41話 成果報告会(1/2)
ランドラプターの狩猟クエストから2日が経った日の昼下り。
春から夏へと移ろいつつある青い空の下、リベリカとアリーシャとモカの一行はギルドへと続く街のメインストリートを歩いていた。
その先頭を行くアリーシャは、いつもの億劫そうな雰囲気はまるでなく、珍しくも鼻歌を歌いながら大手を振って歩いている。
「なんだ、やけに楽しそうじゃないか」
その背中にモカが白けきった声を掛けると、アリーシャはステップを踏みながらダンスでも踊るようにくるり身体ごと振り返った。
「だってぇ、今日はクエストの成果報告会~! 今まで他のチームの報告聞いてばっかりだったけど、今日の主役はアタシたちだも~ん♪」
「へえへえ、主役様は気楽でいいもんだ」
「モカは楽しみじゃないの?」
「ボクは脇役だからな。報酬を貰いに行く以外の感情は湧かないな」
ゲストハウスを出発してまだ数分なのだが、こちらは対照的にすっかり疲れ切っている様子。
部屋に籠ってばかりで運動不足とはいえ、ゲストハウスからここまでの道のりは子供の体力で疲れるような距離ではない。
外に出た瞬間からテンションがダダ下がりしているのはむしろ他の理由だ。
陽射しから身を隠すようにフードを深く被り直して、徐々に足並みを遅らせていく。
「というか、ボクはお前らのクエスト報告書を書くので疲れた。今日はやっぱり欠席で――」
いよいよモカが足を止めようとしたものの、すかさず「ダメです」とリベリカがその手を引っ掴む。
「報告書の執筆者は出席必須ですから」
「なんだその面倒くさいルール。書くんじゃなかった……」
「まあそう言わずに。今回の分のお礼はしますからとりあえず今日は来てください」
ズルズル引きずられているモカがげんなりした表情で嘆息する。
うんざりとした気持ちには同情しかないのだが、さりとて、ここは心を鬼にして連れて行くしかない。
今回は、そもそもが「2チームが同時並行で2体のモンスター討伐に挑む」というイレギュラーなクエストだった上に、実際にはリベリカたちがもう一方のチームの救援と加勢をも行うというイレギュラーな事態が重なった。
その複雑すぎるクエストの一部始終をモカが客観的に言語化してくれたおかげで何とか報告書を作り上げることができたのだ。
ちなみに、アリーシャが書くと前衛的なポエムのような報告書ができあがり、リベリカが書くには知識が足りず、やはりまともな報告書は書けなかった。モカさまさまではある。
リベリカが駄々っ子を連れて行く親の気分で手を引いていると、案外とあっさり抵抗してくる力が弱まった。
すぐにまたリベリカと肩を並べて歩き始めたモカがどこか心配そうな声を掛けてくる。
「その腕、大丈夫そうか?」
モカが視線を向けているのは、先日のクエストで負った傷を癒すため、ぐるぐる包帯巻きになっているリベリカの腕だった。
リベリカは気軽にその包帯を撫でて見せる。
「大したことないですよ。ただの擦り傷とかですし、ちゃんと薬も塗ってもらってるので綺麗に治るはずです」
「ならいいんだが。……それ、他のチームの奴らを無理に助けたせいなんだろ。せめて薬代くらい請求したらいいんじゃないのか?」
「向こうから頂けるなら受け取るのはやぶさかじゃないですけど、こっちから請求するのはちょっと」
「ほんっとーにリベリカはお人好しすぎるだろ。そんなんだから今回もまた色々と難癖つけられてるんだって」
「それは耳が痛い話です……」
モカの言う通り、今回の1件でもまた、クエストを一緒にしたサン・ラモンのチームの一部メンバーが良からぬ訴えをしている、という話が風の噂で流れてきていた。
なんでも、途中でクエストを離脱したハンターたちが、「自分たちはアリーシャたちに邪魔された」「横槍を入れられたから離脱せざるを得なかった」と主張しているらしい。
今日のクエスト報告会が限られたメンバーだけで実施されることになったのは、恐らくその裁定も同時に行うためだろう、とリベリカは予想している。
今回の行動に関しては感謝されることはあれども、責められるような
「ほら噂をすればお出ましだ」
いよいよギルドの建物が視界に入ってきた辺りで、10人そこらのハンターたちがぞろぞろと歩いている姿が見えた。
そこにサン・ラモンらしき人物は見当たらないが彼の派閥のハンター達だ。
リベリカにとってはかつてのチームメイトであり、しっかり顔は覚えている。
最後尾を歩いているハンターがこちらに気づいたのか、敵意丸出しの視線をくれてきた。
「なんかやっぱり私も欠席でいいですかね……」
こういう場面に遭遇することは想像していたのだが、それでもやはり気分が塞ぎこんできて苦笑が漏れる。
すると、それを逃がすまいとでも言うように、右手をモカが、左手をアリーシャが掴んできた。
「ダメだな。腹をくくれリベリカ」
「何も悪いことしてないんだから、心配しなくて大丈夫だって~」
「そう……ですよね、うん」
頼もしそうで頼もしくない、でもこういう時だけはちょっと頼もしいと思える2人。
そんな仲間に手を引かれながら、リベリカはギルドが構える大きな正門をくぐった。
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