第20話 王妃ミナは、イッサクの夢を見る(5)

 誰もが憧れる女の痴態に、ラヴクラフトの喉が鳴る。



「こんな恥を晒しておいて、まだ奴を愛しているつもりなのか」



 羞恥で、ミナの全身が一瞬で朱くなり、思い出したようにラヴクラフトを拒もうとする。

 だがそれも上辺だけだ。

 ミナの潤んだ目は、強くラヴクラフトを望んでいる。

 ラヴクラフトは愉悦の笑みを浮かべるとミナの手を自由にして言った。



「指輪を捨てたら抱いてやる」



「!?」



 ミナはラヴクラフトを睨み、全身でかばうように左手を握った。

 ラヴクラフトは悠然とミナの敵意を受け止めると、 優しくミナの内もも口づけをする。もうそれだけで、ミナの瞳から敵意は消えてしまう。



 ミナは陶然とラヴクラフトを見つめている。

 もうミナの心からイッサクは消えていた。

 もうラヴクラフトに抱いてもらうことしか考えられなかった。



 勝利を確信したラヴクラフトが、指輪に手をかける。

 ミナは抵抗せず、ただただラヴクラフトを待ちわびている。

 そして薬指から指輪が落ちようとした、その時だ。



 突然、ミナの左の薬指に、凍てた稲妻のような殺気が落ちてきた。

 その衝撃は、ミナを蹂躙していた快感のすべてを凍てつかせ、殺し尽くしてしまった。

 同時に、季節外れの雷が落ちた。

 雷鳴に全身を揺さぶられたミナは、夢から覚めたように、目を見開いた。

 目の前には下半身をもろ出しにしたラヴクラフトがいる。

 自分はその強張ったものを受け入れようと、腰を浮かし脚を大開きにしている。

 かつてのイッサクの執務室で、卑猥な姿を晒している己を、冷静に、客観的に理解し、ミナは血の気を失った。



「いやっ!!」



 それまでとは隔絶した拒絶の声をあげて、ミナはラヴクラフトを突き飛ばした。

 ミナの豹変に、さしものラヴクラフトも、下半身をさらしたまま呆然とする。

 ミナは自分の肩を抱いて、ガタガタと震えだした。



「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」



 ミナは叱られた幼子のように、震えて許しを乞う。

 左の薬指は、呪術の赤い糸でイッサクと結ばれている。

 いまミナは、イッサクが放った殺気に怯えていた。

 いや、かつてイッサクに与えられた恐怖に支配されていたのだ。



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 いつもお読みいただきありがとうございます。

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 ありがとうございます!

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 個別にお返事はできませんが、何度も読み返してニヤついております。

 なんとか最後まで書ききります。

 今後とも、お付き合いいただけますよう、よろしくおねがいします。


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