狂った老人



 ザドは廃墟の奥を地下へと進んだ。地図の場所はクレーターのように朽ちて落ちくぼんでおり、地下にしかその場所はなさそうだった。そうして、地下の迷路のような廊下をめぐることになった。その構造はかつて巨大なありの巣のようなものがコロニー群と通じていただろうことを想像させた。

「ピロリン、ピロリン」

 地下のある区画で妹に電話をかけていたころ、ザドは聞き覚えのある音楽をきいた。妹の携帯端末の着信音だ。

「レア!!!そこにいるの」

「う、うう」

しばらく進んでいくと、古びたある部屋に老人がうずくまっており見覚えのあるもの、妹の携帯端末を握り締めていた。地下水がびたびたになった区画のある部屋だった。

「う、ううう」

「妹はどこにいるの、あんたなぜ……」

 しかし老人は何をいってもうめき声をだすだけで、だがザドが電話をきった直後、着信音がかかってきた。もしや、と思い画面を覗くと非通知、藁をもすがるおもいでその電話にでた。

「もしもし!?」

「!?驚いた、だれかそこにいるのかい、君はこの携帯の持ち主と関係が?」

「私は!!それよりあんただれなの、妹はどこにいるの!?」

「君は“あの子”の姉さんか、君、近くで子供を見なかったかい?その子をつれもどしてくれれば私は君と友人になろう」

「何ばかなこといってるの」

 《ガンッ》

ザドは勢いよく壁をたたいた。

 「この状況がよくわかっていないようだね、君は妹を助けたい、僕はその協力をしたいといっているんだよ“クラックス”の“ザド・セネット”君」

 「貴様……“特殊離反者”か?“RRAI”に聞いた、“クラックス”の裏切りもの!!」

 「アハハハハ」

 その笑い声を聞いている間に背後でゴソリ、と音がした。

 「しまっ……」

 一瞬寒気が走ったが、めをやると、どうやら子供のようだった。ザドはその子供を見つけたことを幸運に思った。

 「オイ“特殊離反者ネッド”お前が探している子供というのは女の子か?私もお前を探していたんだ、RRAIにいわれて、“本部が隠している事実”というやらが欲しい」

 「あ、ああ、見つけたのか!!!私の子」

 「フリルのワンピースをきているな、それより本当にお前は……」

 「そうだ、そうだ、本当は君にいくつかの要求をしようとしたがその子を取り戻してくれたなら、君たちに協力してもいい、その子を無事に返してくれ」

 「いいだろう、約束はまもれよ」

 そういうと、ザドは電話をきった。ザドの目の前には怯えたようにザドがきた扉の影に隠れているフリルのワンピースを着た、5,6歳ほどのみつあみの女の子がいた。

「大丈夫、隠れていて……!!」

「う、うん」

「うおお!!」

 ふりかえるとその背後から、老人がザドに向かってのしかかっていた。

「やっぱり、あんた“ウイルス”にかかっているね」

 先程目にしたときにも気づいていたが、彼の首筋には青く光る腫瘍のようなものがあったのだ。

「はなせ!!」

 《ドカン!!》

 ザドが思い切りけとばすと、アンドロイドは地面に背中をぶつけ、しばらく動かなくなった。

「ぐ、ぐうぐおお!!」

 次にアンドロイドが腹部に力をこめ、のっそりと立ち上がると、彼は両手と両肘に力をこめたように前かがみになった。

 《バコバコ・ブキィィ》

 ザドが様子をみていると背中が八つに割れて、触手のようなアームがふたつ飛び出してきた。

「なんなのこのアンドロイド!!」

 《シュンッ》

 ザドは長い触手をかわした。だが、押され気味にかわすのがせいいっぱいだった。

 《シュッ、シュッ》

 「フッ、クッ」

 やがて部屋の出入り口にさしかかると、ザドはリーチのながい触手を相手しながら、背後の子供を守らなくてはならず、立ち回りが制限された。その上アームが素早く、後ろも壁で逃げ場がない。それでもその柔らかな体と、俊敏なうごきで何度かアームの動きをかわした。背後の子供が真後ろで顔をだした

「お姉ちゃん」

「大丈夫よ、少し離れた場所にかくれていて、それに……むしろ希望がわいたわ、私がこれだけかわせるということなら妹ならなんとか生き延びていることでしょう」

「グルウウ!!!フウウウ」

 その時、鳴き声のように喉をうらなせて、老人がアームを両方頭の上の高さまでもちあげた。すると力をこめるように両手をにぎりしめる、次の瞬間。

 《バカッ》

 とアームが開き、内部からナイフのようなものが突き出してきた。

「フンッ」 

(なんなのよこれ、特殊離反者って何ものなの?)

 その時、携帯端末型ドローンがザドの胸から飛び出して、球体の形状になり宙へうかび、警告音をならした。

「このアンドロイドは汚染されています、何者かがTTAV(※Tumor type android virus)腫瘍型アンドロイドウイルスを使ったのでしょう」

 ザドはドローンを横目にみながら、腰ポケットからもうひとつ銃をとりだした。

「キュラー(※携帯端末ドローンの愛称)、私の銃と合体して、銃剣モードよ」

「承知しました」

そういうとキュラーは、二つにわかれ、一つはザドの右の今取り出したばかりの銃剣と合体した。

 《ヴヴヴヴヴッ》

 剣は銃の上部にはりつき、奇妙な鈍い音をたてて、赤く発熱をはじめる。その間にも、アームが近づき、その銃剣を破壊しようとする。

 「チッ、まだあったまってないっていうの!」

 《ガッ、ガッ、ガッ》

 だが何度かアームで突くうちに、アンドロイドは自分のアームが傷ついていき、さらにその傷が深くなっていくことにきづいた。

 「ぐ、ウオ?グウ」

 片方のアームで攻撃し、もう片方の傷を眺めながら不思議そうに首をひねる。

 「気づいてももう遅い、あんたは頭が悪いから私を殺そうとするだろうけど、私の銃剣は“レーザーの剣”をもっているのよ、攻撃すればするほど、あんたの自慢のアームは終わっていく、ここで終わりよ」

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