第11話
「そんじゃ、今日も今日とて生きて帰ってこれたことにカンパーイ!」
『カンパーイ!』
本日も無事ダンジョンから帰り、焼肉に来ていた。
金網に並んだ肉が香ばしい匂いと共に焼かれていく。
匂いを堪能しつつ、キンキンに冷えたビールを一気に半分ほど飲み干した。
ダンジョンでの程よい疲労感にすぐに酔いは回っていく。
暫くして、程よく焼けたハラミに箸を伸ばすと、もうひとつの箸が狙っていた肉を掻っ攫って行った。
「おい、それは俺が育てたハラミだ。今すぐ返せ。」
『なぁに言ってるッスか!
「ほう?よろしい、ならば戦争だ!貴様には肉の欠片すら渡さん!」
『望むところッス!』
2人で騒ぎながら食べていると、テーブルに置いてあったケータイが静かに震えた。
箸を止めて見てみると、メールが一通届いていた。
誰からだろうと思い開いてみると、麗奈からであった。
件名:麗奈です。
こんばんは、かーくん。
昨日の今日で申し訳ないのだけれど、出来れば今すぐに来て欲しいの。
詳しくは私の部屋で話すから、お返事ください。
何か問題があったんだろうなと思い、了解。と返信して金網をみる。
…………やられた。
金網の上に肉はなく、目の前の骸骨が無い腹をさすっているのを見て手に持った箸を折ってしまった。
やりきった顔(表情は無いが)で指ハートをしてくる相棒に拳骨とため息を落とし、残ったビールを一気に煽る。
会計を済ませ、いつもの部屋に向かう途中何か違和感を感じた。
なんとも言えない胸騒ぎを他所に足を早める。
幸い、店からすぐ近くだったので、さほど時間もかからずに麗奈の元へとたどり着いた。
インターホンを押すと、バタバタと足音を立てて扉が開いた。
しかし、出てきたのは麗奈ではなく、眼鏡をかけた可愛らしい女性だった。
部屋を間違えたのかと確認するが、確かにこの部屋で合っていた。
「あ、あの、かーくんさんでしょうか?」
「んぁ?ええ、そう呼ぶのは1人しかいませんが、麗奈によばれてきたんですけど。」
「ありがとうございます!社長が中でお待ちですのでどうぞ上がってください。」
促されるまま部屋の中へと入り、リビングの扉を開けると少し苛立った様子の麗奈がパソコンにかじりついていた。
「社長、かーくんさんがいらっしゃいました。」
「あ、薫で良いですよ。」
その声に反応した麗奈は先程の苛立ちはどこえやら、すぐに花の咲いた笑みを浮かべてこちらにやってきた。
「かーくん!来てくれてありがとう!」
「いや、それはいいんだけど、何があったんだ?」
「実はね、B地区にあるダンジョン、帰らずの森でスタンピードが起きたの。それで急遽うちのクランが緊急クエストとして指名されたのだけど…」
「スタンピード? それってモンスターが大量発生してダンジョンの外へ出てくる奴だっけ?」
「ええ、今はまだダンジョン内にギリギリ留まっているけれど。もしモンスターが外へ出てしまうと取り返しのつかない事になるわ。」
かつて1度、世界のある国でスタンピードが起きたそうだ。
その被害は凄まじく、国の約3割の人口と建造物が破壊の限りを尽くされたとされている。
それ以来、ダンジョン内の入口から近い階層には所々カメラを付けており、前兆があればすぐに対処できるようにすることが義務化されたのだ。
「うちのクランもすぐに招集をかけたのだけれど、主力戦力は今出払っていて、早いパーティでも明日の昼になってしまうの。」
「あ、あの、私からもお願いします!」
2人の美女に頭を下げられる。
正直、想像できないほどのモンスターが群れを生しているのだろうが、俺が相手にできるのだろうか?
そう思ってさっきから静かな相棒へ目をやると、必勝ハチマキを頭に巻き、主頑張って!と言う横断幕をヒラヒラさせていた。
その様子を見て、緊張がほぐれる。
「わかった、今すぐ行くよ。車は出してくれよ?」
「ええ!もちろんよ!下にもう準備しているわ!」
麗奈の安心しきった顔を見ると、これは失敗できないなと自分を鼓舞する。
涙を浮かべ、不安そうな顔でこちらを見上げてくる麗奈にすこしグッと来たのはここだけの話だ。
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