第42話 ホールド

 ……暑い。


 もう冬に入ったと言うのに暑さに目覚めてしまった。


 起きようとしたが、体が固定されているように動かない。え? 金縛り!?


 って驚きも一瞬。そう言えばナジェスとレアナの二人と一緒に寝たんだっけね。


 子供の体温は高いと聞くけど、二方向から温められるとたまんないわね。夏だったら地獄だったわ。


 はぁ~。二人に両腕をホールドされて動けないわ。


 わたしにショタ属性もロリ属性もない。ゴリゴリのおっぱい属性だけど、二人を見たらこの寝顔を壊したくないと思ってしまう。これが母性と言うものかしら?


「ラグラナ。いる?」


 部屋の中は明かりが灯っているけど、闇は多い。誰かいてもわからない死角がある。そこにラグラナが絶対あると思って声をかけた。


「……はい。ここに」


 闇の中からスッと出てきた。


 やっぱいたんかい! あなたちょっと怖いわよ! 一晩中いるとかあなた人間? いや、人間ではないわね。魔族であることを失念していたわ……。


「二人を起こさないよう離してちょうだい」


「畏まりました」


 なぜかレアナのほうに回り、わたしの腕をホールドするレアナを鮮やかに離してくれた。


 片方が外れたらナジェスを起こさないよう外してゆっくりベッドから出た。


 ふー。漏れちゃうところだったわ。


 簡易トイレに向かい、スッキリお花を咲かせた。グリムワールでキレイキレイにしてさらにスッキリ。やはりトイレはこうじゃないとね。


 寝巻きに涼しさを付与を施してベッドに。いや、なんでレアナを抱っこしてんのよ?


「昔のお嬢様を思い出してました」


 そう言えば、あなたによく抱かれていたわね。今のレアナくらいまで。あなた、昔に子供でも亡くしているの? それなら引退して子供でも産みなさいよ。ついでに母乳シーンを見せてもらいたいわ。あ、さすがに飲みたいとは思わないからね。


「まあ、ほどほどにしてベッドに寝かせてあげなさいよ」


 わたしはスッキリしたのでベッドに潜り込み、無邪気に眠るナジェスのほっぺにおやすみのキスをする。


「……ねーさま……」


 ふふ。甘えん坊なんだから。


 胸に埋めるってことはできないので、首の下に腕を通して抱き締めてあげた。


 寝巻きが涼しくなったのでナジェスの体温もほどよくなった。あー温い温い。


 そのまま眠りについてしまい、なにかモゾモゾして目を覚ました。なーに。いったい?


「……ね、姉様……」


「おはよう、ナジェス。よく眠れた?」


「は、はい。よく眠れました。あ、あの、おしっこしたいです……」


 あ、それはごめんなさいね、しっかりホールドしてたわね。


 外してあげ、簡易トイレに連れってあげる。


 ラグラナは? と探すけど、なぜかいない。交代したのかしら? まあ、いいわ。


「ナジェス。ズボンを下げてそこに座りなさい」


 貴族の子はズボンもメイドに下げてもらうからか、ナジェスも自分で下げることができないようだ。これも自分でできるようにしたいものよね。なにもできない子に育つじゃないのよ。


 便器に座らせてシーシーさせる。


「……ね、姉様、見られると恥ずかしいです……」


 あら。ナジェスはちゃんと羞恥心が育っているのね。自立心が高そうなによりだわ。このまま立派な男に育ってちょうだいね……。


「ごめんなさい。ナジェスはもう男の子なのね。次からはちゃんと男の子として接するわ」


 変な性癖を宿しても困るしね。一緒に寝るのは今日で終わりにしましょうか。


 と言いつつも寝巻きのズボンを上げてやり、簡易トイレを出た──ら、いなかったはずのラグラナがいて、レアナを抱いていた。


「いつの間に現れているのよ?」


「申し訳ありません。他のメイドと打ち合わせをしてました」


 もぉう。タイミングが悪いんだから。


「おはようございます」


 と、メイドが何人も入ってきた。


 二手にわかれたところをみると、ナジェスとレアナの担当メイドのようね。って、いつまでレアナをお世話しているのよ、ラグラナさんや。


 まあ、わたしはわたしでやるからいいわよ。


 盥にグリムワールでお湯を溜める。


「お嬢様。お湯をわけていただけますか? ナジェス様を拭いてあげたいので」


「なに? いつも水で拭いていたの?」


 この時期に水は辛いでしょうが。


「いえ、お湯で拭いていましたが、すぐに冷えてしまって」


 確かに釜戸で湯を沸かして部屋まで運んでいたら冷めちゃうわね。


「あとでお湯が出せる魔法の杖を用意しておくわ。明日からはそれを使いなさい」


 メイドも大変でしょうにね。ナジェスに魔力を籠めさせたら毎日使えるでしょうよ。


「お嬢様。レアナ様にもお願い致します」


 そっちもかい。まぁ、ナジェスだけ、ってわけにもいかないんだから仕方がないわね。


 盥がないので桶にお湯を入れてやり、レアナのメイドに渡した。


 まったく、朝から忙しいんだから。


 基本、自分のことは自分でできるので、寝巻きを脱いでグリムワールで大きなお湯玉を創り出してそこに入った。


「お姉様、わたしも入りたい!」


 恐れ知らずなレアナがお湯球に飛び込んていた。いや、溺れるわよ!


 グリムワールでお湯球を操って顔を出させた。


「温かくて気持ちいい!」


 それはなにより。わたしは肩が出て寒いわ。


「お兄様も入りましょうよ!」


 器用にお湯球の中で泳ぐレアナ。この子、凄いわね。犬かきで泳いでいるわ。


「ナジェスもいらっしゃい」


 除け者にするのも可哀想だしね、お湯球を大きくしてナジェスを誘った。


「ほら、遠慮しないでいらっしゃい」


 メイドに目配せしてナジェスを連れてきてもらい、二人を洗ってあげた。

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