第7話 隔離された生徒たち
ブラックライト内。
「よし。これで生徒たちの隔離は完了したな」
空間に浮かんだ立体映像をみながら、勇人は満足そうな笑みを浮かべる。
「電脳意識(サイバーセンス)」を使ってエストラント号を乗っ取った勇人は、次にスマホを通じて生徒たちの脳に干渉した。
これで彼らの意識を読み取ることができる。
「生徒たちの意識を解析したところ、君に対して悪意をもっている者は26人中15人だったよ」
空中に映像が浮かぶ。従兄弟の桐人、腹違いの妹である真理亜、元婚約者で向こうから婚約解消してきた豊畑奈美、幼馴染だが常に勇人をバカにしてきた鳩川小百合、クラスのヤンキーたちと入光史郎、リア充女子たちとそのリーダーである空美幸などが挙げられていた。
基本的に、クラスのスクールカーストの上位を占めるものたちで、それなりの上流階級の子弟たちである。
「逆に、内心君に同情しながらも、周囲を恐れて傍観していた者たちもいるようだね」
特待生で学園に入っり、優秀な成績でクラス委員長を務めている金谷姫子、苦労してバイトして生活していると噂されている猫屋敷美亜、おとなしい性格で陰キャと呼ばれていじめられている幽谷玲など、クラスの下位カーストにいるような者たちは、勇人に対して敵意をもってはいなかった。
「でも、こいつらも俺へのリンチに参加していなかったとはいえ、俺へのいじめを無視していたんだよなぁ」
それぞれ憎しみの度合いが違うとはいえ、基本的には全員に対して怒りを感じている。
「よし、まずは全員に三日間の幽閉の罰を与えよう。それだけあれば、舞台も整うからな。サタン、ほかの船や飛行機を近づけないために、エストラント号の周囲に磁気嵐に加えて暴風雨を起こしてくれ」
「わかったよ。協力してあげる」
サタンはブラックナイトに搭載されている気象コントロール兵器を使って、船の周囲の気候を変更する。
「さて、部屋から解放された後、どんな行動をとるかじっくり見させてもらおう」
高笑いすると、勇人は自らの意識をエストラント号に同期させた。
「腹減った……」
クラスメイトたちは、それぞれの部屋の中で空腹に苦しんでいた。水は備え付けのトイレから調達できたが、部屋の中には食べ物はない。
わずかな手持ちのお菓子を食べ尽くした後は何も食べるものはなく、贅沢に慣れた金持ちの子弟たちは死にそうなほど衰弱していた。
さらに、時折スマホに着信があり、不気味な笑い声が響く。
「誰だ!」
必死に問いかけても返答はなく、いつの間にか切れてしまう。やがて、生徒たちの心に一つの思いが浮かび上がってきた。
「これって、勇人の呪い……?」
くぐもった声でよくわからなかったが、スマホから流れてくる笑い声は勇人に似ている気がする。
「ごめん…許してくれ……」
「私たちが悪かったわ。ごめんなさい」
恐怖に駆られた生徒たちは、ひたすら勇人に謝り続ける。
そんな祈りが通じたのか、三日ほどして唐突に部屋の電子ロックが解除される。
「やった!出られたぞ」
なんとか部屋から出れた生徒たちは、久しぶりに外の光景をみる。外は絶え間なく暴風雨が吹き荒れていて、空を見上げると真っ黒い空に不気味なオーロラが広がっていた。
本能的に不安を感じさせる光景であるが、今の生徒たちにそう感じる余裕はない。
「と、とにかく、飯だ。何か食べるもの」
飢えた生徒たちは。船の食堂へと集まる。しかし、彼らを待っていたのは非情な現実だった。
「な、なんだこれは。腐っている」
数百人の乗客を抱える豪華客船には大量に食料が備蓄されていたはずだが、なぜか冷蔵施設の温度設定が狂っていて、生鮮食品の類が温められ腐臭を放っていた。
「くそっ」
やむなく生徒たちは、缶詰などを食べて飢えを満たす。
ようやく落ち着いた生徒たちは、この時になって初めてほかの乗客がいないことに気が付くのだった。
「なぜ誰もいないんだ?」
「もしかして、みんな逃げ出してしまって、私たちは船にとり残されたの?」
生徒たちの不安が高まるなか、桐人が声を張り上げる。
「とにかく、船内を見回ってみよう」
その言葉にしたがって、生徒たちは船内を探索するのだった。
リーダーになった桐人は、生徒たちを二つのグループに分ける。
「僕たちは上層階を探索する。君たちは下層階を見てくれ」
そういうと、桐人は自分に親しいカースト上位の生徒たちを引き連れて上層階に向かう。
甲板や通路はところどころ非常灯がついているだけで、薄暗い様子だった。
「うわー。雰囲気あるー。バズりそう」
派手系美少女の美幸は喜んでスマホで写真を撮っているが、他の生徒たちは怯えていた。
「ね、ねえ、なんで廊下の電気がつかないんだろう」
怯えた様子の真理亜が、桐人の右腕にすがりつく。
「な、なんか不気味ですね。まるで幽霊船みたい」
奈美も怖そうな顔をして、組んでいる左腕にしがみついた。
「ふ、二人とも怖がり過ぎよ」
小百合が強がりながらも、桐人の裾をつかむ。
「皆、大丈夫だよ。僕がついている」
イケメン美少年、桐人は顔をにやけさせながら三人を勇気づけた。
「チッ。気に入らねえな」
「ああ。こんな状況なのにイチャイチャしやがって」
それをみた男子生徒は、妬ましげな視線で桐人を見る。勇人というサンドバックを失い、部屋に三日も閉じ込められていた彼らは、思うようにならない現状にイライラしていた。
「ま、まあそう言うなよ。あいつには借りがあることだしな」
桐人に弱みを握られている史郎は、そういって仲間をなだめる。彼らも勇人をリンチして海に落としてしまったことを事故にしてもらったという負い目があるので、表面上不満はおさまった。
「あ、船員がいるよ」
操舵室の窓をみた真理亜が声をあげる。窓ガラスには、船員服を着た男の姿が見えた。
「これで助かった!」
歓声をあげて操舵室に入ろうとする生徒たちを、桐人が止めた。
「待て。怪しいぞ。ほかの船員や乗客が一人も残っていないのに、なんで奴だけいるんだ。奴はもしかしたら、この異常な状況の原因かもしれない」
桐人に警告されて、生徒たちの足がとまる。
「なら、どうしたらいいのでしょう」
奈美に言われて、桐人は一人の少年を指名した。
「史郎君。中に入って奴を捕らえてくれ」
「え?なんで俺が?」
指名された史郎は、不満そうな顔をする。
「何びびっているのよ。さっさと行きなさいよ」
「普段から、俺は強いんだって威張っていたじゃないですか」
「あんたなんかそれくらいしか役に立たないでしょ」
桐人を取り巻く三人は、そういって史郎を笑った。
「君が一番適任だろ。それとも本当に怖がっているのか?」
桐人に挑発されて、史郎は後にひけなくなった。
「ふ、ふん。みてろよ。おい、てめえらもこい」
史郎は自分の取り巻きを引き連れて、ドアを開けて部屋に乱入する。そして驚いた顔をする若い船員に飛び掛かった。
「ま、待て。なんのつもりだ?」
「うるせえ!」
史郎をはじめとする不良グルーフは、その船員をボコボコに殴りつけ、縛り上げる。
船員が動けなくなったのを確認して、桐人たちが部屋に入ってきた。
「お前は誰だ?なんでこの船にはお前しか残っていないんだ?」
その問いかけに、まだ若いその船員は浦島誠也と名乗り、今までのことを話した。
「すると、乗客や船員は僕たちを残して、逃げ出したっていうのか?」
「そ、そうだ」
そう答える誠也に、生徒たちの怒りが爆発した。
「ふざけんな!」
「そうよ。大人のくせに、私たちを見捨てて逃げだかなんて。パパにいって首にしてもらうんだからね!」
史郎が怒鳴り声をあげ、真理亜がキンキン声で責め立てる。ほかの生徒たちも、誠也という責め立てる対象を見つけたことで次々に罵声を浴びせていた。
誠也はしばらくだまって耐えていたが、彼らが怒鳴り疲れるのを待って告げる。
「言い訳はしない。だけど船員としての職務は果たそうと思う。ロープを解いてくれ。なんとかして脱出の方法を探ってみるから」
「……いいだろう。だけど、一刻も早くそうしてくれ。さもないと、僕たちは何をするかわからないからな」
冷たい顔で脅しつける桐人に、誠也は恐怖を感じるのだった。
「キャッ!」
いきなり窓から激しい雷光が差し込んできて、続いてドドーンという音が響き渡る。
客船の下層階を探索していた生徒たちは、思わずその場にしゃがみこんだ。
「……どうやら、雷がおちたみたいですね」
下位グループを指揮していた委員長の金谷姫子は、恐ろしそうに外をみる。激しい暴風雨が続いており、時折稲妻が空を奔るのが見えた。
「き、気味がわるいにゃ」
「……ホラー映画みたい。ゾクゾクする」
猫屋敷美亜と幽谷玲も怖そうに身をすくめる。ただでさえ彼らが今いるところは煌びやかで清潔な上層階とちがい、船員や三等乗客の船室が配置されている下層階はゴミゴミしていて不潔である。彼らは不気味な雰囲気に怯えながら進んでいった。
やがて倉庫エリアを過ぎて、船尾近くのエンジンルームにたどり着いた。
「……何かおかしくないですか?」
様子をみて回っていた姫子がぽつりとつぶやいた。
「何がおかしいんだにゃ?」
「思い返してみてください。私たちが部屋に閉じ込められていた間、火災を報知する防災サイレンがなっていたでしょう」
「……確かに、うるさかった」
美亜と玲もうなずく。
「でも、ここまで見てまわってもどこにも火災の跡がありません。乗客も船員もいないということは、みんな逃げ出すほどの火災があったはずです。それなのに、無傷ということは……」
姫子に言われて、生徒たちは自分たちがまきこまれた異常事態にどんどん不安になっていった。
船底に近づいた時、美亜が声をあげる。
「あっ。あそこの窓が開いているにゃ」
「……縄梯子が降りている」
玲が近づいて外を見下ろす。すると、縄梯子の先に一人の少年が縋り付いているのが見えた。
「勇人さん?」
「だ、大丈夫かにゃ?」
「……驚いた」
三人は勇人の姿を確認して、驚く。
「と、とにかく、助けないと」
生徒全員で力を合わせて縄梯子を引き上げた。
「勇人さん?大丈夫?目を覚まして!」
「起きるにゃ!」
「……勇人、死んではダメ」
気絶している勇人を、生徒たちは必死に介抱するのだった。
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