42話 成果報告会(2/2)
ギルドに到着して案内されたのは、いつもカンファレンスで使っている大会議室ではなく、ギルドマスターの執務室だった。
一足踏み入れると床には
大きなガラス窓からは陽光がたっぷり差し込んで、部屋全体の色彩が鮮やかに映えさせていた。
先に揃っていたサン・ラモン筆頭のハンターがずらりと横に並び、その奥に部屋の主、ギルドマスターが窓際の執務机に向いて座っている。
こちらに気づいたカスティージョは、机の上で組んでいた両手を解いて口を開いた。
「全員揃いましたね、始めましょうか」
「遅くなってすみません」
「いいえ、リベリカさん。定刻通りですよ」
あちこちから不躾に向けてくるハンター達の視線に刺されながら部屋の中央まで進んでいく。
リベリカたち3人が執務机の前までやってくると、カスティージョは部屋の扉が閉ざされるのを確認してから口火を切った。
「まずはクエストご苦労様でした。事前に報告いただいた通り、ターゲットのモンスターは2体とも討伐成功。この結果はギルドとしても快挙と言えるでしょう」
おおと感嘆の声が隣から湧いてくる。
見ると、サン・ラモン傘下のハンターが気色を浮かべていた。
「(こいつら活躍したのか?)」
「(いんや、まったく)」
隣でヒソヒソと小馬鹿にしているアリーシャとモカをチョップで黙らせる。
内心では自分も軽口を一緒に交えたい気分だが、ここは我慢。
やっかみを持たれている相手に小言を聞かれたら、ただのもめ事では済まないこと必至だ。
幸いふたりの軽口は聞かれていなかったらしく、ハンター達は前のめりでカスティージョの次の言葉を待っている。
「特にサン・ラモン。全体統括に加え、亜種の討伐も成功させた成果は評価に値します」
「さすが隊長!」
「やりましたね!!」
名指しでリーダーが褒められて鼻が高いのか、はたまたゴマすりなのかもしれないが、取り巻きのハンターたちがそれぞれにガッツポーズやハイタッチを決める。
カスティージョをトップとして「実力主義」を謳う現体制になったとはいえ、ギルドマスターからの評価が重要であることは今も昔も変わりはない。
商人や平民の出であるギルドハンターは、ギルドで昇進を重ね、ギルドマスターの推薦を得て騎士団に編入することを目標に掲げている者が大半だ。
そして、サン・ラモンはそのゴールに最もに近いと言われている有力者。
だからこそ派閥に与しようと多数のハンターがチームに所属しているわけだ。
「いよいよ昇進が決まったんじゃないか」と
そんな中、カスティージョの鋭い声音が緩みきった空気を裂いた。
「しかし、今回のクエスト内容は手放しで喜ぶべきものではないと認識しています」
弛緩していた空気が一瞬で張り詰める。
わびしい静寂に包まれる部屋の中、淡々とした詰問が続く。
「サン・ラモン、あなたのチームからクエスト中に多数の離脱者が出たと聞いています。間違いないですか?」
「……事実です」
念のための確認なのか、サン・ラモンに向いていた真偽を問う視線がこちらにも向けられる。
リベリカが首肯して意思を示すと、カスティージョは目を伏せて息を吐いた。
「モンスター2体、しかもうち片方は亜種個体の討伐。これを無傷で完遂できれば大々的に体外へアピールできましたが。そう上手くはいかないようですね」
「十分な成果を残せず、申し訳ございません」
「いえ、これは私の期待が過大だっただけのこと。クエスト自体は成功ですから結果に問題はないのですよ」
「ただし」と付け加えて、カスティージョは机上の報告書を指でトントンと叩いた。
「クエストの過程には問題があると言わざるを得ません。そして、報告書の説明も不十分です」
「我々の報告書が、でしょうか……?」
厳しい口調に気圧されたのか、サン・ラモンの声が微かに震えている。
「はい。事前に拝見しましたが、どうして離脱者が大量発生することになったのか、その経緯がはっきり書かれていない。これは問題です。この場で詳らかにする必要がありますね」
そうして、両チームが提出した報告書の読み合わせが行われることになった。
カスティージョから資料を受け取った秘書の女性が、まずはモカが執筆した報告書の中身を読み上げていく。
===【報告書】===
1.キャンプ地点を出発後、アリーシャとリベリカの2名はランドラプター通常個体の捜索を開始し10分経過ほどで発見。
2.対敵から5分足らずで討伐完了。この時点で負傷はなし。
3.その後、キャンプへの期間途中に救難信号を発見。救援のため両名はサン・ラモンたちの戦闘場所に駆け付ける。
4.現場に駆け付けた際、既に4名のハンターたちが戦闘不能状態だったため、リベリカが救助を開始。
5.要救助者の避難を確認後、アリーシャはサン・ラモンに加勢。両名協力のもと、ランドラプター亜種個体の討伐に成功。
以上
=============
報告書にはその他にもモンスターの個体調査に関する記載などが含まれているはずだが、それは今回の争点ではないらしく割愛された。
ともかく、モカの報告書には2人の行ったクエストの一部始終が理路整然と記載されていた。
そして当然のことだが、アリーシャとリベリカの視点で語られる報告書であるため、サン・ラモンの部隊がどのように危機的状況に陥ったのかは記されていない。
カスティージョが指摘する「離脱者が発生した経緯」の説明は、サン・ラモンの報告書を確認すれば良い話のはず。
だのに、どうして自分たちの報告書まで確認する必要があったのか。
リベリカは胸の片隅に違和感を抱きながら、続いて読み上げられるサン・ラモンたちの報告内容に耳を傾け、
【離脱者が出た直接の原因は、アリーシャたち他チームの乱入による現場の混乱】
そして自分の耳を疑った。
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