第44話

 俺の知らない誰かが笑っている。

 

 俺の知らない誰かに囲まれている。

 

 俺の知らない誰かに俺は愛を囁いている。


 俺の知らない誰かに俺は愛を囁かれている。



『見えたかしら?』



 僕は誰だろうか?

 

 我は誰だろうか?

 

 ボクは誰だろうか?


 ……。

 

 …………。


「ハッ!?」


 お姉ちゃんに頭を触れた。その瞬間、湧き上がってきた謎の感情。自分の知らぬ感情。それらが、湧き上がってくる。

 その事実を前に僕は眉を顰め、困惑の表情を露わにする。


「流石に魂は二つもねぇよ。一人の人間に対して、その魂は一つだけだ。複数あるなんてことは絶対にありえない。わかるか?」


「……ッ」


 そんな僕の前で言葉を話しているお姉ちゃんを前にどんどんと困惑が広がっていく。


「お前、自分の前世の記憶を確固たる形で思い出せるか?」


「……ぁ、えっ?」


 確固たる形で思い出せるか……?そんなの思い出せるに決まって……決まって、えっ?僕は前世の記憶を思い出そうとして、自分の記憶が霞がかっていることに気づく。

 

「い、いや……これはもうこっちに生まれ変わってからかなりの年月が経っているからで……」


 前世の記憶。

 それで明瞭に思い出せるのはゲームのことくらいで、その他はあまり……自分の両親の顔さえ、あまりピンと来なかった。


「前世の記憶があるなら、少しくらいは前のお母さんの話を思い出してあげてもいいんじゃないかしら?」


「……」


 僕はお姉ちゃんの言葉に対して、閉口する。

 えっ?いや……そんな、そんなことがあるわけ……。


「ふふふ……あなたは、あくまで私のスペア。私の一部の記憶を元にして作った贋作でしかないの。というより、普通の常識的な感性で考えて、ゲームで一位だったからって、リアルでも一番目指すわけないじゃない。動機付けとして適当にも程があるわよ。ゲーマーがリアルで何かを努力するなんてあるわけないじゃない」


「……ッ」


「貴方のその動機は私がこちら側で作ったもの。それでしかないのよ。ここにまで、来てもらうために」


「……嘘だ」


 理解出来ない。

 何の、何の、話をしているの……?


「なるほど……それでは、貴方の目的は何でしょうか?」


「安心しなさいな。別にイスカリオテ。貴方の目的とそう離れているわけじゃないわ。私の目的は自分の親友をよみがえらせること」


「……貴女の親友?」


「えぇ、私の親友。貴方でいう邪神を復活させること。それが私の狙い。あっ、でも、安心して?本来のあの子は悪い子じゃないわ。ちゃんと人類の味方になってくれるわ」


 僕は呆然としながら、お姉ちゃんとイスカリオテの話を聞いていることしかできなかった。

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