抗争
一方別の場所でクラックスのリーダー、アデルは秘密裏にRRAIの足取りを追っていた。ザドにこの件を任せたとはいえ、もし彼女の身に何かあればもともこもない。つい先日RRAIがこの中央クレーター付近に現れたのを知って、はりこみをしていた。ここでは物音ひとつしなかったが、先ほど妙な悲鳴とともに、人々が争っているような音が聞こえて、通路に迷いながらもドローンの助けもありそちらに向かっていた。
その近辺で、サブリーダーのジュドーもザドとレアの情報をつかみ、数日前から彼女らの後をおっていた。だが彼女らにはなるべく接触せず、彼女らの関係する“特殊離反者ネッド”のしっぽを捕まえようと尾行をするのだった。
二人はお互いに、サーモグラフィーカメラを使い、迷路のような通路の中で動く物体をおいかけていたが、ある曲がり角にさしかかると二人して互いに銃口を向けた。
「!!」
「アデル!!お前!!」
「ジュドー、なぜここに!」
「お前こそ、なぜ彼女らを逃がした!!」
「逃がした?何のことだ?お前になぜそんなことがわかる」
「それは……」
ジュドーは秘密の依頼の事を話すわけにはいかなかった。だが、彼は冷徹なところもあるが、チームの事を考えないわけでもなかった。
「お前、何か隠しているだろう、チームは一つだろ」
つかみかかるアデル。
「それを言うならお前こそ、なぜ捕まえなかった」
「逃げられたんだ!!」
「嘘だろう、逃がしたんだ!!」
「証拠でもあるのか!」
「それは……」
本部に送られてきたアデルのデータには、たしかに、彼女と戦ったデータがあった、それが粉飾されたものであったとしても“逃がした”証拠を探すことはできない。
「お前は彼女と仲が良かった、十分疑われる予知がある」
「じゃあなぜ戦ったというんだ、データは送っただろう」
「いくらでも、交戦の理由などあるだろう、お前たちは、俺たちの目をごまかすために……お前たちは俺たちクラックスをうらぎった、だからこうして、捕まえもせず見守っている!!」
その言葉を聞き、アデルは右手の裾をまくり上げた。
「いいだろう、そこまで不当な裁きをするのならば、ここで一戦まじえようじゃないか」
「貴様、正気か!!」
そういいながらもジュドーも眼鏡を触り、臨戦態勢を整えるのであった。ジュドーは、胸元から植物のツタらしきものをとりだすとそれを地面にばらまいた。左手の人差し指で眼鏡を中指で眉間に手を当て少し目をつぶると、右手をぐっとまるめ、次にひらいた。するとばらまいたツタたちが地面にはびこり、天井や壁にもはいまわるようにすさまじい速度で成長をはじめた。そしてアデルの方向にその先端が迫っていくのだった。
「クッ」
そのツタを前転しながらよけるアデル。だが、2、3度よけるとよけた先にツタがあらわれ、足をとられもつれた。回転しながらアデルは何かをつかむようなポーズで両手をまるめた。
《グシャリ》
すると彼にせまっていたツタがねじれ、先端がつぶれて破片がとびちって、その付近の壁と地面がくぼみクレータができた。
「リーダー、あんたが“力”を使うなんてな、空間をゆがめるそのチート技を!」
そういうと、ジュドーは右手に厚い手袋をする。
《ゴソゴソ》
次に右ポケットからとげのある毒々しい紫いろのの植物を取り出すと、それをアデルの前に放り出した。
「だが!!!よけながらでは、目標も定まるまい!!」
ジュドーは目を閉じて、先ほどと同じポーズをすると、毒々しい植物はそだち、トゲとともにみるみる巨大化して、その枝の一本がアデルめがけて襲い掛かってきた。
「!!!ウウ!!」
アデルは、ツタに足をとられることには目もくれず、両手をまるめるようにして、ひっかくようなポーズをすると、毒々しい植物のほうをにらめつける、そして額に汗をかきながら、手に力をこめ顔を赤らめる。その顔に怖れをなしながらも、相手を罵るジュドー。
「お前にこの状況で勝ち目などない!さっさとその植物の神経毒にやられて降参するんだな」
「グウウウウ!!」
すると、みるみる毒々しい植物の周囲が歪み始めた。
「まさか!そんなことまでできるはずがない、お前の“歪み”はせいぜい直径1メートルほど、試験でお前が俺の成長させた植物を一度だって枯らしたことなどない、俺の方がポテンシャルが上だ」
しかし、諦めずに顔を赤らめながら、アデルは顔を赤らめていく。
「ウウオオオ!!!!」
「!!?お前、自分の“能力の代償”がわかっているのか!!無茶をするな!!」
ジュドーが目を細めてアデルを笑っている間も、アデルは手の力をつよめていった。それは巨大な植物の根っこと天辺をつつみこみ、そこに巨大なブラックホールが出現したように壁と天井と地面を球体状にくぼませていく。そして次第に、その植物は重力に押しつぶされるようにまるくなり、しおれ、ペラペラになっていくのだった。
「貴様、やめろお!!私の植物に!!!」
ジュドーは、再び右手に力をこめ目をつぶると、ツタを思い切りリーダーにからませ、彼の攻撃をやめさせようとした。だがむしろそれにたきつけられたかのように、アデルの顔は険しく赤くなっていき、雄たけびをあげ、怒りにみちていった。
「ウゴオオオ!!ウオオオ!!ウオオオ」
アデルをツタがすべて包み込んだとき、さすがにその雄たけびは小さくなってこもり、次第に消えていった。
「まったく、無茶しやがる、上にどう報告すれば……」
ジュドーが汗をぬぐい後ろをむいた次の瞬間、アデルの周囲のツタすべてが爆発したように粉々になって飛び散ったのだった。
「自分の周囲に、いくつ“空間歪曲”を!!お前が本気を隠している噂はあったが、お前そこまで自分の能力を隠していたのか!」
「……」
その言葉に耳を傾けず、アデルはジュドーに迫り、問うようにいった。
「ジュドー、お前には“チームワーク”を大事にしろといったはずだ」
「リーダー、それはお前にそのまま返す……隠し事は、お互い様だろう!!」
「!!フッ……」
「リーダー……もうやめ……」
「どうせ、おやじの差し金だろう……」
アデルは、右手を掲げ、ジュドーに向ける。ジュドーは焦ったように口走る。
「なんのつもりだ、そもそも!!お前たちこそ、チームにいつもこそこそしてお互いのことしか信用していなかった、本当は俺たちを信用していなかったじゃないか!!!それに、そんなことをお前ができるはずがない、俺を殺すことなんて、できるはずがない、お前がいくら“あの方”のご子息であろうとも!!」
そういいつつ、ジュドーはよけるように右向きに体を回転させころがった。苦笑いしながらアデルのほうをみると、右手を握るようなポーズをして先ほどまでジュドーのいた場所に目を向けている。
(やはり)
と先ほどまでいた場所にめをやると、そこには壁、地面、天井がくぼみ、巨大なクレーターができていた。
「アデル、お前……本気なのか!!本気で仲間を!!!」
その頃、ザドはRRAIと言葉をかわしていた。相変わらずレアは体をやすめている。
「なんですって?」
「だから、両方が死ぬか、片方がしぬか、片方が殺されるか、みっつしかないって」
「そんな、ばかな事……」
「説明するわよ」
そういって、RRAIは腰を下ろし、ザドにも腰を下ろすように命令した。
「私もかつてあなたたちと同じように“ヒーローズ”って名前の組織にいて、私たちの世界の人々をまもっていた、私たちの“次元”の人々をね、でもある時、そこに別次元からの“使者”がきて、私たちの世界の人々を襲うようになったの」
「私たちと同じ……」
「ううん、違うわ、私たちの敵の名前は“シンパサイザァ”私たちの世界の誰かひとりそっくりな姿かたちになり、その人を取り殺すとされた」
「一人?」
「そう、あなたたちの世界の上層部が隠していることよ」
「?」
ザドは生唾をのんだ。
「私たちも、あまり情報を与えられていなかったわ、けれど私は上層部をあるとき裏切る決意をした、あなたと同じ状況で、いくつかの戦闘をくぐりぬけ、最後にはシンパサイザァを人質になったあと殺して、そしてわかったの“シンパサイザァは、“異世界から送られてきた人間”この世界にあらわれた30日以内に誰かひとりが殺されなければならない、30日以内に取り殺されなければ、シンパサイザァ自身が死ぬ”」
「どうしてそれがわかったの?私たちの世界のRRAIはそうじゃないとされているし、液体化しているRRAIを見たことがあるわ」
「液体化したRRAIは“別の存在”動物のようなものと考えていい、少なくとももとの人格の意識は消えるんだ、なぜしっているかといえば、私自身が、“シンパサイザァ”を殺し、生き残り、その後“異世界に転生させられシンパサイザア”になったから」
状況が読み込めず、混乱するザド、できるだけ情報を多く集める必要があった。
「どうにかして、その連鎖を止める方法は?一体だれがそんなことを……」
「私にもわからない、上層部だけの問題じゃない、次元にわたる多くの謎があるから、とにかく私にわかっているのは、30日の間にシンパサイザァは“人に化ける”30日の間に何度でも化けられるけれど、最後には、誰かひとりに化けて殺し合いをしなければならない、でなければ自分が死ぬから、でも私はいい、あなたたちは30日間逃げればいいわ、私は、もうとっくの昔に死ぬ準備はできているから」
「なぜ?」
「もともと、私があの男―ネッド―の言葉を信じたのが悪かったのだもの、私が“転送”された直後、成熟の7日前、ネッドは私の“卵型の殻”の近くに携帯端末をおいて私に交渉してきたの、彼のいう通りにしていたけれど、まさかEPSリングを欲しがっていたなんて、これがなければ30日も生きられないのに、だから私は大丈夫よ、あなたたちだけでも生き延びて、ネッドの事も信じなくていいわ」
「でも、でも、もし上層部や何者かの罠によって、どちらかを殺さなければいけないときがあったら、迷わず私を殺して、姉である私、ザドを……」
RRAIはその言葉に静かにしたをむいてこう答えた。
「わかったわ」
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