第十四話 そんなこと言われたらうれしすぎます!
……へ?
「また何を言い出すかと思えば、
しっしっ、と華老師がてのひらを振るが、耀藍はしれっと言い返す。
「オレにもちゃんと事情があるよ。オレ、香織の見張り役だからね」
「何を言い出すかと思えば見張りとは……出まかせも
「出まかせじゃないよー。この子を見張れって命令されてるんだよ、姉上に」
「なに?!」
華老師の顔色が変わった。
「紅蘭様が? ほ、ほんとうか」
「ほんとほんと、姉上が香織の見張り役にオレを指名したんだ」
「むう……紅蘭様が……」
え、華老師どうしてそんな怯えたような難しい顔を?
「紅蘭様には逆らえんからのう。逆らえばなにをされるかわからんでのう」
え、そうなの?!
美しく、しかし毒のある妖艶な笑みが脳裏をよぎる。華老師が怯えるのもわかる気がした。ていうかどんだけ恐れられているんだろう、紅蘭様。
「わかった。ただし、期間限定じゃぞ。紅蘭様が見張れと言っている期間だけじゃ」
「やったー!」
でかい図体で無邪気に諸手を上げる耀藍。そんな仕草にもどきりとしてしまう。
やだやだあたし何考えてんの!
しっかりして自分、と思いつつドキドキが止まらない。
耀藍たらぜったいこれ才能だわ。天然ジャニーズ男子だわ。
そのへんの男の子がやったらあざとく見えてしまうようなリアクションも自然にやってのけ、惹き付ける。これを天性の才能と言わずして何と言おう。
おそるべし異世界の天然ジャニーズ。
香織がうなっていると、華老師も同じく腕組みをしてうなり始めた。
「だがのう……ひとつ、問題がある」
「えー、なになに問題って」
「すぐに使える部屋が、一つしかなくてのう」
「え、いいじゃん。オレ一人だから部屋一つで足りるでしょ」
「そうではなく……その部屋は、その、香織の部屋から内扉でもつながる、香織の部屋の隣室なのじゃ」
ええええええええ!!!
思い出す。確かに、部屋の中に小さな扉があった。なんとなく開けちゃいけないのかなってそのままにしていたけど、あれって、隣の部屋につながってたの?!
「だめだめだめ!! その部屋は却下ですっ」
「なんでだ?」
なんでって……
だってイビキとかオナラとか寝言とか、なんかいろいろ聞かれたら恥ずかしいし、それに――
「なんだ、心配するな。オレは夜這いとかしないぞ」
「夜這い?!」
小英の顔が真っ赤になって声が裏返る。
「なっ、こんな小さい子の前で何言ってんの!」
「そういう問題じゃないのか?」
「そ、そういう問題だけど……そういう問題じゃなくてっ」
――こんなイケメンと同じ屋根の下で暮らすなんて私が夜這いしちゃいそう!
……って、え? 何いってんの私??
そんなことをとっさに思った自分に驚く。
前世の香織はそういうことには奥手で、そんなことは考え付きもしなかっただろうに。
(今の言葉は私のキャラが言わせた言葉じゃない!)
この美少女の
ていうか夜這いするとかしないとか、結婚歴15年の主婦(43)がそんなことに悩むなんて……いやいや違う、今の私は15、6歳の美少女よ! だからこそ悩むっていうか!
などと
「ダメなのか? オレ、香織の作ったゴハンを毎日食べたい」
きゃあああ!!
瞬殺。
そんなアクアマリンの瞳で、そんなジャニーズみたいな端麗な顔で、そんな甘い声で。
私の作ったゴハン毎日食べたい、なんて言われたら。
「わかりましたぁっ。隣の部屋でもいいですっ」
香織はお盆を抱えて立ちあがった。
「ほ? よいのか、香織」
「いいですっ」
「まあ、そなたがよいならよいが……」
困惑したような華老師とは対照的に、耀藍はうれしそうだ。
「これくらい役得がなくちゃ、姉上の気まぐれには付き合えない。じゃあオレ、さっそく荷物取ってくるから」
耀藍はそう言ってふらっと外へ出ていく。またあの距離を歩くのか、とげんなり思ったが、きっとまたあの不可思議な術で往復するのだろう。
いろんな意味で、おそるべし『蔡術師』……。
「耀藍様がここに住むなんて、なんだか変な感じだなあ」
小英はそういいながらもうれしそうだ。
香織もうれしさに顔がにやけてしまう。
だってだって。
私の作ったゴハンを毎日食べたい、なんて、夫にも子どもたちにも言われたことない。
うれしすぎる……!
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