第14話 慌ただしい朝

「空……」

「え、アリス……?」


 ベッドの上、私はいつの間にかアリスに押し倒されていた。動こうにも両手を押さえられていて動けない。


「アリス? これはどういう……」

「空、私は、貴方のことを――」

「え、ちょっ、」


 そう言って、アリスの顔が徐々に私に近づいてくる。アリスの綺麗な顔が、唇が、私に触れ――。


「ダメダメ待ってアリっ……ス……」


 チチチと鳥のさえずりが聞こえる朝、私はベッドから飛び起きた。そう、今のは夢である。目の前には勿論アリスはいない。いるのは、私を冷めた目で見る神様ただ一人。


「色ボケ……」

「うわああああ! 違うもん違うもん違うもんっー!」


 ベッドでのたうちまわるしかない私は、もう既にアリスに振り回されているというかなんというか……。

 だが決して、心を奪われているわけではない! 昨日は耐性がないことばかりだったから、つい脳に刻み込まれてしまって、似たような夢を見ただけで……!


 ごろごろと大きなベッドを縦横無尽に転がっていると、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。


「あ、はいっ」


 慌てて起き上がり、扉を開けた先にいたのは――。


「おはようございます。巫女様」


 クラシカルな服に身を包んだ、メイドさんだった。




「お風呂は! お風呂は自分で入れますから!」

「ですが……」

「お風呂だけは!」


 バスタオルで身を隠し、私はメイドさん達に吠える。

 部屋にやってきたメイドさんは、あれよあれよという間に私の身ぐるみを剥がすと、風呂にまで一緒に入ってこようとしたのだ。


 アリスとの騒動の後、私は疲れていたこともあって結局ご飯も食べず、お風呂にも入らず寝てしまった。

 メイドさんは昨日と同じ格好の私を見てそれを悟ったのだろう。部屋に入って来るや否や私を脱がしにかかったのであった。


「私達は巫女様と妹様のお世話をするよう言いつかっておりますので……」

「大丈夫です! ちゃんとお世話してくれています! そのことは保証しますから! せめてお風呂は恥ずかしいので!」


 などという言い合いの後、なんとか一人で部屋にあるお風呂に入ったものの、そこから出た後は今度は逃がさんとばかりに服を着替えさせられ髪をセットされのされるがままであった。


「ふむ、馬子にも衣装か」

「親戚のおじさんみたいなことを言わないで」


 この世界に来て唯一自分のものである高校の制服を脱がされ、今着ているのは豪華なドレスである。肩下まであったセミロングの髪も結われ、アップでまとめられている。

 今まで来たこともない服を着させられ、どんな風に立てばいいかもわからず棒立ちの私を見て神様は笑っていた。


「では、国王と王妃に拝謁しに参りましょう」

「あ、それで着替えさせられたんですね……」


 やってきた執事のような人に連れられて、私は王様の謁見の間へと神様とともに向かった。


 謁見の間に入れば、玉座に王様と王妃様が座っていて、傍にはアリスも立っていた。

 アリスは昨日見たシンプルなドレスではなく豪華なドレスを着ていて、私と目が合って微笑んでくれた。途端に今朝の夢や昨日のことを思い出してしまって、思わず目をそらしてしまう。


 アリスは変に思っただろうが。いや、変に思ってくれるのならば好都合だ。誰かに嫌われるのは悲しいことだけど、これ以上好感度を上げるわけにはいかないのだから。


 王様からはこの国に来てくれて感謝する、だとか、この国を救ってほしいということを言われた後、今度異世界の話を聞かせてほしいと言われた。

 勿論です、と返事をすれば、王様も王妃様も喜んでくれた。

 ゲームの通り、とても良い人達なのだろう。この人達のためにも、私のためにも、必ずこの国を救って見せようと、私は今一度決意した。




「それで? それが今回用意された服ってことか」


 謁見も終わり、朝食兼昼食を済ませて食休みをしていると、神様が私の服を見て言った。

 今私が着ているのはメイドさんから渡された服である。どうやらアリスから外に出ることを聞かされ、そのための服を持ってきてくれたようだった。


 ハイウエストの黒いスカートに、白のブラウス。そして服と一緒に手渡されたのは、青色の宝石がついたループタイ。

 謁見の時に来た豪華なドレスとは違い、確かに軽くて動きやすそうだし、いつの間にいれたのか、クローゼットには他の服もいっぱい入っていた。


「うん。制服だと目立つし、何より今洗濯に持っていかれてるしね。似合う?」


 普段はあまり着ない可愛い服にテンションが上がり、くるりと回って見せる。でも神様は面白くなさそうに頬杖をついた。


「そうだなあ……青色ね、」


 青色、というのはループタイの宝石のことを言っているのだろう。淡く光るそれは下品な輝きではなく、どこか爽やかさも感じる上品なものだ。

 私は一目で気に入っただけに、神様の含みのありそうな言い方に首を傾げる。


「? 変?」

「いやあ、良いんじゃないか? ただアリスの好感度が上がらなければいいなと思ってな」

「なんでアリスの好感度が上がるのよ」

「なんでだろうなあ」


 変なことを言う神様に増々首を傾げていると、部屋のドアがノックされた。

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