10月9日 月曜日 ~事件解決後談~ (1)

「恋虎、いつまでプンスカ怒ってんだよ」


「そうだよー。大活躍だったじゃーん」


「羞恥心を捨てる決断、見事であった」


「……うむ」


「うむじゃねえよ! ゴンベエ! てめえ、まだ全然能力治ってなかったじゃねえか!」


 あたしは向かいに座った白狼とテーブルに並べられた珍獣たち、特にゴンベエを睨みつけた。あたしたちは今、商店街の中にあるやよい軒に来ている。


「まあまあ恋虎さん。だからこうやって、ご飯をごちそうしている訳じゃないか」


「あんたもよくもだましてくれたわね」


 公園での一件の後、白狼以外の四人はみんな白々しく何かの用事を思い出したとか言い出して、公園を出て行った。今日も朝からあたしを見るなりヒナの顔は引きつっているし、一日中どこか距離があった。弁明するために星野くんたちのクラスにも顔を出したが、彼らは明らかにあたしを避けているようだった。何でこんな事に……。


「こうなったらどか食いしてやる!」


「それはいつものことだろう」


「何の問題もなく事件が解決していても、お祝いとか言ってどか食いするくせにー」


「恋虎嬢の行動パターンは単純でござるからな」


「……はぁーあ」


「ため息付いてんじゃねえよ。てめえら覚えてろよ」


 そんなやりとりをしている間に、あたしのしまほっけ定食と、白狼のなす味噌と焼き魚定食が運ばれてきた。白狼のもなかなかうまそうだな。


 手を合わせ、ほっけを箸でついばみながらご飯をかっくらう。ああ、美味しい。一口ほっけを口に入れる度じんじんと点滅する頭の熱が和らぎ、怒りが収まっていくのが分かる。


「星野くん、大した罰を受けなくてよかったわね」


 全ての事情を報告した星野くんは、いろいろな大人からこっぴどく絞られたようだが、あたし達と同じように奉仕活動をする事で、事件がおおっぴらになる事はなかった。


 当然警察には真実を報告しているが、星野くんや、今回の事に責任を感じている美藤さんの精神状態を鑑みて、あたし達を含めた一部の人間以外にはきつい箝口令がしかれることになった。


 もっとも、事件解決のタイミングでちまたを賑わせていた空き巣犯が捕まったので、周りの生徒や大人達は、学校に侵入した不審者=空き巣犯と自然と納得しているようで、あまり詮索する人間はいなかった。


「でも、一個だけ解決してないことがあるんだよね」


 あたしはおかわり自由の漬け物をむしゃむしゃと食べながら、今日の帰り際に馬場先生と話した事を思いだした。


 ――空き巣犯の話だと、確かに近所の家には盗みに入ったけど、うちの学校には一度も入っていないってよ。だとしたら、最初の侵入者は誰なんだろうなぁ。


「まだ事件は終わってないのかな? ねえ、なす一口もらって良い?」


「犯人が捕まったんだから、もう事件は終わってるよ」


「じゃあ最初の侵入者は誰なの? 鯖、半分もらって良い?」


「それはこれから分かることだよ。でも、僕や君には何の影響もないから安心して」


「ということは、白狼には侵入者が分かってるってこと? 教えなさいよ。味噌汁食べないならもらって良い?」


「検討は付いてるけど、確証はない。だから言わない」


「けち。仕方ないから、冷や奴もらっていい?」


「さっきから身ぐるみを剥がす勢いで要求がエスカレートしているね。同じテーブルなのに、ここまで食べているものの貧富の差が激しくなるとは」


 気がついたら白狼のお盆にはご飯と漬け物しかなくなっていた。あらやだ。あたしったら、いつの間にか白狼の主菜の入った皿ごと自分の領地に持ってきていたわ。うっかり、うっかり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る