第22話
リアが死闘を繰り広げる裏で、ミカエは自身の治癒とロプトルの治癒を終えていた。
それから二人の戦いを見て、ただ手を合わせリアがカレンに痛めつけられるたびに表情を変えては体が反応し、立ち上がろうとする。けれども、それを必死に抑えて無事を祈るしかできなかった。
リアの身体強化が切れている以上、あの死戦に投じることはできないことをミカエは理解していた。
厳しい現実だが、割って入ったとしても自分では足手纏いになる。ただでさえ限界擦れ擦れの戦いなのに、自分を守る余裕などありはしない。
攻撃性の低い後衛であるミカエはリアとロプトルという、二枚の壁があるからこそ役立つ事ができる。そのどちらか片方がかけても、戦線は維持できないだろう。それは、単純な陣形と戦術的な話で、こうしてロプトルは気絶し、リアが万全でない以上、連携は取れない。いや、もはやその連携すら……。
だから、ただこうして祈るしかないと。
「っ……、ミカ、エ……」
「ロプトルっ」
膝で意識を失っていたロプトルが目を覚まし、体を起こした。
「ミカエ、どうなったの……ってリア!?
どうして⁉ なんでリア一人で戦ってるの⁉」
「待って、ロプトル」
飛び起きて駆けだそうとしたロプトルをミカエは肩を掴み止めた。
「なんで止めるのっ」
その手をロプトルは振り払い、振り返りミカエへと怒号する。
「早く行かないとリアが、リアが死んじゃうっ」
「まってって」
「なんでっ!」
「行ってどうするの?」
「どうって……」
力の強さで劣っている以上、どうあがいても勝てやしない。それは分かっていた。だから勝つには協力しないといけない。そう思い、そうした結果がこの通り、惨敗だ。たとえ再び三人で戦ったとしても勝ち目はない。
ゆえに勝利にはカレンと同等の思いの強さが必要だ。それは間違いなく事実で、この状況を打破できる唯一の条件に違いない。
だが、そんなものミカエやロプトルにあるのか?
ミカエは答えが分かっていた。
圧倒的に意志の力が弱く鎖をいともたやすく切り裂かれる自分はもちろん、ロプトルであろうとカレンと対等に戦うほどの想いの桁を持ち合わせていない。
それは当然のことだったのかもしれない。
聖器(ロザリオ)の力ではない、自身の意志の力だけで異能(奇跡)を起こし操つるような相手に、その劣化品である道具に頼っている時点で勝ち目などない。
そもそも、覚悟の度量が違うし、想いの度合いがもはや人間のソレを裕に超えている。言ってしまえば化け物なのだ。常人では不可能なレベルで精神力がイカレている。
だから、自分たちでは無理だと。行ったところで何もできない。
でも、だからといって、ミカエがリアを見捨てるというか。
「でもっ、このままだとリアがっ、放して、ミカエ!!」
「五月蠅いですよ!」
涙を流して慟哭するロプトルに、今度はミカエは怒号した。
「リアが言ったのです、任せてと」
「でも……」
「でもじゃない。それに、ワタシ達では無理です。分かるでしょう⁉」
「………」
冷たい訳でもない。ただ信じている。
リアは大丈夫だと言った。任せてと言った。
そう、あの意地っ張りなリアが言ったのだ。だから――そこは意地でも押し通すだろう。と。
「それに、大丈夫ですよ」
「よく見てください」
前を見ると、そこには剣と鎌を撃ち合い、ギリギリの戦いをしているリアが居た。
それはものすごく見ていていると凄く危なっかしくて、いつやられてもおかしくはない状態であるが。
何故だか、ギリギリ危ういレベルで斬りわたっているのだ。
おそらくは、自分たちへかけていた強化の処理を全て自分へ注ぎ込んでいるのだろう。下手に分けていたせいで能力は分断され弱くなっていたものを自分へ集約したことによって、その分リア自体が強化されている。
おまけに、この土壇場に来てリアの夢の威力は明らかに増しているように見える。
感じる理(ことわり)はいくつか。すでに自身強化を外部無効化の二つに加え、感じられる力はそのほか十以上にわたる。
それすべてが、どんな能力かはミカエには分からなかったが、全て、自身の体に対して何らかの効果を付与するものであろう。いくら夢を操る能力といえど、一度にそれだけの力を同時に使っているということはそれだけ集中力が高いということ。あんな夢の合わせ技など見たことなかったし、やれなかったのがリアだ。
けれど、それを今は可能としている。土壇場での底力からなのか分からないが、確実にリアは強くなっている。
その成長は恐らく今まで最も早く、そして更に強くなれるのかもしれない。
けれど、そんな事をするとなると、リアにはかなりの負荷がかかっているはずだ。少なくとも集中力はもちろんだし、カレンから受けているダメージもかなりのものだろう。
それはカレンからの攻撃をすべて躱し切れていない現状が全て証明している。
だから負担は大きい筈で、能力を使えば使うほどどんな事が自分に後々おこるのかわからない危険性がある。けれど、そんなもの気にも留めないレベルで、連動率。躊躇。迷いはなく。その境地と達している以上リアは今。間違いなく無意識にいる。
だから、あの状態を崩してはいけない。今この状況が一種の麻酔的なものになっているのであれば、崩せばここまでの負荷がリアに襲い掛かり全てが終わる。
とはいえ、結局のところ二人の気持ちや戦況がどうだろうと、もう信じるしかないのだ。
「リアなら大丈夫です」
「………」
それに、勝機があるとすれば。
「彼女にはリムがついているのですから」
「でも、それは……」
「分かってます。だから祈りましょう。どのみち、それしかワタシたちにはそれしかできません」
「っ――」
奥歯をグッとかみしめたロプトルを見て、駆けつけるのを思いとどまったのを確認するとミカエは手を合わせ再び祈りを開始した。
いまだ現れない四人目を祈って。
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