第54話 リリヤン
魔力に余裕ができて時間に余裕が持てた。けど、余裕がありすぎて時間を持て余すわね~。
王都にいればあれこれと令嬢業に勤しんでいたことでしょうけど、ここでは館の主として働くだけ。まぁ、最近は午前中に付与作業をやって、午後は送られてくる手紙を読むくらい。スローな時間が流れているわ。
……暇なのも考えものね……。
この世界に生まれてもう少しで十六年。生きるのに必死で趣味を持つ暇もなかった。
ゲームも漫画もなく、ネット環境でズブズブに生きていたから体を動かすことも少なかった。あー。ドライブや旅行とかやっておくんだったわ。
「失礼します。お嬢様。ラデガル様とロイヤード様がいらっしゃいました」
マーナがやってきてそう告げた。
「通してちょうだい」
「失礼します」
荷物を抱えた二人が入ってきた。
「ご苦労様。わざわざ申し訳ないわね」
普通に届けてくれるだけでよかったんだけどね。まあ、ものがものだけにそうもいかないか。
「いいえ。こちらこそ遅れてしまい申し訳ありたせん」
ロイヤードに言って五日。遅れるどころかマッハで揃えたんでしょうね。どこの街に早馬を走らせようと片道二日くらいはかかるでしょうからね。
「さっそくベストを見せてちょうだい。テーブルに置いて構わないわ」
一人で抱えるには大変な箱をテーブルに置き、中からベストを取り出した。
「中古品かしら?」
どれもちょっとくたびれているわね。
「はい。汚れたものは弾いたのでご安心ください」
手当たり次第集めた、って感じね。
「意外とポケットが少ないものが多いのね」
前に二つのポケットがあるのがほとんど。内ポケットがあるのはちょっと高価っぽいものだけね。
「はい。財布として使いますからすぐ出しやすいように前にだけついております」
ポケットをよく見たらコインが一枚収まるよう小ポケットになっていた。でもこれだとたくさんは入らないわね? 銅貨は別に入れるのかしら?
「容量十倍でいいかしら?」
「はい。あの、別のものを拡張できたりは可能でしょうか? たとえば鞄とか」
「できるわよ。魔力をかなり使うけどね」
やはりそこにいき着くか。ただ、店持ちの商人は鞄を下げたりしないとマゴットが言っていた。するのは大切なものを身近に持っておきたい行商人だと。
「実は、これを拡張していただきたいのです」
と、手提げ鞄を出すラデガル。へー。この世界に手提げ鞄なんてあったのね。どんな用途で使われるのかしらね?
「これはなにを入れるものなの?」
「主に本ですね。他にも書類や帳簿なども入れたりします」
紙は発明されてそれなりには出回っている。けど、書類や帳簿は持ち運ぶほどではないはず。持ち運ぶとなると文官とかかしら?
「これも十倍でいいの?」
「はい。あと、火と水に強く、衝撃に耐えられるようにもできますでしょうか?」
「可能よ。さらに魔力を注ぎ込めば中のものを時間停止させることもできるわ。まあ、さすがに一日がかりになっちゃうけどね」
時間停止はわたしの二十日分に匹敵する。コノメノウ様の魔力でも一日二日は必要でしょうよ。
「いえ、時間停止までは大丈夫です。中のものが守られるならそれで充分でございます」
かなり重要なものを入れて運ぶみたいね。まあ、なにがとは尋ねないけどね。変なことに関わりたくないしね。
「そう。なら、すぐに終わるわ」
ベストは拡張だけなのでポンと触るだけで施せるし、手提げ鞄は入れたものを出せるように設定しないといけないから五分くらいかかった。
「うん、できたわ。なにか不都合があれば言ってちょうだい。すぐに修正するから」
「ありがとうございます。お礼のほうは如何なさいましょうか」
「売上の二割でいいわ。どうかしら?」
「二割でよいのですか? こちらは七割を考えていたのですが?」
七割とは豪気を通り越して不安になるレベルね。裏があると勘繰っちゃうじゃない。
「では、三割でお願い。あと、魔力固定は五年が限界だから、さらに延長したいのなら別売りの
この世界、魔力拡散する現象があるのよね。これは昔から知られていることで、わたしの付与もその現象から逃れられないのよ。
「はい。いずれ買わしていただきます」
出したベストや手提げ鞄を仕舞うと、お願いしていたものが入った箱をテーブルに置いた。
「お願いされていた毛糸です」
箱の中を覗くと、いろんな色に染められた毛糸がみっしりと収まっていた。
「いろんな色があるものなのね。この国のものなの?」
「はい。染め物で有名なランサザリから取り寄せました」
ランサザリ? 聞いたことない地ね。あとで調べておきましょう。
「チェレミー様は編み物を嗜むのですか?」
「これから嗜もうと思ってね」
実はわたし、前世でリリヤンとかぎ針編みを習っていたのよね。
まあ、おっぱいの大きい従姉と一緒にいたくて必死に学んだんだけどね。アハハ。
「治癒力を高める付与を施したらアマデア商会に卸すから買い取ってもらえると嬉しいわ」
ただ作るのもなんだしね。売れるなら遣り甲斐も出るでしょうよ。
「もちろんでございます。高額で買わせていただきます」
「そんなに高額でなくてもいいんだけど、まあ、値段と報酬はそちらに任せるわ」
二人が下がったら椅子に座り、引き出しから職人たちにお願いしていた道具とかぎ針を取り出した。
「編めるかしら?」
前世の従姉(主におっぱい)を思い出しながら編み始めた。
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