楽園
ザドもしくはレアに化けたRRAIは彼女らに補足されない間、自由にこの世界を探索していた。クラックスと同じように地上でサバイバルなれしているのか、食うのも暮らすのもこまっていないようだった。彼女は大胆にもこの世界をねりあるき、それにもましておかしな事は、彼女がクラックス日本支部(地下)付近でザドとレアについて調査をしていることだった。エージェントによって彼女の存在は確認されていたが、日本でのこの問題は、リーダーにまかされ、ほかのクラックスは本部アメリカ東部で別の仕事に出払っていたのが彼女には都合がよかったのだったろうか。
彼女はいくつかの場所でザドとレアに関する情報を聞き取る。言葉は流暢だし外見は普通の人間、おまけに住民に危害を加えたり化けたりすることはないようだった。
(双子は、一心同体、心でつながりあっている)
(妹のほうが能力があり器量もいい)
(どこかほかの隊員より心をひらいていないが、いい人たちであることにはかわりがない)
地下のいくつかのコロニーで住民からそれらの情報を手にした彼女は、地上にまた隠れるように逃げた。その数日前にあるエージェントが彼女を目撃されたとき、エージェントは電気銃をもっており、かわすのに一苦労だったが、液状化したり物陰に隠れたりしてなんとか逃げ延びた。彼女は海沿いの歩道で、手すりにひじをつけて外をみてこんな思わせぶりな言葉を口にした。
「“豊かさと貧しさの均衡は、あらゆる次元で保たれる、あのものの瞳の中に真実はある”この世界の“彼女ら”は、私より少し幸運だったか、それももうおわる“彼ら”のせいで」
一方“特殊離反者”のコロニーにたどり着いたザドは、少し巨大な半球の上部のようになっている壁とその扉の前であらゆる想像に頭をかきたてられていた。誘拐された可能性、人質になっている可能性、尋問している可能性。“クラックス”に敵対心をもっている宗教過激派もいるし、あらゆる可能性をもち、拳銃をとりだした。
「お姉……ちゃん?」
クローラが背中にかくれながらその動作に首をかしげる。キュラーがザドに警告する。
「落ち着いて下さい、心拍の速度があがっています、熱ももっている、どうか“有効な対話”を模索してください」
《ゴソッ》
そのとき、コロニーの扉、密閉開閉用のハンドルが回転して、扉が開き一人の巨漢がでてきた、もじゃもじゃ頭の目の良く見えない、輪郭や鼻が角ばった男だった。
「動くな!!」
銃を男の眉間にむけるザド。
「……」
男は何もいわず動作をとめた、ショットガンのようなものをもっているがこちらに向ける気配はない。すると開いた扉の男の奥で人影がうごき、しかしその人影に懐かしい面影をみたので、そちらには銃をむけずに、男に視線をむけながらそちらをぼんやりとみて耳をかたむけた。
「奥にいるのはだれ?私の知り合い?」
すると人影は男の前にかさなるようにとびだしてきて両手をひろげてこういった。
「その男の人に手を出さないで、お姉ちゃん!」
「!!レア!!あなただったのね」
ザドはすぐに両手をひろげ、武器をなげすて妹を抱きしめた。姉妹はそのコロニーのドア型の重い扉の前でしばらくぶりの再開をはたしたのだった。
男と妹に案内され、そのコロニーの奥に通されたおもったよりコロニーは小さく一世帯が住むには豪華だが、三世帯がギリギリ収容できるかどうかといった様子だった。それより池があり、豪華な神殿のような建物があり、庭があり、観葉植物に、機械だろうか?鯉もおよいでいる、まるで一昔前の豪邸の庭のような様子だった。妹は入口であった男に“ここでいいわ、彼女たちの相手をしていて”というと神殿の前でザドに待つようにいって、神殿の奥へとはいっていく、様子をみていると柱をくぐった神殿の奥にいくつかの部屋があり、一番正面の、地下に下る階段を下りた先の部屋に妹の目的の人物がいるようだった。その男は扉をあけ、妹と会話を2,3しているとやっと部屋からでてきた。部屋をちらりとみるとパソコンや機械が密集しているような様子だった。妹の奥を彼女の影に隠れるように出てきた男はその途中で、他の住人に声をかけた。正面からみて左の部屋から、女性の影が歩いてくるのがみえた。
「エリー、僕と一緒にきて、“来客”だよ」
「承知しました」
そういって妹に連れられ神殿の入り口までくるとようやく妹の横からひょこっとだした男。その顔は、ぼさぼさ頭と大きな眼鏡をした、背丈の小さいクマの厚く死んだ目をした男だった。
「やあ、君がザドかい」
「やあじゃないでしょ!!」
そういってザドは男の胸倉につかみかかった。
「この男!!ふざけやがって!!」
「うあああ」
男は揺さぶられグラグラと揺れる、筋肉が感じられないからだに余計にいらいらした。
「何日心配したと思ってんのよ!!」
「お姉ちゃん、私が携帯を落としたのよ、仕方ないでしょう、こうして無事なんだから離してあげて」
ザドはそうさとされてようやくその胸倉から手を離した。男は
「きをとりなおして」
と姿勢とまるで研究者のような白衣をととのえて、順番にここの住人を紹介しはじめるのだった。
「まずはエリー、医者でもあるし、アンドロイドの研究、メンテナンスもできる有能な私の助手」
エリーは後ろ髪をまるく束ねた、少しはかなげな顔をした肌の色のあおいような背の高い女性だった。血色さえよければモデルにでもいそうな、ハッキリとすっきりとした顔立ちだ。
「次にダズ、彼はいうなれば、用心棒だ、右手がサイボーグだから無理して喧嘩をしないように、無口だが気の優しい男だ」
ザドは入口であった男とその女性に挨拶した。
「そして、クローラー!!さあ、おいで」
そういって、男は両手をひろげた。少女は男の胸にとびこんでいき、だきかかえられた。
「ううーん、かわいいクローラ、どうしてたんだい!!よくもどってきたよ、数日間一人で、彼女に感謝しなければね」
男はクローラを地面におろすと、咳払いをして、両手をひろげていった。
「歓迎するよ、ザドくん、“クラックス・ガーディアンズ”に対する疑問や疑惑は、僕ももっている、君がどんな立場であれ、必ず助けになろう、私たちはいわば“抵抗勢力”だ、まずはここで数日我々とすごしてくれ、もし君がスパイならその数日の上で“決着”をつけるし、そうでないなら“交渉”をして“対話”をしよう、よろしくね、ザド君」
そういって手を伸ばす男の手を、妹にさとされザドは握り返したのだった。
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