第38話 デッド マンズ チェスト

 吹き抜けの部屋で上空より降下してきた巨大ゴーレムと戦うことになった。

 激闘の末、敵の自爆で辛うじて勝利する。勝てたのは運が良かっただけで、広域攻撃の発動に巨人の身体が持たなかったのだろう。

 相手がベストコンディションであれば勝てなかったと思う。


「敵は排除した!」


 フランとフィースがいきなり駆けて来ようとして、お互いにぶつかって転んでいた。何をやっているのやら……。

 ライーが二人をみて微笑み、俺に話しかける。


「心配しておりませんでした。敵は現れたときから敗北は決定していましたから。時間との勝負でしたね」

「ライー。それ、重要な情報じゃないのか」

「占いなど知らせないほうが良いことも多いのですよ」


 何も反論できなかった。

 この巨人を相手に、舐めてかかっていたなら……きっと死んでいたに違いない。

 背筋が寒くなる。


 俺は粉々になった巨人の頭の破片を蹴飛ばした。それは壁に当たって複雑に飛び跳ねる。巨人の胴体の破片には骨格に相当する金属部品を覆うように複雑な繊維質の物が取り巻き、チューブのようなものが廻っていた。

 精密で人体を知り尽くした構造、これは人類の技術ではない。

 もちろん魔導技術でもない。未知の技術。

 学ぶ機会があるなら、どんな対価を支払ってでも知りたい。


 超高度文明の存在。こんなものを作った文明が滅んだのだろうか。

 それとも未来から紛れ込んだのか。


 永遠の謎だろう。



 この場所の上に何があるかわからない。ただ、壁に設置される板状の昇降機は複数のフロアを結び上下への移動を可能としている。

 今までと同じく、各フロアを探索しながら上を目指すことにした。


 昇降機で上に向かっているとフランとフィースが会話をはじめた。


「建物は生きているのに人がいない。何故かしら」

「フランは遺跡に興味がないと思ってたけど。急にどうしたの?」

「あなたほど好奇心旺盛じゃないけど、探査に興味はあるわ」


 ライーが二人に向かって説明する。


「ここに彷徨うものは転移よりも前に亡くなってるみたいね。時が流れ過ぎたのか記憶が曖昧で、なぜ死んだのかさえ思いだせないと……」

「レイリー様の命名された人形、あれは自立ゴーレムアドロイーデなのでしょうか? 意識を持って修繕作業をしています」


 俺の知るところの自立ゴーレムは会話ができたと教わっている。この清掃人形は意思がなく決められたことを盲目的に実施しているだけだ。従魔や召喚獣よりも行動はシンプル。自立ゴーレムとは言いがたい。


 ただ、巨人型ゴーレムは別だ。

 明確に何かを語りかけて攻撃してきた。あれこそ自立ゴーレムに近いものだろう。言葉が通じないのは難点であるが。


「おそらく、俺が倒した巨人は自立ゴーレムに近いものだった。攻撃する前に何かを問いかけてきた。さっぱり理解できなかったが」

自立ゴーレムアドロイーデは人と会話して、空を飛んだと古文書にあります。人形と自立ゴーレムには共通点も多い。不思議ですね」


 会話するゴーレム。それは新たな生物種ではないのか。

 人造勇者と自立ゴーレムこそ似ている気がする。


 しかし、神父はどうやって巨人を回避できたのか想像もできない。

 俺は考えるのを止め、昇降機から降りて次の昇降機に乗る。

 繰り返し作業は単調だった。

 飽きるほど。


 各フロアは目新しいものはなく、素通りに近い。

 高所からの景色に俺は浮かれているが、フランは顔面蒼白で座り込んでいる。フィースは蛮勇の持ち主で、板の端から下を眺めている。


「フィース……落ちたら死ぬぞ。程々にしておけ」

「だいじょうぶよ。それより見て、巨人の破片が絵画のようよ」

「お前も、たまには乙女のようなことを言うのだな」

「あら、失礼ね。あ……」


 フィースが足を滑らせた。

 俺はダッシュして落ちかけたフィースの手を取り抱き寄せる。


 落下は免れた。


「頼むから自重してくれ。俺がいなかったら死んでるぞ!」

「ごめんなさい……」

「フィースさん、遠足ではないのよ。興奮しないの。いくら……」


 ライーは何か言いかけて、俺の顔を見て言葉を飲んだ。

 フィースはフランの横に座りうつむいている。



 そして、ゴタゴタはあったけれど、このゾーンの最上階まで上り詰めた。

 辺りに遮蔽物はなく太陽と空が見え、雲が遠くに浮かんでいる。下方には水蒸気と雲が遺跡に纏わりつくように漂っていて、風に吹き流されていた。

 高所恐怖症でなければ最高の場所だ。


「フランとロセンダはここに居残りだ。ライーとフィースは俺の後方に続け」


 フランはあの場所には行けない。

 だから待機してもらった。


 その場所にあるのは白い宮殿、クリスタルでできた道でつながっている。風はなく、下を見ると遥か彼方に砂丘が見えていた。

 常人であれば一生涯、決してみることが叶わぬ景色。

 フランには悪いが楽しませてもらおう。


 俺達は無事に宮殿に着き索敵したが何もいなかった。

 宮殿の形状は正方形で窓は縦に長く天井から床までを一枚のクリスタルで作られ、細い支柱のような金属で転結されている。まるで、氷の宮殿だ。

 室内には緑色の帯が広がり、木が生えているのだろう。


 ロセンダとフランを置いていけず、俺がフランを抱いて渡った。ロセンダは平然とした態度で俺に続いてきた。


 宮殿への入口は開けられたままだった。

 おそらく、神父が通過したのだろう。閉める手間も惜しんで進んだものと思われる。急いでいることが、行動の甘さから見て取れる。


 徐々に追い詰めている。



 宮殿の中は植物が生い茂っていた。

 高温下でも生育可能なのか。それとも、この宮殿が特別なのか。


 室内の中央には円盤が浮遊していて、その上には椅子チェストが置いてある。その場所まで植物は生い茂っていた。いや、違う反対だ。

 よく見ると椅子から植物が生えてきている。


 女達をその場に待機させ、俺は椅子に近づき……。

 それに気づいた。


死者の椅子デッドマンズチェスト



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