帰還

 ザドとレアは作戦を終えて本部に帰還した。日本支部で起きた事や事情は知らせたがネッドは以前のように怒る事はしなかった、むしろ

「よくやったよ」

 と慰めるに徹した。これでRRAIとの約束が守れたか、わからなかったが、それから数日はただ“待つ”という事しかできないのだった。ザドはする事に迷い、その間ずっと木陰で本を読んでいたが、以前にもまして優しい大男ダズのふるまいに関心していた。クローラをずっと見張っているし、落ち込んでいる、いまだ怪我が完全にはなおっていない妹の様子もずっと世話をして、時に自分にさえ声をかけた。

「いまはやすめ」

「ああ、ありがとうね、まさかあなたが」

「……」

口数は少ないが、心の中に消し去れない焦燥はあり、その男にいくらか救われた気がしたのだった。そんな29日目の夜、エリーに呼び出された。皆が寝静まった頃を確認してくるようにいわれたのでその通りにした。何のようかはわからなかったがいまだエリーが一番信用できることに変わりなかった。

《コンコン》

「はい」

 エリーは中へ通すと、扉を閉めるように合図し、ザドに椅子を案内し、そしてお互い椅子に座ると、少し深刻な表情を見せるのだった。


 その数日前、日本支部付のクラックスが、RRAIの調査をして日本を駆け回っていた。支部にクラックスがいるとはいえ、本部に集結したクラックスメンバーの方が多い。なぜならクラックスは、その“予知能力”を、ほとんど本部に集約して、連携がとりやすくするためだ。だから日本支部付のクラックスも二人しかいなかった。一人は女性、人を極端に持ち上げる、何でもポジティブにとらえようと工夫するオレンジのボブ髪、ピンク色のスカーフが目印の健気な女性“ピロー”。もう一人は、ふくろうに似た容姿をもつ目のクマが厚く小柄な男、ロウル。彼は組織でも一番の臆病者で、よく言えば思慮深く、悪くいえば慎重すぎ、小柄でうつろな目をした男だった。


 二人はその頃、関東区のさびれた都市―まるで自然と一体化した―その一角にある滅びた遊園地跡にきていた。

「こちら“ロウル”特殊能力“エコー”にてRRAIを検知」

「やったわね、今日もRRAIの足取りを掴んだわ」

「……けれどピロー」

「なあに?ロウル」

 二人は無線で連絡をとりあっている。ピローは北の観覧車付近、ロウルは南のコーヒーカップ付近で、目撃情報をもとにRRAIをさがしていた。うつろな目をした男、ロウルは重苦しくため息をついて無線に呟く。

「ピロー、僕の能力で検知できるのは半径5キロ以内のRRAIだ、けれど、いつもいっているように僕らには移動手段がない、僕らはクラックスの中で身体能力が低いじゃないか」

 そうなのだ、基本的に身体能力が高いクラックスの中で彼ら二人はとても身体能力が低いことで有名だった。

「ロウル、それでもあきらめちゃだめよ、応援がくるまでやってみるの」

「応援なんて、本当にくるかなあ、ディリアはああいっていたけど」

「大丈夫よ、ロウル、慎重なのはいいことだわ、あなたはきっと、応援の人と仲良くやれるのか気にしているのね」

「いや、そこまでいってないんだけどね……」

 そういいながら、ロウルは服のフードを被った。その時だった。

《ザザッ……ザザッ》

 無線に妙な音がまじった。

《るか……いる……か》

「う、うわああ!!」

 ロウルは驚いて、後ろにころげて腰をうった。無線の声にも驚いたが、無線ではなく自分の直ぐ傍で同じ声がひびいた、つまりこの無線に入ってきた男が、近くにいるのだ。すぐに彼特有の能力を使おうと右手の平を太陽にむけ、左手でその手首をささえた。

《ガシッ》

 その手をつかみ、能力を使うのを妨げた存在がいた。ロウルが恐る恐る目を開け上をみあげると、日光の影になってしばらくその顔はみえなかったが、目が慣れるにつれ、見覚えのある輪郭と目鼻立ちがくっきりうかんで見えてくる。

「評判通りだな“ポンコツ組”」

 そこにいたのは本部のクラックスのサブリーダー、ジュドーだった。

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