旅路

 その後は子供をつれ、先ほどの電話相手“特殊離反者ネッド”に電話をすると、“お前の居場所を教えろ”と脅すと、さらに西の地下のほうに案内されたので案内されるままについていった。道中先ほどであった少女とコミュニケーションをやり取りをする事になる。子供は得意ではなかったが、無言をつらぬいて機嫌を損なわれても面倒だと思ったのだ。

「お名前はなんていうの?」

「私クローラ」

「そう、クローラね、素敵な名前、キュートなあなたにぴったりよ」

 (人とのコミュニケーションは妹のほうが得意なんだけど、それに子供もすきだしな)

 少女は、名前こそ教えてくれたが、彼女が色々な質問をするがそれにこたえる事はなかった。

 「パパは、知らない人を信用しちゃだめだって」

 それもそうだな、とザドは思った。 

 他にも“特殊離反者ネッド”を目指すその道中も困難がいくつうかあった。クモ形アンドロイドが出たときはクローラがなきだして、それを電気銃で撃ち麻痺させた後も、しばらくトラウマになったようで、あやしながら進んだ。


 ある時、水浸しの部屋を通らなくてはいけなくなりかがんで水の様子をみたところ、妹との絆、二人の映っている写真が入ったロケットペンダントが転がりおちた。それをひろおうとして前傾姿勢をとったそのとき、それと同時に何者かに背後から棒でなぐりかかられたところだった。

 《!!》

 《ヒュンッ》

 彼女はすんでのところで、かがんだおかげでたまたまよけるのだった。

 「アンドロイドかっ」

 アンドロイドはしゃべらず、ひたすらこちらをなぐりつけてくる。

 《ズドーン!!ドカン!》

 襲い掛かられた直後は人影を見て攻撃をかわすひましかなかったが、2,3度攻撃をかわすと、相手の打撃の後をよくみた。相手はコンクリートの壁や地面を打ち砕いている。見てみるとひときわ巨体の筋肉質のアンドロイドで、なるべく接近をしてその勢いをころして、2,3度殴り合いをした。

 「フッ、フッ」

 《ドス、ドスッ》

 アンドロイドは、呻きながら反応するがその体はビクともしない。その時彼女は自身の圧倒的なパワー不足を感じた。そこは狭い一本道で、逃げ場もない。アンドロイドはやはりウイルスに侵されているようで、目が赤く光って自我を失っているようだった。アンドロイドが叫ぶ。じりじりと壁際においつめられているし防戦一方ではらちがあかなかった。

 「タタカエ!!戦え!!」

 「くそ!!」

 結局ザドはこのアンドロイドの相手をするしかなかった。そこで決意をした。ザドは戦いながら、利き手でないほうの左手で体につけていた測定器をはずそうともがいた。測定器はインナースーツの首筋にあるチップが本体で、それをむりやりもぎととうろあがいていたが、戦闘中でなかなか、敵がチャンスをくれなかった。あるときアンドロイドのコンクリートを砕くような地面へのつきを転がりかわした時、偶然それがとれ、その勢いで転がりながらそれを片手でくしゃりとつぶしてアンドロイドに投げつけてしまうのだった。

 (“測定器”は普段の身体能力にあわせてスーツの“筋力サポート”をきめる、これが今は邪魔なのよね)

 そんなことを一人考えながら、彼女は胸元からドローン型携帯端末をとりだし宙になげる。携帯端末は球体になって、彼女の方をみた。

 「剣モードよ“キュラー”」

 そういうとキュラーは縦にのびて、ひとつの長い剣の形状になった。

 「ぐるるる」

 「……こい、でか物」

 その時携帯型端末キュラーが警告音とともにザドに警告をした。

 「ピピー、ピピ、危険です、レーザーブレードはまだ温まっていません、距離をとって逃げることをおすすめします、あなたの基本的な筋力とバランス感覚では、その熱量で彼の四肢のひとつさえ切り落とすことは不可能でしょう」

 「うるさい、だまってろ!!」

 そういうと、アンドロイドが大声に反応して興奮したようにこちらに向かって襲いかかってきた。

 「グウウウウ!!!アアアアアッイッ!!!」

 気おされぬようにか、ザドも大声で応戦する。

 「ウオオオオッッ!!!」

 ザドとアンドロイドがすれ違った。そのすれ違いざまに、お互い斬撃と打撃をかわした。アンドロイドは右手をふりあげ、ザドも右側で剣を構えてすれ違った。

 《ジャギンッ》

 《ドスッ》 

 勢いよく二人はすれ違い、後ろをむいたまま二人の間に距離ができた。ザドは、すれ違った勢いで距離がとれたあとで、腹部の鈍痛にきづいた。

 《ザッ》

 「くうッ」

 そして首元にも打撃を与えられたことにきづきがくり、と首をまげた。

 「ニヤリ」

 としたアンドロイドが、かがんでいた姿勢をもどし、ひるがえりザドのほうをみる。そして一声あげる。

 「ウオオオ!!」

 そのときだった。

 《ピュル……ッ》

 その咆哮がとどめとなったのか、アンドロイドは右腕が肩から、右足が根本から切れ目が入り、次に液体が噴き出すと、その右手足が胴体から切断された。

 《ブシャアア》

 「ウオ、、ウオオ!!!」

 咆哮をあげながら、アンドロイドは後ろ向きに地面にたおれ、やがてゆっくりと眼光をへらし機能を停止したのだった。その様子まで織り込みずみのように、ザドはロケットペンダントの写真に目をやる。

 「私の家族……」

 そこには、幼少期のザドとレアのほかに、彼女の父と母が彼女らを抱いている姿があった。


 ドローンモードに変形したキュラーが、ザドの肩のあたりに浮きあがり、呼吸をととのえかがみこんでいるザドにいった。ザドは姿勢を伸ばしながら流し聞きをする。さきほどの痛みはその頃には引いていて、ザドはスーツの衝撃吸収力、人工筋肉の《多機能性》に関心をした。


「すさまじい戦闘能力、身体能力です……驚きました。レア様よりよりも優れた身体能力をお持ちのようで、なぜ“測定器”を破壊されたのですか?」

「誰にも見られたくなかったのよ……」

「なぜですか?わかりかねます、普段の能力測定時に能力をだしていれば、スーツも改良されたはずです」

「……」

 その時二人が話しているとその間に少女がはいりこんだ。

「すごい」

 見ほれているように立ち尽くし、ついには勢いよく拍手をはじめた。

 《パチパチパチパチ》

「……クローラ?」

「すごい!!すごい!!お姉ちゃん!!強い!!!」

 少女クローラは、その様子をみて、誰よりもよろこび、彼女にだきついてきた。その時からザドにえらくなついたり、抱き着いたりするようになったのだった。


 その後はなんとか順調に進み、危ない場所、高所や崩落の危険のある足場などは、ザドがクローラをを抱えてジャンプをしたりした。クローラは、まるで自分専用の護衛ができたように喜んで、歌をうたったり、ザドに命令をしたりする。ザドはたじたじになりながらそれに受け答えする。それも、内心めんどくさがりながらではあったが。

 「ゆけ!!ザド!!」

 (まあ、泣いたりわめかれるよりいいか)

 キュラーは相変わらず先ほどの戦闘の事でザドに質問攻めにし続けるのだった。

「戻ったらクラックスの順位が書き換えられます、あなたは間違いなくSランク」

「どうでもいいのよ、組織なんて」

「それは“公の言葉として記録”しますか?」

「どっちでもいいわ、もう」

「どうやらあなたは色々な事で、実力を隠していたのかもしれません、少女ともコミュニケーションがよくとれている」

「はあ、うるさいなあ……」

 遠い目をするザド。

「こんなの全然よ、妹はもっとすごいんだから」

 その後もいくら質問されても相変わらずザドはキュラーに冷たい態度をとり、小言を挟みながら、どうやら目的地らしき地下の“古びたコロニー”に到着したのだった。

 ザドがつぶやく。

「妹は……」


―ねえ、お姉ちゃん、私生きていていいのかなあ?―

妹は、ザドの胸の中で何度も尋ねた。父の死を目撃してから心がよわってしまい、しばらく学校に通えなくなったころ、ザドも彼女の面倒をみるために、一緒に家で勉強をしたり遊んでやったりしたのだ。

―怖いの、いつかああなるのが、お父さんは私よりかしこかった、つよかった、間違えたらしかってくれて、うれしかったらほめてくれた―

彼女は唇に力をこめ、頬をはらしてないていた。

―それなのに、私より先にしんだ―

「私、生きていていいのかな?」

 そうして彼女は自分をみて、布団の中で無理やり笑顔をつくってくれた。そのこと自体がどれほどザドの人生に励ましになっただろうか。こんなに強く弱い妹を守るために、自分は生きているのだと、何度おもったことだろう。ザドにとってかわいい妹、彼女はいまだに怯えている気がしてならないのだ。死ぬことに、それにもまして、生きることに。

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