第76話 魔法騎士
とりあえず、ラーダニア様は別館に住んでもらうことにした。
と言うか、別館ってどうなってるの? ここの主として知っておかないとダメでしょうと、ラーダニア様を案内するついでに見にいった。
別館は三階建てで、一階は厨房と食堂があり、ここはサブとして使われているそうで、今は料理ができるメイドが作っているそうよ。
他にも談話室的なものやトイレやお風呂があるそうだ。意外としっかり造ってあるのね。半年もかかってないのに。
二階三階は個室であり、二階は埋まっているそうだ。
「ラーダニア様。狭くてすみません。客室が足りなくて」
細長い部屋で、ベッドと机、タンスがあるくらい。メイドが使うには豪勢だけど、名家の方には質素でしょうよ。
「旅から旅の生活をしている身。雨風を防げてダニがいないだけで最高ですよ」
なかなかワイルドな女性みたいね。
「旅をして長いのですか?」
「はい。ときどきは帰ってますが、一年の大半は旅をしております。わたしは、部屋で薬を煎じているより材料を探し求めているほうが性に合ってますので」
材料集めが趣味な人なんだ。エロい体で危険じゃないのかしら?
「一人で旅を?」
「はい。これでも剣や魔法は得意なので」
「剣ですか?」
荷物は背負っていたけど、腰に剣なんて差してなかったわよね? 見えない剣でも持っているのかしら?
「わたしは魔力剣を使います」
「マリアナ、知っている?」
護衛騎士なら知っているかしら?
「はい。そのままの意味で、魔力で剣を創り出すものです。ただ、並みの使い手では創り出せません。魔法騎士級でないと無理かと」
魔法騎士? そんなファンタジーな職業があったのね。初めて聞いたわ。
「ゴズメ王国では普通なんですか?」
エルフは魔力が高いとは聞くけど。
「いえ。わたしだけです。それに、魔力剣は咄嗟のときだけで、なにかあれば魔法を使います」
魔力剣って、咄嗟に出せるものなの? イメージ的に時間がかかりそうに思うのだけれど……。
「そうですか。まあ、この部屋を自由に使用してください。なにかあればメイドに伝えてくださればよいので。マーナ。全員に通達しておいて」
「畏まりました」
「あ、あの、なにもしないでお世話になるのは申し訳ないので、なにか仕事があるなら手伝わせてください。情けない話ですが、所持金が心もとないもので……」
薬医局のサイフは厳しいのかしら? 権限を与えているってのに?
「では、魔力をいただけますか? わたし、付与魔法は得意なのですが、魔力は二級しかありません。他者から魔力をいただかないと一日の大半を眠ってなければいけないのですわ。魔力量に応じて報酬をお渡しします」
「魔力を売る、と言うことですか?」
「はい。ラーダニア様の魔力、半分をいただけるなら銀貨五枚をお出ししますよ」
魔力がどれだけあるかわからないけど、金級はありそうな気がする。半分でもわたし以上の魔力でしょう。それだけの魔力なら銀貨五枚を払っても惜しくはないわ。あ、生活費を抜いた金額ね。
「ぎ、銀貨五枚ですか!?」
薬医局、ちゃんとお給料を払っているのかしら? それともラーダニア様が浪費家とか?
「ええ。他にも手伝ってもらえることがあれば報酬をお出ししますよ」
「やります! やらしてください!」
目を輝かせるラーダニア様。あなたどんだけ金欠なのよ? 美人が台無しじゃない。
「では、午後から魔力をいただきますので、それまでは自由にしててください。館内は自由なので。わたしの部屋も直接きてくださっても構いませんよ。手が空いていれば対応しますので」
なにもなければ一日の大半を部屋で過ごしている。いれば招きますよ。
「ありがとうございます!」
ではと、別館を出て館の前に向かった。
「コノメノウ様。いますか?」
「おるぞ」
完全に引きこもりになっちゃって。たまには外に出て運動しないと太っちゃいますよ。コロコロしたコノメノウ様も可愛いと思うけど。
中を覗くと、なにやら本を読んでいた。この方も本を読むのね。
「しばらくラーダニア様を預かることになりました。不愉快にさせないようにしますのでお許しください」
上位者に通しておかないといけないのが貴族社会の辛いところよね。
「ここはお前の館だ。わしに気を使うことはない。勝手にせい」
「ありがとうございます。では」
読書の邪魔はできないのでさっさと撤退する。
「お嬢様。手紙が届いております」
最近手紙を読んでばかりね。隠遁している身なのに。
「ありがとう」
長椅子に座り、手紙を読む。
「……またお父様からか。どれだけ売れているのよ……?」
追加して欲しいとの要望がツラツラと書いてあるわ。しかも、五百個ってなによ? うちは工場じゃないの。家内制手工業なのよ。五百個って聞いた時点で断りなさいよ。
「これは工場を造ったほうが早いかもしれないわね。アマリア。アルドを呼んでちょいだい。話がしたいわ」
「畏まりました。すぐに」
アマリアが部屋から出ていったら特大のため息を吐いた。
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