黒い訪問者
一方その一時間ほどまえ、また別の場所で黒い人影をみた人間がいた。なぜそこにいるのか、どうして脱出したのかはわからない、しかしそのがっちりした体格に情熱的な瞳、シャープな輪郭かき上げたショートのさわやかな好青年は、アデルその人だった。体はぼろぼろに傷ついて、足取りはおぼつかない部分もあるが、その肉体はたくましく彼をつきうごかす。
「なぜこんなに、地下が静かなんだろう、それに俺を助けてくれたのは……」
アデルはある部屋に幽閉されていたのだが、今日の朝、その部屋にドア下から一枚の手紙が差し出された。それと同時に、何重にもセキュリティロックがされている分厚いドアの鍵が外側から開く音がした。
「!!??」
警戒してあゆみより、手紙をうけとり、読み上げる。冒頭こう文字が書きなぐられていた。
「ザドが危うい、ディリアが暴走している」
そして紙にはいままでのあらましと、きっとディリアが卑屈な手で姉妹をおびきだし捕獲するだろう事とその計画が行われる場所が描かれていた。
「スパイか……信用すべきか」
アデルは迷ったものの、いまさらザドの選択を邪魔させるわけにもいかない、と、おまけに妙な勘が危険を知らせていたので、その部屋を脱出し助けに行くことをきめたのだった。
だがアデルは、携帯端末型ドローンをとりあげられ脱出するときになんとか手に入れたタブレット型端末のGPSしかなかった。敵がどこにいるかわからず、地下の地形もわからない。あっちへいっては野良アンドロイドに出会い、こっちにいっては行き止まりにぶつかり、という事を繰り返していた。
「このままじゃ、間に合わないかもしれない」
そう焦っていたころに、ザドやレアたちと同じ黒い人影をみたのだった。それについていくと、彼の案内する先には、どうやら危険もなく行き止まりもない事がわかった。それに目的地へとちかづいている。もしや、自分を助けてくれた人間の協力者か、と思いその影を追ったのだった。
一方気絶した状態から目を覚ましたRRAIは、両手をピローとロウルにささえられつつ顏をあげると、ヒッと驚きのあまり言葉を失ったようになった。そしてある一点、ほとんど自分の正面を指さした。ピローは、優し気のある声でRRAIに尋ねる。
「どうしたの?」
「黒い……泥の人」
「泥の人?」
「にたにたわらっている、こっちをみて、どの次元にも、どの世界にも存在したものだ……おそらくこの負の連鎖をつくった人間たちの仲間」
ロウルは周りを見渡す、RRAIが指さす先をみても何もない。
「何もいないじゃない」
「え?」
二人を交互にみて拍子抜けしたような声をだすRRAI。
「そうか、見えないか、やっぱりあいつは“進化”している、きっと次元を食いあらして、進化していく……」
そういうと、RRAIはしずかにぐったりとうなだれたので、ピローとロウルはお互い目を合わせて首を傾げた。
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