第44話 切り札

 叔母様の話も終わり、お昼を美味しくいただき、さあ、休もうかと思ったら叔父様に呼ばれて会議に参加させられました。


「わたし、必要ですか?」


 ちょっとお昼寝したいんですけど。


「先が見えているのはお前だけなのだから必要だろう」


 別に先が見えているわけじゃないんですけどね。そんな風になるかな~ってていどですよ。


「食料危機にならなければ民は騒ぎませんよ。ただ、周りの方々からは助けてくれと言ってくるとは思いますけど」


 わたし、周囲の領地までよく知りません。そこまでの時間と取っかかれる伝手がなかったからね。


「それはどうしたらよいのだ?」


「付き合いのある方でしたら気をつけてくださいとお手紙を出せばよろしいかと思いますよ。付き合いのない方は……付き合いのある方から注意なさってもらえばよろしいかと」


「……それだけか?」


「なんの権限もないわたしには注意喚起することしかできませんよ。叔父様にも麦を貯め込めろとしか申してませんし」


 信じないのならそれまで。身を削ってまでやる義理はないわ。


「商人や民には貯蔵を推奨するのもよろしいかもしれませんね。不審に思った方は人を寄越して調べるかもしれませんし」


 帝国が仕掛けるなら夏の手前辺りからだと思う。豆を植えて収穫するときがそのくらいだからね。


「これは確証のない予想です。わたしが責任を負える範囲はカルディム領だけ。他は他の権限と責任でやるべきです」


 どのみちわたしにできることは少ない。まずはこの苦境を乗り越えること。あとは野となれ山となれ、よ。

 

 ……まぁ、切り札はあるから大丈夫だとは思うけどね……。


「それではどうにもならないではないか」


「これを考えた方はそこまで見越しているのでしょうね」

 

 この国にそれを見抜く人がいればよいのだけれど、これまでの動きからしてそんな人はいないでしょうね。まったく、悪い時期に生まれてしまったものだわ……。


「お前は見越しているではないか」


「権限を持つ者が見越せなければ意味はありません。わたしがどうにかできるのは一領地。それでも周りが対処してなければ焼け石に水。かなり苦境に陥るのは確かでしょうね」


 まったく、巧妙よね。いったいどんな人がシナリオを書いたのかしらね?


「ともかく。叔父様は食料確保に動けばよろしいでしょう。万が一のときはわたしが全責任を負いますわ」


 この首一つで責任を負えるなら安いものでしょうよ。


「……お前、まだなにか隠しているだろう?」


「叔父様は知らなくていいことです。わたしが暗躍した、って形になっていることが重要ですからね」


 蜥蜴の尻尾切りはよくあること。わたしが単独で行ったならカルディム家を残すことはできるわ。まあ、多少なりとも領地は減らされるかもしれないけどね。


「わかった。お前の言葉を信じよう。隣のライルグ家とは曾祖父の代から付き合いがあり、現当主とは友人だ。話を聞いてくれるだろうよ」


 へー。そうなんだ。やはり隣近所との付き合いって大切なのね。


「それはよかった。もし、豆が暴落したら買い占めるとよろしいかと。豆なら家畜のエサにもなりますしね。わたし、鶏を飼いたいんですよね」


 王国で養鶏ってやってないのよね。なぜか養豚はしてるけど。


「確か、ライルグ家で鶏を飼っていたはずだ。あそこは卵を食べるようだからな」


 灯台もと暗し。まさかお隣さんでやっていたとは。早く叔父様に相談しておくんだったわ。


「手に入れられますか?」


「大量に、でなければ問題なかろう。ちょくちょく燻製卵を送ってくれるからな」


「ライルグ領まで近いんですか?」


 ちょくちょくと言うなら遠くはないはずだ。


「馬なら半日だな」


 メッチャ近いじゃん! ここから半日なら館からでも一日でイケるじゃないのよ!


「でしたらライルグ家に縁のある商人に卵を運ぶよう段取りしてもらえますか? もちろん、その費用はこちらで払いますから」


「まあ、話してみないとわからないが、そう難しくはないはずだ」


 それはなにより。館で飼うより買ったほうが楽でいいわ。


「では、その友人に内緒話をしておいてくれますか。我が姪はお妃様と繋がりがあるようだ、と」


 卵が定期的に手に入るなら鶏も手に入れるはずだ。久しぶりに唐揚げが食べたいわ~。


「お、お妃様とだと!? それは本当なのか?!」


「とあるところからお話をもらい、用件を片付けました。そのときに食料を貯めておくことも進言しておきました。よほどのことがなければわたしの話を無下はしないでしょう」


 お妃様も後ろ盾がないと城ではやっていけないでしょうからね。耳よりな情報は流してあげるでしょうよ。


「……お前と言う娘は……」


 呆れ果てる叔父様。否定しないところが叔父様のいいところよね。


 ……まあ、呆れ果てられてる時点でわたしの評価はお察し、だけどね……。


「これは内緒話。あまり広めないでくださいね。お妃様にも迷惑がかかりますから」


「言えるか! 貴族派を敵にしたらうちなど簡単に吹き飛ばされるわ!」


「まっ、上手く立ち回ってくださいませ」


 あとは叔父様の口先次第。がんばってくださいませ。

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