜ童貞でいたいだなんて戯言を?」



「お前には関係ない!」



「そうはいきません。どうしても言わないというなら」



 ヒスイは膝立ちになり、スカートの中から下着を抜き取る。

 その時、部屋の入り口から声がした。



「人の家でなにしてんのよ?」



 イッサクとヒスイが驚いて振り向くと、エロゲのヒロインのようなミニスカートの制服を着た、リリウィが眉を顰めて立っていた。

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